第三十一話 予感
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突然の襲撃で急停車する車内からキース達パイロットの三人は飛び出すと、機体に乗り込む為、コンテナへと急ぎ向かった。
キースはスヴァローグに搭乗すると、すぐにアデリナへと指示を出して索敵の報告をじっと待つ。
――マスター、アンノウン判明。レーシィ・セーミが二機、キングゴートが二機。それとARRTが二台です――
その報告を聞き、キースは一瞬危惧を抱いた。
以前にも同数の敵と戦い勝利を得たが、今回はその時以上の編制となっている。
共に現行機であるレーシィ・セーミとキングゴートは、アサルトライフル装備と弾数六発のショルダーミサイルガンポッド装備が各一機ずつの計四機。ミサイルポッド機にはBPが装備されている為、弾切れを起こすことは無いだろう。
ARRTはまたも82式をベースにしており、左右の腕を機銃に換装したのが一台と両腕を付けマシンガンとシールドを装備したのが一台となる。
判明した情報を全員に伝えると、急ぎ対応策の検討に入る。
キースはデスペナルティーのこともあり、毎回襲撃を回避することも視野に入れて策を検討している。
しかし今回の場合、それは許されない。周囲を取り巻く環境から、それらの方法を取ることが出来ないのだ。
周りを取り囲む深い森は大きな車体を持つアイバンの進入を拒み、逃走するにも真直ぐに伸びた街道をただひたすら進むしか無く、襲撃して来る敵に対して無防備な状態を晒すことになる。
この場所では襲撃を受けた時点で、事実上迎撃以外の道が閉ざされていることから、開始地点であるレニンスキ周辺では一、二を争う難所と呼ばれている。
「リンデさん、狙撃することは可能ですか?」
キースは一番リスクの少ない対処を提案するも、
「街道でなら兎も角、森の中だと難しいわ。これだけ平坦で障害となる木が多いとね」
と、色好い返事は貰えなかった。
「なら、ここはいつも通りの方法でいくしかないな」
グレンの言葉を聞き、キースは腹を決める。
「今回は敵の数の方が勝っていますから、撃破役と足止め役に分かれて担当しましょう」
キースの提案はARRT二台をグレンが、キングゴート二機をキースが受け持って時間を稼ぎ、あわよくば撃破を狙う。その間、撃破役となるエレノアとディートリンデでレーシィ・セーミの二機を倒したのち、順に合流して撃破していくと言うものだ。
「私はいっぱい倒せるからいいよー」
「私も構いませんよ」
「俺も移動の足があるからな。ARRT二台位なら何とかなるだろ」
これで全員の了承が得られたので、キース達は早速迎撃準備に取り掛かった。
この街道での戦闘は二度目となるが、以前にも苦戦した経験があり、キース達三人にとってはあまり印象の良くない場所でもある。
前回襲撃を受けた際もそうだったのだが、この区間は迎撃に適した地形や場所が全く見当たらない。
何しろ起伏が乏しい平坦な土地に、奥を見通せない程の木々が生えた森林しか存在しない。どの方向にどれだけ進もうが、多くに木々に囲まれた、変わり映えしない場所にしか行き着かない。
だが今回は以前とは異なり、こちらにはトラップを操るグレンが居る。その為、前回の様な街道で待ち受けることはせず、森の中へと積極的に侵入して迎撃をすることにした。
敵の隊列はレーシィ・セーミを先頭に、キングゴートが続き、殿をARRTが務めている。
各機の間隔もレーシィ・セーミからキングゴートまでが約50m。キングゴートからARRTまでが約180m程開いている。
敵は森に300m程入った場所を街道に沿う形で、ゆっくりとこちらへ向かって来ていた。
グレンは敵の予測進路からは、外れた場所にある一本の大木の陰にケッテンクラートを停めていた。
「ふう、何とか仕込みも間に合ったな」
――今回はARRTとは言え、二台が相手だからね――
「まあな。これなら、何とかなるだろ」
そう言うと、一旦座席から降りて敵の進路を確認出来る位置まで進む。風雪に晒され、樹皮の片側だけが雪に覆われた木陰にしゃがみ込むと、バックパックの中から双眼鏡を取り出し、敵が来る方向へと覗き込んだ。
以前夏季に訪れた際には森の中は頭上を多くの枝葉が生い茂り、昼間でも陽を通さないことから、夜の様に薄暗く視界が効かなかった。だが冬に入り、上部を覆っていた木の葉が落ちたことで木漏れ日が差し込み、夏季とは打って変わって全く別の顔を見せる森へと変貌していた。
特に森を覆う殆どの木々が樹氷となっており、太陽の光を浴びた氷が頭上で宝石の様に煌めき、明るいながらも幻想的な雰囲気すら漂わせている。
――グレン、後五分程で先頭の機体がやって来るよ――
「了解」
返事を終えて暫くすると、重量感のある足音共に、振動で降り積もった雪が落ちる音がこちらへと徐々に近づいて来る。
グレンは木に張り付く様に姿を隠すと、敵が通過するのをじっと待つ。
先頭を進むレーシィ・セーミと続くキングゴート。両者が通過するのに、十分と掛からなかった。
グレンは四機のARPSが通り過ぎたのを確認すると、再度標的の方へと双眼鏡を向けた。
すると、四機もの機体が通ったことで生れた道の上を、キュルキュルと言う履帯特有の音を響かせながら、ゆっくりと標的である二台のARRTが姿を現した。
グレンは双眼鏡を仕舞うと、急いでケッテンクラートの元へと戻る。
「咲耶、来たぞっ」
――了解。こっちも打ち合わせ通りにやるから、ミスんないでよ――
「任せとけ」
そう言うとエンジンを掛け、一気にアクセルを回し、敵の方へ飛び出して行く。
前輪のスパイクピンが付いたスタッドレスタイヤからは、しっかりと雪を噛み締める感覚が手に伝わる。
動力を伝える左右の履帯からも後方へと雪を舞い散らせ、幻想的な光景に花を添える。
雪に覆われ地面の状況が不明な中、グレンは大胆に車両を振り回して木々を掻き分け、敵へと向かう。
敵ARRTもこちらの接近に気が付くと、すぐに銃撃を開始して来た。
グレンはすぐさま遮蔽に利用するべく、木に沿うルートへと進路を切り替える。
周辺の雪が弾け飛び、飛び交う銃弾が奏でる風切り音が耳に届く。
その内の一発が遮蔽にしている木に命中し、裂けた木の破片が掛けているゴーグルへと当たった。
「――ッ!?」
――ちょっと、大丈夫かい――
「……ああ、何とかな」
殴られた様な衝撃を受けて、外れかかったゴーグルを直す。直接当たってはいないので痛みは無い。しかし頭部に衝撃を受けた為、一瞬意識が切れて朦朧とし、確認するとHPも僅かに減っていた。
グレンは跳ね上がった心音を抑える様にゆっくりと息を吐くと、すぐに敵へと意識を向けた。
二台のARRTが確実にこちらを標的に捉えたのを見て取ると、突如ハンドルを左に切り、進路を変えると一気に加速して敵を引き離しに掛かる。
滑る路面の上で、横を向きドリフトする車体を必死に抑え込むと、アクセルを更に回す。跳ね上がる回転計の針に連動して、唸りを上げるエンジンから伝わった動力により、履帯が波打ちながら回転が増す。
敵の視界を撒き散らした雪の波で遮ると、視界が晴れた頃には遠ざって行くグレンの後姿が小さく見える。
――そろそろ落としなよ――
グレンは咲耶の合図を受けると、ゆっくりと速度を下げていく。
後方を確認する様にミラーを覗き込むと、ようやく追い掛け始めたのか、遠くにのろのろとした動きでこちらへと向かって来る二台のARRTの姿が映る。
「そうだ。キッチリと喰い付いて来な」
防寒の為に被っているバラクラバで表情は見えないが、明らかにニヤリとした笑みを浮かべてそうな声色で呟くと、グレンは敵を引き連れて森の奥へと進んで行く。
ARRTはその構造上重心が高くなり、また機体バランスを取るのが難しい為、あまり速度を上げて走行することが出来ない。
降り積もった雪の上を、ゆっくりとした速度で慎重に進んで来る敵ARRTを、グレンはミラーで確認しながら誘導して行く。
時折、射線が得られると後方から銃撃に襲われる。自身を追いこす様に飛んで行く銃弾を、グレンは上半身を伏せる様に下げてやり過ごす。
とは言え、敵の誘導が目的な以上、脇に逸れるなどの進路を逸脱する様な大きな回避は行えない。
何度目かになる銃撃を受けていると、すぐ後ろから僅かな振動と共に金属に貫通する音が聞こえた。
「咲耶っ、大丈夫か!?」
慌てた声と共に、グレンは後ろに振り向くが、そこには何ら変わり映えのしない荷台の光景が目に映る。
グレンの視界には映らないが車体を後方から眺めると、丁度荷台となる囲いに三ヵ所銃弾によって穴が開けられていた。
――……取り敢えずはまだ生きてるよ――
咲耶の声を聞き、グレンはホッと胸を撫で下ろすと、すぐに車体の状態を確認し始める。
グレンが乗っているケッテンクラートなどの車両には、AIが接続することは出来ない。なので、当然稼働状態も管理されていない。その為、車体の不具合や損傷の確認には、操縦者自らがその前兆を察知するなどの対応をしなければならない。
後方から荷台部分に三発もの被弾を負ったが、今の所ケッテンクラートは止まること無く普通に走れており、振動や挙動などに異常を感じられないので、即致命傷と言う様な最悪の事態は避けれたらしい。とは言え、油断は出来ない。配管や配線などが損傷をしている場合、不具合の発生まで時間が掛かることもある。
しかし、この戦闘中と言う状況では停車しての点検も儘ならず、グレンに出来ることと言えば、最後まで停止すること無く稼働するのを祈る位のものだ。
――グレン、損害報告。索敵センサーは無事だけど、集音装置はダメ。無線機も受信不能だよ――
被弾した三発の銃弾は幸いにも直撃は無く、その内一発の銃弾がAIユニットに掠めた為、この程度の軽微な損傷で済んだ。とは言え、受信不能となったのは手痛い。これで他のメンバーとの交信手段を失ってしまった。
「発信の方はどうだ?」
――確認取れないけど、そっちは無事っぽいね――
「そうか。最悪は免れたな……」
発信さえ出来れば、最悪の場合には救難信号を出すことも可能だ。もっとも、そんな余裕があるとは思えないが。
その後も盛んに敵ARRTは銃撃を仕掛けて来るが、その都度加速をして振り切り、また進路上にて待ち受けると言うことを繰り返す。
すると徐々に苛立って来たのか、敵の操縦に雑さが目立つ様になって来た。
――こう言うことをさせたら、ほんっと上手いよね。敵ながら同情するよ――
「おいおい、なに他人事の様に言ってるんだ。お前も共犯だろ」
呆れた声を出す咲耶に対して、人の悪い笑みを浮かべたグレンが返す。
――何言ってんだい。勝手にこっちを巻き込まないどくれ――
多少対応にも慣れて来たのか、ちらほらと会話をする余裕も生まれて来る。
森は奥に進むに連れ、木々の間隔は徐々に狭まり、本数も増えていく。
付いて来る敵ARRTも段々と木々を縫うようにしか進めず、こちらへの銃撃も目に見えて減って来た。
「よし、連れて来た。咲耶、後は任せるぞっ」
――はいよ。じゃあ、始めるとしますかね――
そう言うと、グレンの後方で大きな爆発音と共に雪煙が舞い上がった。
両腕が機銃に換装された敵ARRTは、先行する僚機の後を追い、雪に残る轍に沿って進んでいた。
轍は奥に行くに従い、木々の本数が増えた影響で、段々と木に近づく進路を取る様になっていく。
一度僚機が通った後と言うこともあり、然程警戒もせず、轍の跡をなぞる様に一本の木の傍らを通り過ぎ様とした瞬間、機体の真横から爆発音と共に衝撃を受けた。木の懐に設置されたトラップを、咲耶が遠隔操作で作動させたのだ。
敵ARRTは至近距離からまともに爆発を受けた所為で、片側の履帯が損傷し、走行に支障を来たす羽目となった。
――まずは一台――
「おっ、上手くいったか?」
――まあね。まだ多少は動ける様だけどね――
今回トラップに用いた物は、新たに入手することが出来た指向性地雷だ。実はこれに辿り着くまでは、かなりの紆余曲折があった。
季節も冬に入り、積雪が1mを越す様になると、今まで使用していた地雷では不具合を生じる様になったからだ。
サラサラの粉雪だと上手く敷設することが出来ず、作動もせずに不発となることもあった。
逆に凍結していると、敷設に手間取ることで時間的な負担が掛かり、トラップ自体の設置を諦めることもあった。
この様な環境条件による使用制限が厳しくなると、攻撃の軸としての使用に一抹の不安を覚える。
それに加えて咲耶の問題もあった。
ソロでやっていた時は周辺探査など色々と手を借りていたのだが、キース達と知り合い、チームに参加する様になって以降、殆ど仕事らしいことをさせていないことに遅ればせながら気が付いた。
この状態は非常に拙い。何故ならAIの成長は、自身が取った行動や経験によって、その成長速度や内容を変化させる仕様となっている。
今のニートの様な状態では成長はおろか、内容すら退化しても可笑しくは無い。
グレン自身も、このまま咲耶を愛玩用AIにさせる気などは毛頭無い。
そこで各地にある商店や解体屋などを、片っ端から当たり始めた。
雪の中でも使用に支障が出ず、咲耶にも役割を与えられる装備と言う、漠然とした考えであちこち探し回った。
そんな中、目に留まったのが指向性地雷だ。
指向性地雷は、その用途から地上に敷設することになる為、使用に際し環境状況に左右されることは少ない。そのことは、雪に悩まされていたグレンの問題を一気に解消してくれた。
これで残るのは咲耶の件だけである。
とは言え、AIユニットである咲耶の出来ることは非常に限られている。何しろ、元々はARPSの制御をする為に作られているのだ。武器などと言った装備が用意されている筈も無い。
グレンは幾日も頭を悩ませていた時、ふと思い付いた出来事があった。
それはマクノーシ・スラビシュからの帰還の際に行われた、初の雪原戦闘でのこと。敵の目をそむける為に即席の時限装置を作ったが、あれを咲耶に手伝って貰えれば。
思い立った瞬間、グレンは自身のアイデアを実現するべく、再び奔り回る。再度各所を探し回り、ビエコフの手を借りながら、ようやく作り上げたものが、今回使用した無線式起爆装置だ。
幸い、咲耶には無線機があり、更には範囲5kmにも及ぶセンサーも備えている。しかも自己判断が可能と言うことは、意図さえ伝えれば、最適なタイミングでグレンの指示なく作動される最強の起爆装置が誕生するのだ。
この試みが成功すれば、今後グレンとも連携を取れる様にもなり、戦術幅が一気に広がることにも繋がって来る。
もう幾度か実戦でも使用はしていたが、今回咲耶が破損を受けたことで些か不安もあったが、どうやら幸先の良いスタートは切れた様だ。
ミラーを見ると、こちらとの間に何本かの木を挟んで盾持ちのARRTの姿が確認出来る。その後ろを付いて来ていた筈の両腕が機銃に換装されたARRTの姿は消えており、空へと黒煙が立ち昇っているのが目に留まる。
すぐ後方に居る盾持ちARRTは射線が通る度、散発的に銃弾を放ち、逸れた銃弾が木に当たった衝撃で積っていた雪が、その下を走るグレン目掛けて落ちて来る。
最初は焦って躱そうとしていたが、周囲を多くの木々に囲まれ、下手に避けることで衝突の恐れもあることから、今は避けずに時折雪を頭から被りながら走り続けている。
次にトラップを仕掛けた場所までは、些か距離が離れている。これはトラップだけでは仕留め切れず、各機体と交戦する為にも、個々の距離を離す必要があるからだ。
グレンは小まめにミラーで確認を取りながら、走り続ける。傍目から見ると、銃弾を避けながら走るだけと映るが、実際にこなしているグレンは神経をすり減らしている。
敵を引っ張る為には距離をあまり開けられず、近づき過ぎれば銃撃の危険が増していく。その僅かに存在する間の位置を、微妙に調整しながら維持し続けなければならないのだ。
――グレン、残り500mを切ったよ――
咲耶の報告を受け、グレンは一息吐きそうになる気持ちを再度引き締める。
仕掛けを施した場所は、丁度ARRTが一台通れる程の幅を持つ二本の木の内側となる。
ARRTにはギリギリでも、ケッテンクラートには十分な余裕を持つ木の間を悠々と通り抜ける。
木々の間を通ると、グレンはすぐにミラーで後方のARRTの様子を窺う。
追って来るARRTは、特に警戒する素振りも見せずにグレン同様、木の間を通り抜けようとしている。
――ほいっと――
気の抜ける様な咲耶の声を合図に、ARRTは左右両側から爆発による衝撃を受ける。
グレンは背に破壊音を受けながら、前方に見える木の陰へと車両を潜ませる。
――グレン、任せたよっ――
「OK。後はここでのんびりと眺めてな」
対ARPS砲を手に取ると、ケッテンクラートから飛び降り、木から木へと潜みながら敵へと向かって走って行く。
グレンは敵ARRTの右側面50m程の位置にある木に移ると、一旦背を預けて呼吸を整えつつ、ポケットから取り出したタクティカルミラーで敵の状況を確認する。
敵ARRTは左右より同時に爆発を受け、両側の履帯が共に破損していた。特にミラーに映る右側の履帯は、履板と呼ばれる帯が切れ、起動輪が空転して身動きが取れない状態に陥っていた。
頻りにARPS部分となる上半身に付いた腕を使用して動こうとしていたが、その為には両手に持った銃と盾が邪魔となる。かと言って、攻撃を受けている状況では、手放すことなど出来はしない。
グレンは暫しの観察で、敵がその様な状況にあると見極めると、まず攻撃手段となっている右腕に持つ銃を排除する為に、その腕へと砲撃を仕掛ける。
外側からは僅かに視線が確認出来る程黒く染められたレンズを通して、所々雪が張り付く敵の腕を睨み付ける。
微かに漏れる呼吸によって曇ったゴーグルを手で拭うと、大きく息を吸って一旦呼吸を止めた。段々と息苦しさを感じながら、慎重に狙いを定めると一気に引き金を絞り込む。
敵ARRTはその発射音に気付くも、右側面からの攻撃に反対の手に持つシールドを翳す間も無く、右上腕部に命中する。
被弾による損傷で機能停止を願ったが、どうやらそこまでは上手くいかない様だ。
だが、それでも銃の使用に対して支障を来たす位には、損傷を与えることは出来たらしく、先程から上手く腕を上げられず、時折銃を落としそうにまでなっている。
その様子を確認すると、グレンは敵の背後を取るべく、移動を開始する。
至近での移動に対し、流石に敵も対応する気配を見せるが、履帯を破壊されたことで上手く機体を操作することが叶わない。
あっさりと背後を取ったグレンは、もがく敵に対して立て続けに二発ほど砲弾を撃ち込むと、一台目となる敵を破壊した。
寒さから逃れる様、小走りでグレンは咲耶の元に戻って来た。
――上手く仕留めたね――
「ああ。これで残り一台だな」
――トラップの位置からは、殆ど動いていない様だよ。ここから東に550mの位置だね――
「じゃあ、さっさと行って終わらせるか」
すると、咲耶から不安げな声が上がった。
――そうだね。アデリナ達の様子が解らないから、早めに終わらせた方が良い――
「まあ、あいつらなら心配ないだろ」
グレンは信用からか、別段心配する様子も見せずにそう言うと、ケッテンクラートに乗り込み、止めを刺すべく残りの敵ARRTへと向かった。
その僅か十五分後、二台目の破壊となる盛大な黒煙が森の木々の間から、青く晴れ渡った空へと立ち昇った。
しかしその頃、グレンの思いとは裏腹に、キース達は今までに無い程の苦戦を強いられていた。




