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第三十二話 失態

9/16 誤字修正

 敵ARPSと遭遇したキースは、戦闘開始直後より押される展開を強いられることとなった。


「くそっ、好き放題撃ちやがって」

 キースは二機の敵に挟まれた状況から逃れようと、遮蔽を取っていた木陰から機体を後退させた。するとその瞬間を逃さず、敵ARPSは機体を隠していた幹からアサルトライフルの銃口を覗かせると、多量の銃弾を放って来た。

「ちっ」

 キースは咄嗟に左腕に持つシールドで受けていると、

――マスター、ミサイルが来ます!!――

 アデリナから間髪入れずに警告が入った。

「チャフ発射っ」

――了解です。これで残りのチャフは七回になります――

 機体から撒かれた妨害用フィルムの破片が頭上の青空にキラキラと舞い散り、樹氷からも陽光を浴びて、まるで映画のワンシーンの様な光景が作り出される中、それを打ち壊す様に一発のミサイルが唸りを上げてチャフの雲を突き破って行く。


 今回の対戦相手となるキングゴートは二機が上手く連携を取りつつ、遭遇直後からスヴァローグに対して攻勢を掛けて来た。

 アサルトライフルを所持する機体が注意を引き付け、その隙を突きもう一機がミサイルポッドで攻撃を仕掛ける。そのミサイルに対応していると、今度は死角から銃弾が襲って来ると言う、悪循環に陥っている。

 両機共、今回シールドを装備していないが、キングゴートの特徴である一回り小さな頭部と重厚な胸部装甲のお陰で、あまり不利とはなっていない。

 キングゴートとは以前に一度やり合っているが、その時もシールドが無い状態の中、一対一で苦戦し、何とか辛勝を得ている。

 それが二対一と言う不利な条件から、キースは開始前より苦戦を覚悟していた。それでも以前の対戦からは戦闘を重ねて経験を積み、時間稼ぎ位はと言う思いがあった。その自信からか、ここまで一方的に追い込まれる展開になるとは想像だにしていなかった。


 キースはチャフの効果を上げる為、障害となる遮蔽を取っていた樹より僅かに離れると、すぐさまアサルトライフルの銃撃が飛んで来た。何発かの銃弾が装甲に弾かれ、隣に聳え立つ木の樹皮を削ぎ落す。

 何度も同じ攻撃を受け続けたことで、敵の攻撃パターンは覚えたものの、打破する糸口が未だ一向に見えない。

 今回は両機共BP(バックパック)を装備しているので、弾切れを起こすにはまだまだ時間が掛かる。もっとも、そんな状態に陥る前にキースが耐えきれなくなり、仕留められる方が早いだろう。

 そんな思いからか、徐々に余裕も失われていき、次第に焦りを感じ始めた。


「はあ、はあ……」

 キースは機体を木陰へと潜ませると、神経をすり減らされた身体に一時の休息を与える。

――マスター、注意して下さい。当初の予定より、エレノア様達の戦域へと近づいています――

「はあ、わ、分かった」

 キースに与えられた役目は倒すことでは無く、時間を稼ぐこと。それともう一つ重要なのが、敵の合流を阻止することだ。

 しかし、あまりの一方的な展開から主導権を相手に握られ続け、当初想定していた戦闘区域からは既に逸脱しており、エレノア達の戦域へと踏み込みつつあった。

 いや、正確には敵の連携により、上手く追い込まれ、誘導されたと言うのが正しいだろう。

 ただキース自身何もせず、追い込まれた訳では無い。

 敵の意図に気付いた時から、何度か反抗を試みたのだが、その度に二機の巧みな連携によって潰されてしまったのだ。

 もう何度目となるのか、キースは何とかこの状況を打開しようと、センサーで現状を確認する。

 左斜め前方50m先にはアサルトライフル持ちが、右真横160m先にミサイルポッド持ちが位置しており、また上手く挟まれてしまっている。

「さてと、どうするか……」

 キースの置かれた立場からすると、非常に難しい対応を迫られることになる。

 挟み込まれた状況を突破するだけなら、然程難しいことではない。上手く包囲を抜け出す自信もある。但し、その際敵ARPSの一機は間違いなく逃し、味方と合流されてしまうだろう。それでは意味は無い。

「どちらにしろ、こちらから仕掛けないとジリ貧になるだけか」

 とは言え、ほぼ手詰まりな状況では、それ程多くの手段は残されていない。

 それでも何とかギリギリまで粘るべく、方法を模索しようとするも、またしても敵に先手を取られる。

――マスター、敵ARPSに動きがあります――

 アデリナの声にキースはセンサーを確認すると、ミサイルポッド持ちが右手側より、時計回りでスヴァローグの後方へと回り込もうとしていた。

 キースは後手に回ったことに対して苦々しく思うも、すぐに対処するべく機体を動かす。

 スヴァローグは前方にいるアサルトライフル持ちを牽制しつつ、ミサイルポッド持ちを視界に捉えるべく、移動して行く。

 疎らに生えた木々を遮蔽に使い、スキーモービルを履いたスヴァローグは滑る様に木から木へと素早く渡る。

 時折、左手側から散発的に銃撃を加えられるが、シールドを装着する側からなことが幸いし、損傷も殆ど受けずにミサイルポッド持ちの姿を捉えた。

 すると、一瞬前方にキラッと光るものが視界に映る。

「――ッ、チャフ発射!!」

 キースは思考する間も惜しむ様に、反射的にアデリナへと指示を出す。

 指示を受け、機体より撒かれた妨害用フィルムの破片が舞い散る中、煙を引いたミサイルが自機のすぐ傍を通過する。

 目標から逸れたミサイルはスヴァローグの背後の木へと当たり、氷雪と木の破片が入り混じった爆風が機体の背に浴びせられる。キースはその中でも敵を捕らえようと前方を窺った瞬間、アデリナの叫ぶ声が操縦席に響いた。

――マスターっ、背後を敵ARPSが抜けて行きます!!――

 その声を聞き、キースは今度こそ歯噛みをする。

「やられた……」

 キースは自分がまんまと敵に嵌められたことを悟った。

 ミサイルポッド持ちに反応すれば、アサルトライフル持ちが背後を抜け、反応しなければそのままミサイルポッド持ちが抜けて行く。

 敵はキースがどう対応しようと関係無い、すでに詰んだ状態に追い込まれていたのだ。

「くそっ、……アデリナ、エレノアに通信を繋げてくれ」

――……了解です――

 キースは自身の犯した失態を悔む前に、戦闘中であろう味方へこの件の報告を入れる。

――アデリナ様と繋がります――

「なにっ、こっちは忙しいのよ!!」

 エレノアの声に混じり、スピーカーからは銃声も聞こえて来る。

「済まない。……一機取り逃がした。アサルトライフル持ちがそちらへと向かっている」

「……そう、分かったわ。じゃあ、さっさとこいつを倒さなきゃねっ」

 そう言うと、唐突に通信が切られる。

 キースは気持ちを切り替える様に、ふうっと大きく息を吐くと前方を睨みつける。

「アデリナ、さっさと敵を倒して救援に向かうぞっ!!」

――了解です!!――

 スヴァローグは敵ARPSに向かい、猛然と進んで行く。

 僅かに膝を曲げると、うねる雪面に合わせてスキーモービルの板を操り、機体後方から上空へと雪煙を噴出させながら疾走する。

 敵へと続く進路上にある無数の木々を、右に左にと縫う様に躱しながら、攻撃の隙を与えず距離を一気に詰める。

 敵であるキングゴートも盛んに位置を変え、スヴァローグへと攻撃の機会を窺うが、辺りを取り囲む数多くの木に射線を阻まれ、思う様にミサイルを放つことが出来ない。今までは僚機によってサポートが得られていたが、消え去ったことでそのアドバンテージを失った。

 射程圏内に敵を捉えると、キースはキングゴートを中心に据え、円を描く様に周囲を回りながら銃撃を開始した。

 ミサイルポッドを持ったキングゴートの脚部装備はスノーシューの為、ローラー走行での移動は出来ない。その為、キースが周囲を高速で移動していても、脱出をする術を持っていない。

 敵ARPSは四方から銃撃を浴びながらも、スヴァローグが正面へと回り込んだ瞬間を狙い、ミサイルを撃ち込んで来る。

 その都度、キースはチャフを使用しつつ、上手く木で遮蔽を取って回避する。

 キースは側面や背面に回り込んだ時を狙い、徐々に頭部へと銃弾を集め出した。

 キングゴートの頭部は、他のARPSより一回り小さな構造となっているが、今回敵を中心に据えたことにより、通常は狙い難い頭部であっても固定された的の様な状態になっている。

 頭部へ受ける銃弾が、段々と増えるに連れ、敵ARPSの挙動に変化が生まれ出す。

 スヴァローグの移動速度に付いて来れないなりにも、何とか正面に捉えようとしていた動きが少しずつ減って来た。

 そうなると、後は一方的な展開となる。

 敵の攻撃機会が減る一方、こちらは銃弾が当たる程に有利に働いていく。

 敵ARPSの脚が止まったと同時に、キースは背後を取ると、止めとばかりに頭部に三点バーストを撃ち込んだ。

 銃弾を受けたキングゴートは、暫くその場に立ち尽くしていたが、ゆっくりとミサイルポッドを持つ右手側から倒れていった。

「アデリナ、エレノア達の居場所は?」

――方位3-1-1、距離1.4km。現在、敵ARPS三機と交戦中です――

「よしっ、すぐに向かうぞ!!」

――了解です、マスター――

 キースはエレノア達が交戦している地点へと、失態を回復すべくスヴァローグで駆け出した。




 敵ARPSの接近を待つエレノアは、一人木陰に潜んでいた。

 目の前に(そび)え立つ一際大きな木は、その幹の太さが5mにも達する様な立派な老木だ。

 鬱蒼とした森林の浅い場所には不釣り合いな大樹は、街道から眺めても森から頭一つ分飛び出る高さを誇る。

 カグツチの全身をすっぽりと隠せる幹を遮蔽に使い、エレノアは焦れる様にその時を待っている。

「なんか、来るのが遅い気がする……」

 エレノアが不満げに、ぼそりとぼやいた言葉にGARP(ガープ)は反応した。

――恐らく、ミサイル持ちの僚機と行軍速度を合わせているのだろう――

 GARP(ガープ)は先に戦端を開いたアデリナからの情報と併せて、推測される状況を伝える。

「エリーちゃん、こっちのセンサーでも姿を捉えたから、後十分って所ね」

 連携を取る為に、通信を共有にしているディートリンデからもフォローが入れられる。

 カグツチと比べ、スキルを使用することで二倍以上の索敵範囲を持つシュヴァルディアのセンサーは、こちらへと近づいて来る二機の姿を映し出していた。

 アサルトライフル持ちであろう先行する機体が、スノーシューを履く僚機との距離を気にする様に、時折立ち止まっては相手を待つ様な動きを見せている。

「むー、早く来ーい」

 痺れを切らしつつも、エレノアはじっと耐えていた。

 そもそもエレノアの性格からして、待つと言うことに向いているとは到底言えない。もう幾度となく経験をしても、一向に慣れることが出来ずにいる。

 エレノアの後方に位置し、同様に潜伏しているディートリンデは、焦れて飛び出して行かないかとハラハラと見守っていた。

――全くっ、もう少し落ち着けば前衛として一皮剥けそうなのに。勿体無い……――

 呆れた様子を見せつつも、ダイアナはエレノアに期待を掛けている。ラサーラ時代、幾人もの戦闘を間近で見て来たダイアナからすると、磨けば確実に光るのが分かるだけに、ついつい口を出してしまう。

「まあね。でも、そこがエリーちゃんの良さでもあるから」

 ディートリンデとしてはダイアナの言い分も理解出来るが、なるべくエレノアの個性を潰したくないとの思いから、複雑な思いで返事を返す。


 後方の二人からそんな期待を掛けられているとも露知らず、エレノアは飛び出したい欲求をその身に蓄えながら、身動きすらせずにじっと耐え忍んでいた。

――こちらのセンサーでも捉えた。もうすぐ来るぞっ――

 GARP(ガープ)の報告を聞き、エレノアの口元が僅かに緩む。

 敵は予測通り、スキーモービルを履いたアサルトライフル持ちが、単機で僅かに先行する形で現れた。

 森の浅い場所とは言え、多くの木々が立ち並び、それ程長い距離を見通すことは出来ない。

 センサー上では、先行機より250m程後方の位置に付くミサイルポッド持ちの姿は、ここからでは捉えられないでいた。

 しかし、エレノアの脳裏にはそんな杞憂は微塵も無く、ただひたすらにスタートとなる合図だけに集中していた。


 その合図となる初撃のタイミングを、ディートリンデは静かに待っていた。

 敵ARPSは必ず僚機と一定距離離れると、停止して待つと言うことをセンサー上で何度も確認している。

 更にジャミングなどによる隠蔽が出来ない為、敵のセンサーでもディートリンデ達二機の姿を捉えられていることは予測は付く。ならば、必ず二機揃った状態で仕掛けて来るだろう。

 ディートリンデのモニターには木々の僅かな隙間を縫い、ダイアナが予測した敵の待機地点を捉えていた。

 その狭まった視界一面が、敵ARPSの姿で埋め尽くされた。

――ディー、いつでも良いわよ――

 ディートリンデは予測通りに停止した敵ARPSに対し、十字照準線(クロスヘア)を合わせると、一気に引き金を引き絞る。

 シュヴァルディアより放たれた弾丸は、インサレーションカバーを引き裂いて敵ARPSの左膝を撃ち抜いた。


 エレノアはスタートを待つ陸上選手の様に、合図を聞き逃すまいと一心に集中していた。

 そこに一発の銃声が森の中に鳴り響く。

――GO!!――

 戦果を確認したGARP(ガープ)の合図を受け、エレノアはギリギリまで引き絞られた弓から放たれた矢の如く、カグツチで飛び出した。

 木陰より飛び出し、視界に映った敵ARPSの姿は、膝を撃ち抜かれ、引き裂かれたカバーから火花が散り、機体を左へと傾けていた。

 敵もすぐに飛び出して来たカグツチに気付き、銃撃を加えて来るが、その銃弾は損傷の影響を受けて左へと逸れていく。

 スキーモービルで疾走するカグツチは、降り積もった雪でうねる雪面を上手く利用して、更に機体を加速させる。

 出来るだけ遮蔽として利用する為に、エレノアは機体が擦れるばかりに木々を掠める様なラインを取っていく。

 その為、通過時の振動が木に伝わり、枝より落ちた雪が通り過ぎた後に、所々山を築いている。

「いただきっ!!」

 エレノアは敵ARPSの右手側から背後に上手く回り込むと、右手のナックルを振り被る。

 敵の背中へと打ち下ろそうと左足で踏み込み、機体速度が落ちた瞬間、押し留める声が操縦席に響いた。

――エレノアっ、そのまま駆け抜けろ!!――

 GARP(ガープ)の怒鳴る様な声に一瞬驚くも、エレノアは振り上げたことにより左半身となった機体を利用して、左肩でのタックルを敵の背中に当てると、そのまま駆け抜けた。

 すると、カグツチを追う形で、背後からミサイルが飛んで来た。

 カグツチにはチャフが装備されていない。その為、執拗に追いかけて来るミサイルから逃れる術は限られている。

 そんな切羽詰まった状況の中、一本の通信が入る。

――エレノア、キース殿から至急の通信が入った。繋ぐぞ――

「なにっ、こっちは忙しいのよ!!」

 エレノアは繋がれた通信に向かい吠えると、左脚のスキーモービルからターンピックを撃ち込み、左へと急旋回をした。速度の乗った機体に負け、ズルズルと打ち込まれた杭が引き摺られながらも、強引な反転により襲って来る横Gにエレノアは一瞬苦悶の表情を浮かべる。

 流石にホーミング機能であっても、この急旋回には付いて来れず、そのまま真直ぐに飛んで行くと木に当たって四散をした。

「済まない。……一機取り逃がした。アサルトライフル持ちがそちらへと向かっている」

 意気消沈したキースの声がスピーカーから流れる。

「……そう、分かったわ。じゃあ、さっさとこいつを倒さなきゃねっ」

 何でもないかの様に、エレノアはあっさり請け負うと通信を切った。

「ごめんね、リンちゃん。後一機増えるって……」

 通信を共有にしていたディートリンデにも、今の会話は伝わってる。

「元々キース君の負担は大きかったから、しょうがないわよ」

 機体数に差がある以上、どこかに過度の負担が掛かるのは自明の理である。

 その役目を適任でないと分かっていても、キースに担当させねばならない所が、今のチームの限界でもあった。

「そうだね。じゃあ、もう一息ガンバロー」

「ええ」

 くすくすと笑いを零すディートリンデとの通信を終えると、すぐに飛び出そうとするエレノアをGARP(ガープ)が引き留める。

――もう少しだけ待てっ。すぐに牽制が入る――

「でもっ」

 焦った様子を見せるエレノアを落ち着かせる様に、GARP(ガープ)は諭す。

――今飛び出した所で、先程と同じことの繰り返しになるだけだぞ――

「…………」

 逸る気持ちを抑えようと、エレノアは強く拳を握りしめている。

 だが、それ程時間は掛からなかった。

 体感的にはかなりの時間待った感じだが、実際には数十秒にも満たない。

――牽制が始まったぞっ――

 その言葉を受けると、エレノアは返事もせずに敵へと飛び出して行った。

 視界に入って来た敵の姿は、前面が雪に塗れていた状態だった。

――どうやら、タックルを受けた際に転倒した様だな――

 その滑稽な姿に、GARP(ガープ)は皮肉ること無く、冷静に分析を下すと共に警告を入れて来る。

――報告にあった敵を確認した。急げっ、あと数分もせずに接触するぞ――

 相対するレーシィ・セーミは二度の攻撃を受け、完全に機動力を削がれていた。

 接近して来るカグツチに対して、銃撃を仕掛けて来るが、一向に立ち位置を変えないでいる。

 そのことに気付いたエレノアは急ぎたい気持ちを必死に抑え、確実に仕留めるべく、真直ぐに敵へと向かっていた進路を回り込む様なものへと変えた。

 なるべく敵に対して機体を晒さず、木で遮蔽を取れる様な進路を選びながら、徐々に近づいて行く。

 その姿は、敵の視界からは木々の間を雪煙が移って行く様に見える。

 敵ARPSは必死に正面で姿を捉えようとするが、片脚を破損した機体は思う様に動いてはくれない。

 エレノアが2/3程周回して敵へと差し迫った時、突如側面から無防備な状態で銃撃を受けた。

 まだ距離はあるものの、エレノア達の方へと向かって来ていたキングゴートからの銃撃に晒され、攻撃の中断を余儀なくされた。

「ちっ、もうちょっとなのに……」

 中断した、その僅かな隙を突かれ、エレノアは正面からも銃撃を受ける。

 エレノアは咄嗟に左手の盾を構えて防ごうとするも、全ては防ぎきれずに被弾を許す。

 少しでもダメージを抑えるべく、エレノアはすぐにローラー走行による後退を掛けると、一旦カグツチを近くの木に潜ませた。

――損傷率31%、思った以上に大きいな――

 久々に大きな損傷を受けたが、それ程二人に焦りは見えない。

 数では三機に増えているが、その内の一機は機動力を奪っている。

 一機ずつ仕留めて行けばと、GARP(ガープ)はその認識をエレノアと確認しようとした時、割り込んで来たキングゴートが思わぬ行動を取った。

――拙いっ。エレノア、敵が街道に向かって行くぞ!!――

 てっきり僚機と合流するかと思いきや、キングゴートは止まることなく、そのまま街道を目指して走り去って行く。

「――ッ」

 すぐに後を追おうとするエレノアを足止める為に、半壊となった敵ARPSからカグツチ周辺への銃撃が始まる。

「どうしよ……」

 反射的な行動を阻止され、エレノアに一瞬の迷いが生じた。

 すると、一発の銃弾が半壊したレーシィ・セーミの足下に炸裂した。

「エリーちゃん、行って!!」

 状況を認識したディートリンデが担当する敵を捨て、足止めを行っていた機体に牽制を入れた。

「ありがとー」

 その一瞬生まれた僅かな隙を逃さず、カグツチは敵を追い掛けて、街道へと向かって疾走する。


 ディートリンデは牽制射撃による反動を立て直した直後、すぐさま危機に晒されることになった。

――ディー、ミサイル接近!!――

「チャフ発射っ」

 接近するミサイルに対し、シュヴァルディアから急かす様に妨害用フィルムの破片が撒かれるが、対応が遅れた為十分な効果が得られず、機体を掠める様に通過するとすぐ近くで破裂した。

――損傷率18%、段々蓄積されて来たから、何発も喰らうと拙いわよ――

 ミサイル持ちと相対してから直撃も無く、全て避けて来たとは言え、全くの無傷と言う訳にはいかなかった。

 副次効果である岩や木の破片が入り混じった爆風のダメージが、ボディーブローの様に徐々に効いて来た。

 ディートリンデは一旦射線を外す様に、近くにある木へと機体を潜ませると、この先の展開を思案し始める。

 一機はすでに半壊しているとは言え、未だ攻撃は可能な状態の為、二機で連携を取られると非常に厄介となる。

 下手に追い込まれない様に、一旦距離を取ろうとするも、その必要はなかった。

「リンデさんっ、俺が注意を引きますので、その隙に仕留めて下さい!!」

 ミサイル持ちを倒したスヴァローグが、ようやくディートリンデと合流を果たす。

 キースが加わったことで機体数が敵と並び、戦況はディートリンデ達の方へと一気に傾いた。

 スヴァローグがミサイル持ちの周りを移動しながら、盛んに銃撃を仕掛けることで、敵の標的対象がディートリンデより移った。

 今までシュヴァルディアへと飛んで来ていたミサイルが、スヴァローグへと放たれる。

 二機のARPSは交戦しながら、徐々に戦場が移動して行く。

「ダイアナ、狙撃ポイントの選定を急いで!!」

――はいはい、もう開始しているわよ――

 モニターに小さく映し出されたダイアナからの指示を元に、ディートリンデは移動を開始した。

 狙撃位置はすぐさまアデリナにも送られ、その指示に従いキースも敵を誘導して行く。

 スノーシューを装着するシュヴァルディアは、ローラー走行を行うことが出来ない。

 刻々と戦場を移す二機のARPSを追うには先の展開を予測し、先回りをしなければならない。

 構造上歩行移動を苦手とするシュヴァルディアを操作し、必死に雪上を二本の脚で駆けて行く。

 スノーシューを履くことで通常よりも二回り程広がった足底は、雪上でも浮力を得られた代わりに、通常よりも大きなフォームで走らなければならない。

 フレームの爪がしっかりと雪に喰いつく為、蹴り足にしっかりと荷重を掛けても機体が揺らぐことは無い。

 起伏に富んだ雪上を、時折よたよたと怪しい挙動を交えながら、シュヴァルディアは目的地へと向かって必死に走り続ける。

 ダイアナが弾き出した所は、目標地点までの距離が330m程の場所だった。

――ディー、上手く狙いなさいよ――

 ダイアナから珍しく注意がなされる。

 今回の狙撃、距離的には全く問題ないが、射線上に一ヵ所難所が存在する。敵のすぐ傍となる位置に一本の木が存在した。

 敵に弾丸を通すだけの幅は十分にあるが、射線が僅か数度狂うだけで幹へと吸い込まれるシビアな狙撃となる。

 ディートリンデは足場を均す様に、何度も雪を踏み固める。

 この場所の雪質はやわらかく、スタビライザーによる機体の固定は出来ない。

 反動による機体の後退を見据え、後方の安全を確認すると、ゆっくりと足場を定めた。

 シュヴァルディアはライフルを構えると、焦点を合わせる。

 拡大される視界には、ぼんやりと滲んだ焦げ茶色で埋め尽くされる。

 モニターに映る様子を窺いながら、ディートリンデは操縦桿を気持ちほんの僅か左へと傾ける。

 するとモニターが白く染まり、その微妙な操縦によって上手く射線を得られた。

――来るわよっ。三十秒後、一発で仕留めなさいよ――

 ダイアナの報告を受け、ディートリンデは急速に集中を高めていく。

 一度大きく息を吸うと、そのまま息を止める。斜度が非常にシビアなことから、呼吸に伴う僅かな身体の動きも抑え込む。

――カウント十、九、八……――

 視界には一瞬通り過ぎるスヴァローグの機影が映る。

――……三、二、一、零――

 カウントダウンとタイミングを合わせ、ディートリンデは射線がずれない様、慎重かつ素早く引き金を絞り込む。

 銃口より放たれた銃弾は、気温が下がり澄みきった空気を切り裂き、真直ぐに飛んで行く。

 問題となる木にも掠める様に上手く擦り抜け、刃物で切り裂かれた様な痕を幹に残し、そのまま敵の機体に吸い込まれた。

 敵ARPSはディートリンデの一撃を受けても、尚動こうとした所に止めとなる銃弾がスヴァローグより放たれた。

 敵を仕留めたことで、ホッと息を吐きたくなる所だが、そうも言っていられない。

「キース君、残りの一機は任せるわっ」

 一瞬迷いはしたものの、ディートリンデは自身が後を追うことを決める。これは非常に迷う決断だった。

 ローラー走行が可能な分、スヴァローグの方が街道に出るのは早いが、ビエコフの居る場所まではまだかなりの距離を有す。逆にシュバルディアは時間は掛かるものの、街道にさえ出れば距離があるものの直線と言う特有の環境から、その場での攻撃も可能となる。

 今の時点ではどちらが正しいとも判断が出来ず、迷ったもののディートリンデは賭けに出た。

 キースに後を頼むと、すぐにエレノアの後を追い、街道へと駆け出した。


 不意を突かれた形で敵を逃し、それを追い掛ける二機のARPS。逃げ場も無く、追い詰められつつあるビエコフ。

 彼の運命は二人の女性の手に委ねられた。

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