おまけ2:作者に物申す!~帯刀恭介の場合~
眠ろうとした頃に彼はよく現れる。
しかも、初めは決まって無言だ。
冷たい視線を浴びせながら帯刀は脅すように話しかけるのだ。
「……今夜は何の用よ」
「俺の設定以外の何がある?」
これだ。
どうやらカテゴリー人外にされたのが余程気にくわないらしい。
「初稿では、天才で絶世の美男子だけだったはずだ。
それだというのに、女だけでなく男にも犯された経験を持つだと?更に誘惑の能力とは、ね。
笑わせてくれるな?」
笑ってない。笑ってないよ(>_<。)
「凪が拐われたシーンは浩樹が大活躍だったけど、それを恭介くんにしたら行き詰まったんだもん。
理性が吹っ飛ぶくらい怒る方が悪い。設定変える側の身になって欲しいよ」
「好きな女が犯されそうになったら普通ぶちギレるのではないのか?
それが理解出来ないというのならば、貴様の脳味噌が腐ってる事を公言しているものだな」
これだよ。
仮にも親に向かって、能無し扱いって酷くないですか?
「言っとくけど、登場人物の中じゃ一番美味しい立場だと思うんだけど?
しかも初稿は浩樹がヒーローだったのに君がヒーローになったというのに何の不満があるのさ?」
その点は満足しているらしい。
微かにだけど、喜んでいる雰囲気がある。
「あの恋愛に憧れるだけの男が本来の恋に気付くわけがない。
それを俺に切り替えた点は確かに誉めてやるべき点だな」
……全然誉められている気がしないのは私だけだろうか?
そう感じた瞬間、妙な違和感を感じ、私は首を傾げた。
「ね、ねぇ。恭介くん……浩樹って恋愛に憧れてるの?私はただ、浩樹は草食系なだけか、と……」
私がそう聞いた瞬間、帯刀は目を見開いて暫く私を見ると、心底呆れたように溜息を洩らした。
「仮にも親が何故理解していない?あの男の部屋を見なかったのか?」
「私が知ってるのは、スポーツ雑誌とかエロ本とかエロサイトをお宝扱いしているのしか見てないけど」
すると、帯刀は私に手帳を一冊手渡した。
表紙は分厚い紙で加工されたポケットタイプのそれは一見古書のようだが、マグネット式の止めが付いていて、持ち運んでもページが捲れないように固定されている。
「まあ、中を読んでみろ。楽しいぞ」
意味ありげに笑う帯刀を一瞥し、私はマグネットを外してそれを読んでみた。
『麗らかな春。
緑と花の香りが胸を擽る。
何気なく隣を見ると、そこには彼女が笑っていた。
花の妖精のような彼女。
彼女が笑うと周囲の花も笑いだし、色味を増していく。
ああ、俺のミューズ。
彼女の祝福を受け、俺の心は満たされる。
この先も彼女といれば俺はなんでも出来る。
今はまだ、出逢う事はない。
だが、彼女に逢えばすぐに感じられる。
彼女はただ一人しかいないのだから
だから待っていておくれ』
「……」
私は何も言えなくなった。
確かに筆跡は浩樹のものだ。
だが、だけど……文面は浩樹のモノとは思えない。
しかも、小学生でも書けるのではと思える文章力。
稚拙としか言いようがない。
これはポエム……なのか?いや、単なる夢日記なのか?
「な?面白いだろう?」
帯刀は本当に楽しそうに笑った。
と、その瞬間、私の部屋のドアが思いきり開かれた。
驚いてそちらを見ると、浩樹が口をパクパクさせて私の手にある手帳を指差している。
「きょきょきょ、恭介~~っっ!!」
全身を朱に染めながら私の手から手帳を奪うと、それを内ポケットに収めた。
「五月蝿いぞ。浩樹」
鼓膜が破けると苦情を言う帯刀の胸ぐらに浩樹は掴みかかった。
「何故これが作者の手にある!?」
「そりゃあ作者にお前の素顔を知ってもらおうという、俺の心遣いだ」
「よ、余計なお世話だ!!」
気遣いではなく、遊んでるの間違いだよな。
私がそう苦笑してる間に、帯刀は浩樹の腕から逃れた。
「で?出逢えたのか?そのミューズとやらには……」
帯刀にそう言われた瞬間、浩樹の動きは止まり、気まずそうに目を泳がせた。
その様子に、帯刀は「ほほう」と目を細めて私に指示を出した。
「作者。浩樹が俺に近付かないようガードしろ。お得意の中国武術で」
「無理だから!てか、お得意じゃない!!」
浩樹は柔道有段者。私は拳法2段だ、2段!!
せめて4段ぐらいないと、柔道有段者を抑えられる訳がない。
しかも私より30cmも背が高いんだぞ!?浩樹は!!
なんて無謀な事をと帯刀を見ると、彼はいつの間にか浩樹のポケットから手帳を抜き取り、先程のページを開いていた。
「きょ、恭介!?何を……!」
慌てる浩樹を完全に無視して、帯刀はそのページをビリビリに破き、灰皿に入れてライターでそれを燃やした。
「「アッ!」」
私と浩樹の声に反応するかのようにそれは揺らめく炎となり、みるみる黒い灰へと変化していった。
「恭介~~!何をするんだお前は!?」
「当然の権利だ」
怒る浩樹に平然と帯刀は答えて、浩樹を睨み付けた。
「凪に声を掛けたのはこういう事だったわけだな?」
言われて、浩樹は目を逸らした。
こ、怖いです。恭介くん……
「越智じゃあるまいし、初対面、しかも異性に気軽に声を掛けるお前じゃないもんなぁ?」
浩樹はすっかり怒りを鎮め、変わりに狼狽の色で不審な動きをしている。
「はっきり言っておく。
凪は『俺』のだ。もし、邪な想いでアイツに近付いたら貴様のお宝は全てこうなると思え」
帯刀はそう言い捨てると、私の部屋から出ていった。
私は落ち込む浩樹の背を撫でた。
「……作者。俺が初稿では凪の彼氏になる予定だったのになんでここまでされるんだ?」
浩樹は恨めしそうに私を睨む。
うん、確かに可哀想かもしれない。
私は浩樹を宥めながら心に誓った。
『帯刀にはこの先も苦難の道を与えてやろう』




