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第十三話 ピンチからの!

 展望台周辺を探索して、分かったことは一つだけ。


 ゲーム上では王様が殺された城となっているこの展望台、夜になると魔王城に変わってしまうらしいのだ。つまり、魔王と会うには夜になるまで待てばいい。


 展望台で待つには少々暇というか、手持ち無沙汰になってしまうため、ひとまずスピードキングに乗って我が家を目指すことに。

 その道中――。


「お、チャイムが鳴った」


 ウィンドウに新たな表示が現れる前兆を聞いて、私たちはそれを開いた。

 表示された文章は、〈モンスターが現れた〉。しかし、その表示だけで画面は真っ暗なままだった。戦闘は画面内で完結するのかと思っていたけれど、そうではない?


 私は疑問に思い、ウィンドウの至る所に触れてみる。けれど、新たな表示が現れることはなかった。


「うーん、自分のステータスなんかも分からないし、どうやって戦闘をするんだろう?」

「モンスターとは、戦闘をするものなの?」


 助手席に座っていた名嘉が、振り返って私に問う。私は相川とともに、後部座席に座っていた。


「うん。大抵は戦うね。たーまに、倒しちゃいけないモンスターが、普通に戦闘を仕掛けてくることがあるゲームもあるけどね。ま、基本的にはモンスターを倒してレベルを上げるってのが、ゲームの大部分かな」

「俺、ボスに挑んで負けたらレベル上げをするタイプ」

「へぇ、私は逆。万全の状態にしてボスを倒したい」


 運転の必要のない運転席の林田は、振り返って笑った。


「ねぇ……、あれ……」


 か細い声を出した相川を、私たちは見た。その視線は、遥か遠くの方を見つめている気がして、私たちは揃って、そちらの方向へ目を向けた。


 開いた口が塞がらない。


 巨大な一つ目の巨人が、音もなくこちらに歩み寄ってきていた。


「あれ、ヤバくない、アタシたち、ピンチじゃない」


 相川の手が私の方に触れる。私の小さな体に隠れようとしているのだろうか。守ってあげたいって思うけれど、どうすればいいかは分からなかった。


「くそっ、どうすんだよ。この画面、何の反応もしないんだぞ? まさか、あの巨体に生身で立ち向かえってのか? 名嘉、戦えると思うか?」

「無理でしょうね。武器もないし。あってもあの巨体に通じる武器なんて、ミサイルでも持ってこないと無理でしょう」


 つまりは、お手上げ。


 スピードキングに乗っていれば安全である、というのは一度学んだことなのだけれど、それはごく一般的な相手に対しての事であって、こんな不思議な事態に対応しているのかどうかは、未知数。


「スピードキング、あなたに乗っていれば安全?」


 私の問いへの答えは、ブレーキだった。


「ま、無理だね。こりゃ、完全に相手の戯駕(ぎが)に取り込まれている。何とかできないこともないけれど……、先手を取れなかったから無理だな」


 ぎが? それは何――と問い掛けている余裕はなかった。


 迫る巨人。振り上げられる巨大な手のひら。まるで、月のない夜のような世界に、私たちは包まれた。 




「うるさいなぁ……、疲れているのに……」


 私は起き上がらないぞ、と抵抗をする瞼を擦りながら、手探りにそれを探し求めた。

 スマートフォンのアラーム。おそらく朝、なのだろう。なんだかすごい夢を見た気がするなぁ。まだまだ寝ぼけているのだろうか。


 目を覚ますには、朝イチの無料ガチャに限る。


 そう考えて、優しくまぶたをマッサージして機嫌を直してもらい、その画面を見つめた。時刻はいつもの起こされる時間。日付は――。


「朝っ! 今日、え、今日の朝だっ!?」


 何を言っているか分からないけれど、この日は確かに、大金を拾った日の朝だ。そう、今は朝になっている。私は、学校帰りの放課後に大金を拾って、展望台へ向かったはずなのに。


 そこで――。


 メッセージアプリの通知が届く。好きな相手とグループを組んだり、特定の相手と二人っきりでチャットのようなことができる、人気のアプリだった。相手は相川だ。


   >ねね、戻った? 戻ったよね? 時間!


   >うん、戻った。朝になった。


   >早めに学校へ行って、相談しよう!


 短いやりとりの後で、私は急いで自宅を整え、菓子パンを齧りながら家を出た。お昼はスーパーに駆け込むことに決めて。


 分かれ道で合流することなく、私は学校へ辿り着いた。それはひとえに、足があったことに尽きるだろう。


「ありがとうね、スピードキング。そう言えば、大金はまだなかったなぁ」

「仕掛けたやつは、今頃はまだ寝ているんだろうな。あの時間じゃなきゃ駄目ってわけだ。また、迎えに来る。坂に行ってしまえば、また始まっちまうだろうからな」


 先ずは学業。これは仕方がない。


「やっぱり、来たわね」


 スピードキングとすれ違うようにして、名嘉が駆け寄ってきた。


「来ると思って、メセチャしなかったの?」

「ええ、時間の無駄だと思って」


 ドライだなぁ、と笑った。


「今の、スピードキングね」

「そう。色々と教えてくれたの。戯駕(ぎが)についてとか、あの時どうすればよかったのか、とか」


 曰く、最初からあのような仕掛けと分かっていれば、最初から説明しておいたのに。


「戯駕っていうのは、自分の想像を具現化する力。この集落周辺を根城にする動物が備えた力。それに対抗をするには、ね。私たちも戯駕を使うしかないの。動物に力を借りて、つまり――超獣神忽(ちょうじゅうじんぶつ)ってやつをして、ね」


 超獣神忽戯駕、か。なんとも巫山戯た名前だことで。ま、これを気にするなっていうのは、無理だよね。


 未知なる力、イコール、ワクワク。漫画のタイトルにもなりそうだ。

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