07.小話/選ばれた者同士
マツノトがパーティに引き込まれて間もない頃のことだ。
宿屋のカウンターでワインの酒杯を傾けていたダリアの隣に、マツノトが腰を下ろした。
「先に言っとこうと思うんだけどさぁ」
「……何ですか?」
ダリアが横目で視線を送ると、マツノトはニヤりと笑って言い放った。
「俺、オルガに手を出そうとか思ってないからさ。安心してよ」
「ぶふッ!?」
吹き出しそうになったワインを必死で飲み込み、ダリアは咳き込みながらマツノトを睨みつけた。何を言い出すんだ、いきなり。
「あれ、二人ってそういうんじゃないのか?同郷だって聞いたから、てっきり深い仲かと」
「ないない。口にするのも恐ろしい、絶対にそういうんじゃないですよ。……ですが、手を出さないでいてくれるなら助かります。あの子、そういう恋愛ごとの機微にはめっぽう疎いですから」
「だーいじょうぶだって。俺、一応こう見えても聖職者ですから」
「ご自分で『生臭信者』なんて自称しておいて?」
「いやさ、本音を言うとさぁ」
マツノトは苦笑いを浮かべ、どこか遠くを見る目になった。
「そういう生々しいの、気色悪くて自分事だと無理なんだよ。俺の実家、血縁関係がドロドロに腐ってた家でさ。女でも男でも欲を向けられると胃が痛くなる」
「……はぁ」
「まあ、そういうわけだからさ。変な警戒はしないでほしい」
「いいですよ。信用しましょう」
「……軽くね?自分で言っといてなんだけど、そんなあっさり信じられる?」
拍子抜けしたように目を見開くマツノトに、ダリアはワインを一口含み、静かに微笑んだ。
「僕が信用したのはあなたの言葉じゃありません。オルガがあなたを引き入れた、という事実ですよ」
「というと?」
「あの子のそういう嗅覚は……なんと言いますか、獣染みてるんですよ」
ダリアは杯を弄びながら、言葉を繋ぐ。
「あの子はいつだって無邪気な笑顔を浮かべていますけどね、決して気を緩めているわけじゃないです。警戒心が凄まじく強くて、自分や仲間を害するかもしれない相手の前では、気を張り詰めているんです。僕のような損得勘定とは違う……判断基準が極めて本能的、とでも言うべきでしょうか」
「わかんねーなぁ。しばらく一緒に仕事もこなしたけど、ごく普通の明るいお嬢ちゃんにしか見えねぇけど」
「正直、僕にもなんとなくしか分かりません」
「なんだそりゃ」
「まあ、ともかくです。うちのパーティのリーダーはあの子で、あなたはあの子が『大丈夫だ』と選んだ。だから、あなたは僕にとっても信用に足る人物だということですよ」
ダリアの言葉に、マツノトは口を半開きのまま呆けていたが、やがて「ふうん」と鼻を鳴らした。
「じゃあ……あいつが最初に選んだあんたのことも、俺は信用して良いってことだな」
完全には納得しきっていない様子だったが、悪い気はしていないようだった。
マツノトはマスターを呼んでエールを注文すると、届いた泡立つ酒杯を、ダリアの飲みかけの酒杯にカチンと軽く打ちつけた。
「よろしく頼むぜ、参謀殿」
「ええ。こちらこそ、生臭信者さん」
二人は顔を見合わせ、短く笑い声を上げた。
夜の賑やかな喧騒の中、新しく生まれた小さな絆が、静かに酒の味を深めていた。




