第十六話 王様の死因
職業を選択する際、私の頭にある考えが浮かんだ。
「一度、勇者になってみていい?」
その発言への答えは、好きにしていいというものだった。
そもそも、戯駕が使えなければ職業を選択する意味はないのだから、みんなは余り物を適当に振り分けるだけだ。
ここからは、私が職業を選択しながら、みんなと相談しながら、地道にゲームを進めていくことになる。
宙に浮かぶウィンドウに触れて項目を選び、職業を選択する。〈勇者〉となった私は、先ず土間の片隅に寄せられていた札束を手に持った。
「むぅ、残念。調べる、みたいなコマンドが表れるかと思ったのだけど」
「勇者だと、表れるの?」
相川に頷く。大抵の場合、こういうものは勇者の役目だから。
他にも考えがあって、勇者にだけ、この紙幣を使うことができるのではないか。そして、この紙幣がコンテニューのためのアイテムになるのではないか。
その二点が、私の確かめたいことだった。
外に出ると、ヤマネが見慣れたレトロな外車に変化してくれて、私たちはそれに乗り込んで展望台へ向かった。
そこで前回と同じように、王様が殺された、魔王が怪しいから魔王城に向かってくれ。そのような情報が開示される。
魔王城へは、夜になってからこの展望台を訪れることで、現れるらしい。けれど、先ずはこの場を調べることから。勇者が紙幣を持っていることで、何か変化はないだろうか。
私は紙袋を抱えて歩き回る。紙袋に入っているのは、五千万円。玄関にはあと四つの紙袋が置かれていて、束から零れてしまたったものと合わせると、合計で二億六千万円なり。
「ジャパンッ!」
「どうしたの? 急に」
あ、いや……、と私は言い淀む。近くにいた名嘉に、冷たい視線を向けられてしまった。ちょっとした思いつきだったので、恥ずかしくなって顔を背ける。
結局、展望台では得られたのは魔王城に関する情報のみ。役に立たない勇者である。
けれど、その役目を果たすのはこれからか。私たちは、最初の関門に差し掛かった。
既にヤマネと超獣神忽をして一体化していたため、展望台からは徒歩での移動だった。
――ピンポーン。
チャイムが鳴って、ウィンドウに〈モンスターが現れた〉と表示される。
麓の方から、ズシンズシンと一つ目の巨人が近寄ってきているのがはっきりと見えた。
私は尻尾を振って、興奮を表してみた。普段はモニターの画面のなかで繰り広げられる光景。それが、自分の手足を用いて行うことが出来る。VRとは違う、リアルで、けれどもヴァーチャルな戦闘。
「アユ、行けそう?」
心配そうに声をかける名嘉に、私は笑顔で頷いた。
「ま、適当にやれや。骨は拾ってやるから」
「ちょっと林田、そういうことは言わないの。なんなら、あんたが突撃してもいいんだよ?」
「あ、それいいね。それで倒せるか試してみよう」
私の言葉に、林田は「勘弁してくれよ」と肩をすくめた。
戯駕によって、勇者に出来ることが、今の私には出来る。勇者にできることって、なんだろう。私は自信を持って答えるだろう。
「行くぞー、弱きを守り、強きを挫く。勇者の剣で、一つ目巨人を倒してやるっ!」
私の右手に、いつの間にか剣が握られていた。
それを、見様見真似の剣道のように構え、振り下ろされる手のひらを迎え打とうとした。
周囲が暗くなる。
ウィンドウが現れる。
〈コンテニューに必要な紙幣が足りません〉
翌朝――ではなく、当日の朝。私は目を覚まして、布団を跳ね除けて起き上がって、叫んだ。
「やったーっ! クソゲーだーっ!」
クソゲー(自己判断)に出会うと興奮する私は、確実に変態です。
そして放課後。もう一度の挑戦である。
今度は医者を職業に選択し、力自慢の林田に、紙幣がたっぷり載った一輪車を押してもらう。
「この坂を、この一輪車を持って、登るとかっ! どんなトレーニングだよっ!」
「頑張れ頑張れ、はーやしだ!」
「負けるな負けるな、はーやしだ!」
相川から始まった応援。私のあとに名嘉は続かなかった。林田は、期待をしたような視線を彼女に向けている。まだまだ余裕はありそうだ。
だいぶ時間をかけて、展望台へ辿り着いた。
王様殺害の報は変わらずにあり、医者であってもその文章は変わらなかった。けれど、しばらく周囲を歩き回ってみれば、前回、前々回とは違う文章がウィンドウに表示された。
〈遺体を調べますか?〉
その下には〈はい〉と〈いいえ〉の項目が並んでいて、私は迷うことなく〈はい〉の項目に触れた。
もちろん、超獣神忽はしてあった。医者に出来ること、ドラマで見かける司法解剖? 検視? そういう物を漠然とイメージしてみる。
きっと、通常の戯駕を使用するには、この程度のイメージでは足りないのだろう。しかし、今回はゲーム特有のアシストが発揮されていた。
〈死因は毒。毒物の特定に成功した〉
その表示を見て、私は歓喜のままに叫んでいた。
「やったーっ! みんな、新しい情報ゲットだよ!」
方々へ散っていたみんなの元へ駆け寄ろうとすると、更に新たな表示が現れる。
〈その毒はキノコから抽出されるものだ。採れる場所を教えてやろう〉
城にいる人からの情報だろうか。ウィンドウには新たな項目が出現していて、その名も〈地図〉。パンフレットにあるような、集落周辺の地図が載っていた。
その中に、赤い点が一つ。これは、キャンプ場の近くにある、川沿いを通る遊歩道だろうか。
「やったな! なんか、このゲームの面白さが分かってきたかもな。こう、一歩一歩、手探りに進んでいる感じが楽しいわ。今度はどこに行くとか、目的は見つかったのか?」
「やっぱり魔王城かな? 家に戻って夜を待たないと駄目かなぁ?」
「それなら、あの一つ目巨人を何とかしないとな」
林田と相川が話している。私はなんだか、申し訳なく思えてきた。
「どうしたの?」
私の様子を不審に思ったのか、名嘉が肩に触れる。
彼女に、私のウィンドウが見えたようだ。
「あ……」
彼女も、察したらしい。私は、私たちは、この事実を林田に告げなくてはならない。
「ねぇ、林田」
「ん? 何だ?」
「お金……、キャンプ場まで運んでね?」
「……マジ?」
一つ、優しい所があるとすれば、失敗しても筋肉痛は持ち越さないってこと、かな?




