第69話:帯刀が出来る事
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それから少し経って、凪がストレッチャーに乗せられたまま処置室から出てきた。
眠ってはいるが、疲れもあるせいか顔色が悪い。
「凪!」
帯刀は凪に駆け寄り彼女の手を握った。
そして彼女の顔を確認すると再び椅子に腰掛け、扉の上のランプを見つめ始めた。
その行動に毛利は首を傾げた。
「帯刀。樹神に付き添わなくていいのか?」
「……まずはお前の妹の無事を確認してからだ」
「だが、心配なんだろ?」
問われて帯刀の肩が僅かに揺れたが、赤々と点灯しているランプを睨むように見つめて動こうとしない。
「俺はあいつの代わりに妹の無事を確認する。黙って祈ってろ」
絞り出すような言った帯刀のそのセリフに、付き添っていた凪の父親は驚いたように彼を見たが、そのまま苦笑して凪についていった。
沈黙が流れる。
痛いくらいに静まり返ったそこで、彼らはただただランプを祈るように見つめていた。そしてランプが消えるのと同時に全員が扉の前に集まった。
担当医が姿を現し無事を告げると、全員が安堵の吐息を洩らし、帯刀はそのまま踵を返して凪の病室に急いだ。
「凪っ!」
勢いよくドアが開かれ、驚く凪の父親の存在に気付かないまま彼女のベッドサイドに近付き、点滴の入ってない方の手を握り締めた。
「毛利の妹は大丈夫だったぞ!」
それが聞こえたのか、眠っている筈の凪の口元に笑みが浮かんだ。
「もう大丈夫だ。大丈夫だからな。安心して眠れ」
帯刀が凪の髪を撫でながらそう言うのを見ていた凪の父親は、戸惑いを隠せずにいた。
(凪の恋人なのだろうか?)
本来なら、挨拶一つしない帯刀に怒るところなのかもしれない。
だが、不思議と怒れなかった。
凪を優しく見つめ手を握り締める様子は、彼にとって凪がどれほど大切なのかが伝わる。
それでも凪が処置室から出た時には、病室へ付き添う事はしなかった。
汗だくで駆け付け、毛利に殴りかかろうとしておきながらそんな行動を取った彼に素直に驚いた。
だが、その理由は今、完全に理解出来た。
彼は凪が一番知りたいと思っている事を真っ先に伝えたかったのだ。
凪の父親が目に入らないくらい心配しているのに、凪がしたいと思っている事を凪の代わりにやったのだ。
自分の感情より凪の気持ちを優先させる。
そんな男に怒れるわけがない。
凪の父親はなんとも言えない表情を浮かべて、そっと病室を出て行った。
☆
真夜中に目覚めると、帯刀の瞳が目の前にあった。
「た、帯刀先輩!?え?な、何故!?」
思いきり驚く凪に帯刀は苦笑して頭を撫でた。
「毛利の妹の容態は落ち着いてるそうだ」
それを聞いて、凪は安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。早く良くなってそして移植も成功するといいですね」
「そうだな。取り敢えず今はお前もゆっくり休め」
いつになく優しい口調の帯刀に、凪は笑って頷いた。
「そして、いい機会だからお前はそのまま入院していろ」
そう言われ、凪は首を左右に振ったが帯刀は譲らなかった。
「膝が痛むのだろう?」
凪は頷きはしたが、入院は拒否した。
「お前の考えている事位解っている。伊藤の件を含めて、暫く一人で色々調べたい。
言いたい事は解るな?」
一体いつの間に調べたのだろう。
凪は報告する前に病院へ行ったのだから、調べる時間はないはずだ。
それとも別件からだろうか?
例え別件でも、帯刀なら伊藤の進学の件にもすぐに辿り着くだろう。
それに、これから帯刀がやろうとしている事はなんとなく理解出来た。
学園の人間やパソコンなどから情報を集め、少しでもこちらが有利に立とうとしているのだ。
凪が動き回る事によって、情報集めに支障をきたす可能性を懸念している。
邪魔だと言われている気がして、凪の表情は暗くなっていく。
それを察した帯刀が、「阿呆」と優しく言った。
「一つ課題を出してやる。
お前が入院すれば、奴等は油断する。奴等は何故お前に拘るのか?ゆっくり考えろ」
帯刀がそう言った時、おもむろに入口の方からあくびが聞こえてきた。
驚いて二人がそちらを見ると、凪の父親がいた。
「お、お父さん!?いつからそこに!?」
「……ずっといたんだがね」
固まってる帯刀に苦笑すると、凪の父親は彼女に眠るように言って帯刀を廊下に連れ出した。




