第十八話 人手が足りないっ!
「分かる?」
「分からない」
私は名嘉の指がさす先をじっと見つめるけれど、それを把握することは、どうしても出来ないと実感した。
「こっちがナメコ、こっちがニガクリタケ」
指を高速で動かしているのは、嫌がらせだろうか。忘れた頃にジョークが飛び出すから、この人には注意をしないといけないかも。
そんな、毒キノコ探しのレクリエーションをしながら、私たちは森の中を散策していた。
遊歩道からはそれほど離れていないこの森は、一般人にも開放されている場所だ。少し進むと栗の木が密集した場所があって、秋には栗拾いに訪れる人が多いらしい。早いもの勝ちらしいから、気を付けておこう。
集落にはキノコ採り名人がいて、事前に予約をすると案内をしてくれるそうだ。
「名嘉は、食べられるキノコを見分けられんの?」
林田の質問に、私と名嘉は身を寄せた。
「ちょっと、その幼虫は持ってこないでほしいのだけど」
「そうだよ、それが何なのか分かってるの?」
名嘉は少し怒気を込めて、私はちょっと不安げに。
「しらん」
「アゲハ蝶の幼虫じゃん。こいつ、めっちゃ臭いよ?」
私の後ろから、相川が覗き込んで言った。
「え、え、どうする?」
「優しく葉っぱにおいたら? まだ臭角を出していないし、優しくしてあげたら出さないかもよ」
「うし、優しくだな、優しく、優しく……」
「アタシたちからは離れるように」
そうして、彼はゆっくりと離れていく。そして――。
「くせえっ!?」
空気の読める幼虫だった。
「それより、全然見当たらないねぇ。毒キノコはいっぱいあるんだけど」
肩をすくめた相川に、こちらも同じだと頷く。戦闘の合間合間で名嘉から説明を受けていたのだけれど、そもそも、私たちが探しているキノコは、名前が分かるようなキノコではないのだ。
その名も、『コロシタケ』。安易すぎるネーミングに、笑う気も起きない。
「肝心のキノコが見つからないと、足跡どころではないよねぇ。……あれ、林田は?」
「川に降りて、手を洗いに行ったんじゃない? ついでに見てくるよ」
彼の姿を探す相川に言って、私は少し離れた位置で待っていたモンスターと、戦闘を繰り広げる。
戦闘自体はターン制で、先行は基本的に私側。たまに相手モンスターが先に動くけれど、倒されるほどのダメージは受けなかった。
ウィンドウを開けば、ステータスが表示される。その表示から、おそらく残機制、といえばいいのだろうか。十個の黒丸のマークがあって、それが三つ減っている。十回攻撃が命中したらゲームオーバー、なのだと思う。
一撃で倒されていた勇者は、そもそも戦闘を行う職業ではなかったのか。それとも、意識していなかった別の仕様があるのか。
分からないことが多いけれど、今は戦士の話。
攻撃力は五十二。
防御力は十三。
行動力は十。
行動力というのが、行動の速さを表しているのだろう。それよりも早く行動できるモンスターがいるということは、モンスターごとに個体値のようなものがある、と予想される。
攻撃力だけがずば抜けているのは、私がそうイメージしたからなのだろう。リセットされたら、その点のイメージは修整しようと思う。
斧を振ってモンスターを倒すけれど、戦闘で経験値が貰えないのは詰まらない。唇を尖らせながら柵に手を置いて下を覗き込むと、川沿いに林田の姿があった。
「臭いは取れた?」
「多分なー。それより、変な魚がいるからみんなを呼んでくれないか?」
了解、と返事をしてその場を後にする。今思えば、結構際どい位置だったかな? スカートだという意識があまりにも薄い。
「川にいる林田と、話したの? 遊歩道から?」
だから相川に怒られる。タイツを履いているから、と言っても、それとこれとは別だと怒られる。
むしろ女性に見られたほうが恥ずかしいのだけれど、自分の中の精神バランスがいまいち分からない。多分、男としての人生の方が長く、さらに最近になってから表にでたから、その分幅を利かせているのだろう。
川へ降りると、林田が水面を指で示していた。
「キノコが生えた魚がいる」
「そんなもの、いないでしょー」
にこやかに振りを言って、相川が覗き込む。
「言わせないから」
名嘉が釘を差して覗き込む。
私はしゃがんで水面を見ると、確かにそんな魚が見いた。頭の上に、ちょこんとキノコが載っている。
「で、これがコロシタケだと分かるやつ、いるか?」
全員、ノー。
「でも、怪しいのは確かだよね。それを調べられるのは、やっぱり医者かな?」
「けれど、戦闘ができなければここまで辿り着けないわ。ここは、これがコロシタケであると仮定して、話を進めたほうがいいと思う」
相川と名嘉の相談を聞きながら、私は戦闘を繰り広げる。
現れたのは大きな亀で、なかなか防御力があるらしく、斧を振ってもなかなか倒れてくれない。
黒丸は四つ減らされて、後三つ。もう一度、この亀と戦闘が始まったらアウトだ。
「相談は、川を離れてからにしよう。ここのモンスター、ちょっと強いよ」
「マジか? 戦闘面でも、一人じゃ心細いってことなのかもな」
「念のため、この魚を救っておきましょう。なにか手がかりになるかもしれないわ」
「でも、素手では触れなくない? カナ、何か持ってる?」
「持っていないわ」
「林田は?」
「あるわけがない」
「ちょっと、みんな、早く行こうよ。モタモタしてたらモンスターが――」
出ました。ゲームオーバーです。




