第十七話 理想の戦士
医者でモンスターに勝てるはずもなく、あっさりと当日の朝に戻るのだった。
そんなモノローグが、寝起きの頭の中で響く。この微睡みが、一日の中で一番好き。一日のピーク。一日というのは、この時間を目指して駆け上がっていくものだと思う。
だから、睡眠は大事。私は睡眠時間を削ってゲームをしたことがない。だって、明かりを消した布団の中で、ゲームの感想を思い浮かべる時間も好きだったから。
そうすると、微睡みの中でそのゲームの想像が始まるの。で、その微睡みの中の想像が修整不可能な袋小路へ突入すると、ちゃぶ台を返すように目が覚める。
あぁ、よく寝たなぁ。という感想があるだけに、やはりと言うか、疲れとか落胆というものは、あまり引きずらないらしい。
「試しに、ノートに何か書いてみようかな?」
なんだか、この状況が更に面白く感じ始めているようだった。使っていないノートを引っ張り出して、経過報告と表紙に書く。
内容は、キャンプ場周辺にキノコ。
それは今日の目的だった。
「あるのは分かっているんだから、直接行ってみるべきだよね」
詳しくは相談してからなのだけど、省ける手間は省くべきだとも思う。フラグ管理がきちんとされていたら、まったく何も起こらないのだろうけど、それを確かめるべきでもあるのだから。
支度を整えて学校へ向かう。今度は早めに登校する必要もなく、相川はチャイムが鳴るギリギリのタイミングで教室に入った。
「あはは、猫を探していたらギリギリだったよ」
「どこかに住処があるのかな?」
「家のほうが居心地がいいはずなのに」
口を尖らせて、席へと向かう。私は隣の名嘉の表情を窺った。眼光が鋭い。不機嫌?
「カナちゃん、不機嫌?」
「そうでもないわよ。ただ、面白いことをしてくれる動物がいる、と思っていただけ。私だったら、もっとスムーズに作るわ。役者が揃わなくても、難なく進めるように」
「不条理を楽しむのも、ゲームなのだけどね」
「それは……、あなただけではなく?」
ちょっと言い返せない。
不機嫌と言えば、林田もムスッとした表情を浮かべているのが、ここからでも確認できた。おそらく、きっと、放課後に待ち受ける長距離運搬を思い浮かべているのだろう。今日はキャンプ場へ行く。下り坂だ。
そして放課後。大金の前。肩を落とす林田の前に、天使が現れた。
「少し、考えがあるのだけど」
控えめに手を挙げる名嘉は言った。
「キャンプ場で紙幣を数えて、そこでゲームをスタートさせるのはどうかしら」
ちょっとした沈黙。
「展望台まで運ぶ必要、なかったじゃねーか! 早く気が付けよ!」
「私たちの所為?」
首を傾げと私は問う。
「いや、自己嫌悪。格好いいとこ見せられる、って思って後悔してた。くそ、もっとよく考えていればなぁ」
「まぁまぁ、そう言う行き当たりばったりも楽しいものなんでしょ?」
ね、と私を向く相川に頷いておくけれど、それに同意してくれる人は居なかった。
ヤマネ(そろそろ名前を付けたほうがいい?)がスピードキングに変化をして、私たちと大金を載せてキャンプ場へと発進した。
目的地は、正確にはキャンプ場と隣接する遊歩道だ。けれど、そこは車両進入禁止であるため、キャンプ場の駐車場で停まって、姿を見られないよう、車内で紙幣を数えた。
キャンプ場の様子を見に行っていた林田が戻ってくる。
「おっけー、誰も居なかったわ」
「じゃあ、ここからでもスタート出来るんわけだ」
私は車から降りて言った。
「新たな目的地が判明したら、リセット。車でこそまで移動して、ゲームスタート。それが理想の進め方、かしらね」
「始める時には、人の目には気を付けないとね。急に人が消えた、とか。他の人にはそう見えちゃうかもしれないし」
名嘉と相川が降りた所で、大金を一輪車に積み替える。ヤマネは私と超獣神忽だ。
「で、職業はどうしようか」
駐車場の片隅、自動販売機の側にあったベンチに腰を下ろして、私たちは相談を始めた。
「キノコが生えた場所を探すとなると、誰がそういう能力がありそうなんだ?」
「魔法使い、かなぁ。ステレオタイプのイメージかも、だけど」
呪い的な想像をして、私は言った。
「でも、調べなければならないのはキノコの有無ではないかもしれないわよ?」
「どういうこと?」
疑問を口にした相川に、名嘉は考えてみて、と少し笑って言った。彼女も、このようなやり取りを楽しむ余裕が出てきたのだろう。だからこそ、スタート地点をずらすことも思い付いた。
「うーん、ここにあるキノコが、王様殺しに使われたのかもしれないんだよね?」
「そう。だとすると?」
「誰かが、此処で、キノコを収穫した?」
「そう。だとすると、私たちは何を調べたらいい?」
「あ……、犯人に繋がる何かだっ!」
「そう。遺留物」
犯人自身が此処でキノコを確保したのだとしたら、此処に犯人の足跡が残っているかもしれない。
「で、それを調べられるのは誰なんだ、っていう話だよ」
林田は口を尖らせて言う。
「林田も、少しは考えなよー。アタシはズバリ言い当てたけどね」
「殆どが名嘉の誘導だったけどな。でもさ、探偵なんて職業も、警察なんて職業もないんだぜ? 選びようがないじゃないか」
「選びようがないんなら、どれを選んでも良い、ってことだよね?」
私の言葉に、名嘉は頷いた。
「おそらく、ここで大事なのは戦闘で倒されないことだと思うわ。つまり、アユは戦士を選んで戦闘に備えるべき。他の職業は私たちで分担をして、キノコと遺留物探しね」
早速、私は職業の選択で戦士を選んだ。初回と同じで、林田は勇者。相川は魔法使い。名嘉は医者だった。
戦士、戦士か。初回ではまったく考えにも及ばなかったことだけど、戦士が扱う武器で格好いいのはなんだろう。
剣と盾? どちらかと言うと騎士っぽい。私の中で、それは明確に違うものだった。
大ぶりの剣だとか、サイズの大きいものが格好いいと考える。拳で殴るぜ! という戦士もありだと思うけれど、それはなんていうか、武闘家、みたいなのが思い浮かぶし。
ならば、素直に剣? でも、それじゃあつまらない。
「ねぇねぇ、林田。大きい武器を振り回す女の子って、どう思う?」
「は? まぁ……、それはそれであり? いや、でも鞭を持ったクールなお姉さんも……」
「いや、性癖は聞いてない」
「性癖じゃねーよっ!」
心外だ、と言わんばかりに吠える林田を笑って、私は大きな両刃の斧をイメージした。これで準備は万端。のんびり観光ができる余裕も、少しは湧いてきた。
遊歩道は高い位置から川を見下ろすことの出来る、風光明媚な場所だった。階段を降りて川まで近付くことも出来て、夏にはホタルが見られるらしい。
五分ほど歩くと分かれ道にぶつかる。川沿いを進む道と、森の中へ入っていく道が待ち受けていた。そこで、チャイムが鳴る。
「遂に、モンスターだよ」
私は大きな両刃の斧を構える。森の方から、蠢く根を動かして歩く太い幹。動く木のモンスターだ。幹に空いた三つの穴が、不気味な顔に見えて仕方がない。
「あれ、なんて言ったっけ? ゲシュタルトじゃなくて、エニグマじゃなくて……」
「シミュラクラ現象よ。アユ、知っている知識を適当に並べたでしょう?」
「うん。頭良さそうに見えた?」
名嘉は首を振るけれど、相川は同意してくれた。
「見えた。アタシも真似する。ね、林田」
「いやいや、見えねーから。逆にアホみたいだから」
そんなことよりも、戦闘。手を叩いて話を戻そうとする名嘉に頷いて、私は斧を握り直した。
戦士に出来ることは、攻撃しかない、かな? ともあれ、攻撃してこそなんぼな職業だ。先手必勝と駆け出して、少しへっぴり腰に斧を振るった。
幹に突き立つ歯は、軽く食い込んだだけだったが……。
そのモンスターは、断末魔を上げて消えていった。
「モンスターは戦士で倒せる。これで確定、かな?」
ちょっとずつ仕様が分かっていくこの瞬間、やっぱり楽しいよね。




