第十五話 たった一つの面倒なやり方
「一つ、考えがあるのだけど」
名嘉がそう言ったのは、私の方で休む小さな動物、ヤマネから、今回の一件に関するある程度の説明が終わった後だった。
初回と同じ私の家、その上がり框で、土間に置かれた大量の紙幣を眺めながらの相談に一区切りがつき、飲み物を取りに向かった私が到着してから、話の続きが始まった。
「少し整理すると、紙幣を数えることによって、相手の戯駕に取り込まれるのね?」
「そう」
なんだか自分に注目が集まっているようでむず痒いと、私は軽い力で掴んで床に下ろした。
そこで、ちょっとした不安。
これ、鳥獣保護法とか大丈夫なの? 大丈夫か。多分、ここは異世界なのだし。それに、向こうから近寄ってくるのだから、私にはどうしょうもないのだし。
「職業を選ばされるのは、戯駕を発動させやすくするため」
「そう。戯駕っていうのはより強いイメージが必要なんだけど、そう言うのは何日も時間をかけて、想像を明確にイメージできるようにしないと駄目なんだ」
ソーセージを生み出したいと思ったら、何日もソーセージを食べたり、思い描いたり、常に考えていないといけないってことかな?
「でも、それだとゲームにならないから、レールを敷いたんだと思う。この職業にできることをする。それなら、イメージしやすいだろうって」
「たったら、最初からゲームの画面で全部出来れば済むことだろ? なんで、こっちにやらせるんだよ」
林田の疑問ももっともだ。
「それは、分からないけど……」
「それは、ロールプレイングって言うのがポイントなんじゃない?」
私は顎に人差し指を添えていった。少し考えての発言だった。
「ロールプレイングゲームだったら、そういうふうに全てをシステムに落とし込んだんだろうけれど、これはロールプレイング。つまり、最初から役になりきれって言っているんだよ」
「私が気になっているのも、そこなの」
名嘉が頷いた。
「私たちはゲームの通りに展望台へ行って、殺人事件に出会う。その時に、どの職業が一番重要だと思う?」
「魔術師の呪いで復活?」
相川は側頭部に人差し指を突き立てながら言った。
「魔術師は、どちらかと言うと呪い殺すほうだろ」
「えー、じゃあ、そう言う林田はどれだと思うのよ」
「魔王城へ行けって言うんだから、そこは勇者なんじゃないか? あの時のモンスターも、勇者にしか倒せないとか」
「倒すだけなら戦士でもいけないかな? そもそも、人が殺されているって言うんなら、医者がご遺体を確認しないと、とか?」
私が口を挟んで、名嘉を見る。
「私が言いたいの、それに関することなの。こちらには戯駕を扱える人材は一人だけ。でも、医者も必要、展望台から出るには戦闘をしなくてはならないかもしれない。さて、どうするのか」
あ、そうか。もしも私が戦士になった、現場で遺体の確認ができない。モンスターへの対処はできるかもしれないけれど、怪しい項目を一つ飛ばしてしまうことになる。
「てことは……、詰んでる?」
ちょっと興奮した。
「詰む、って言うのが何を指すのかはいまいち分かっていないのだけれど、四人全員が戯駕を扱えるようにならないと、まともに進められないのは確かだと思う。けれど、抜け道もある」
「あ、カナってば、それが考えってやつなんでしょ?」
もったいぶらないで早く言いなよ、と相川に急かされて、名嘉は話を進める。
「肝心なのは、モンスターに倒されることで、進行がリセットされたということ。つまり、詰まったらあえて負けることでリセットして、情報収集を続けることができないか、ということ」
「つまり……、どういうことだ?」
林田は考えることを止めたらしい。
「えっと、つまり……」
私は、その言葉を噛み砕いて消化していく。
「私がそれぞれの職業になって進めてみて、リセットされたら次は別の職業になって進めて……。それで、いつかクリアできるかも。みたいな?」
「そういうこと。幸いリセットされても実害はなさそうなのだし。そこのところ、どうなのかしら」
「ない。戯駕は他人の生命に影響を与えられないから。だから、戯駕の影響の範囲外まで戻されるんだ。それに、周囲に人が居なかっただろ? それは、俺たちが戯駕に取り込まれたから。その間、時間の流れは外と中と別々になる」
つまり、取り込まれた戯駕のなかでどれだけ時を過ごそうが、外の世界では一秒も経っていない。
それが、最低限のルールか。覚えておこう。
「それが、今、行えるなかで最善の攻略法だろうね」
ヤマネは器用に頷いた。
「てことは、だ。リセットされて朝に戻ったら、俺たちは戯駕を扱えるようになるための行動をしないとならないよな。うーん……学校、休むか?」
「それで、クラスメイトから怪しまれて、自分たちも参加したいって言われて、みんな学校を休んでしまったら。先生方に迷惑がかかるでしょう?」
それは問題外だと、名嘉は言っているようだった。
「はい、名嘉先生」
「なんです、相川さん」
眼鏡の奥で、目尻が少し下がった。名嘉って結構、こういうノリが好きなのか。
「アタシたちが戯駕を使えるようになるまで、お金を放置するのは?」
「駄目。他の人が見つけて、先を越されたら嫌じゃない」
「いや、そんな理由でかよっ!?」
林田の鋭いツッコミ。
「それ、分かる。でも、なるべく努力はしたいよね。今は、アユに任せるしかなくても」
猫ちゃん、また来ないかなぁ。相川は嬉しそうに目を細めた。
「だったら、俺は格好良い動物が良いよなぁ。ライオンとかっ!」
「そんなのが此処に居たら怖いわっ!」
相川の鋭いツッコミ。
「とりあえず、紙幣を数えましょうか」
これで相談も終わり。ここからは、本当の意味でのゲームスタートだ。協力プレイをソロで攻略する。そんな理不尽さに挑む。あぁ、やっぱり、興奮してきたかも。




