第十二話 根気よく
かつて城が建っていたらしい展望台から、魔王城を目指すこととなった私たち。けれど、もちろんこの世界に魔王城なんてものはなく、どこへ向かえばいいかはさっぱり分からない状態。
この集落に明るい、民宿の女将から助言を得ようか。タイミングよく現れたスピードキングに乗って、長い坂を下ろう思ったその時――。
「ちょっと待って」
車に乗り込もうとするみんなを、私は止めた。
「なんだよぉ、早く行こうぜ?」
林田は、そんな私を不審に思っている。このパーティー唯一の男子は、レトロな車に興味津々のようだ。
「何か、考えがあるのかしら」
眼鏡の奥で鋭い視線を投げ掛ける名嘉は、下らないことを言うなよ、と伝えようとしている様子。駄洒落やジョークのターンは終わり、なのだろうか。
相川の方を見ると、反対に期待している様子で目を光らせている。
果たして、私の言葉はどちらの期待に応えるのか。
「あるよ。ロールプレイングゲームの基本、その一っ! くまなく調べるっ!」
一様にキョトンとしているだけに、みんなには知識がないのだろう。私としては、ちょっと信じられない。ロールプレイングゲームといえば、隠されたアイテムが重要な役割を果たす。それが見つけにくい場所にあるから質が悪い。そういうものなのだ。
例えば、長い一本道を歩いているとする。何の目印のない箇所を調べると、なんと門を開ける鍵が手に入るのだ! そうしないと進められない、っていうことを平気でするのだから手に負えない。
まぁ、昨今のゲームでは、あまり見かけない要素だと思うけれど。
「つまり、ゲーム上ではここにはお城があるわけ。もしかしたら、城下町もあるかもしれない。位置情報でゲームに連動しているのだとしたら、特定の場所に立つことで、画面が反応して、新しい情報が表示されるかもしれないでしょ?」
「なるほど、筋は通っているわね」
あれ、信用されていなかった?
「私、変なことは言わないよ?」
「ごめんなさい。そういう訳では無いの。あまりテレビゲームというもので遊んだことが無かったから、この状況の進め方が分かっていなくて」
「それは、みんな同じだよねぇ。アタシだって、表示された通りにすればいいかと思っちゃった。林田はどうなの? 多少の経験はあるんでしょ?」
「俺はスポーツ系を主にやっていたからなぁ。ロープレのいろはってのは、いまいち分からん」
雑多なジャンルを遊んでいる方が、案外少数派のような気もするけれど。
大抵の場合は、遊びたいゲーム、ジャンルが既に決まっている上でゲーム機を購入するだろうし。それで、他のものもちょっとやってみようかな? と流れてくる。
林田に、野球を題材にしたゲームを勧めてみようか。アドベンチャーゲームだと言うのは、内緒にしておいて。
「それなら、私の言うことを聞いておいたほうがいいと思うよ。ほら、林田を先頭にして、一列になって!」
「それ……意味のあること?」
「えっと……あるっ!」
ただやってみたいだけ、なんて言ったら、きっと真面目な名嘉は拒否をするだろう。だから、内緒。
相川あたりなら、喜んで付き合ってくれると思うし、少しばかり私の道楽に付き合ってほしい。
職業で勇者を選択した林田を先頭にして、戦士の私、魔術師の相川、医者の名嘉、その順番で展望台を隅から隅へと歩いていく。
念のため、逐一ウィンドウを開いて確認をする。新たな表示がある際には、ピンポーンというチャイムが鳴るようだけれど、果たしてこの隠された要素にも対応しているのか。
不安がある時は、何でも試してみる。それが鉄則だ。
電車のスイッチバックのように、ジグザグと進んでいく。観光客が居なくて良かったって、心の底からそう思う。
「なぁ、全然見つからな――」
振り返って、林田が私を見下ろして固まった。
「むふふ、アユってば、結構あるでしょ? 制服は少し大きめだし、普段からゆったりした服しか着ていないから、分かりづらいんだよねぇ」
「べっ、別にそんなとこ見てねぇよっ!」
「えぇ? そんなところってどこぉ?」
「知るかっ!」
人を挟んで、そんなやりとりは止めてほしいのだけど。少し猫背でウィンドウを眺めていたのが、もしかしたら悪かったのかも。
「やっぱり、一列になって調べるのは効率が悪いと思うわ。それぞれ別の場所を探しましょう。役職によって分かるものがあるかもしれないのだし」
「あれ、名嘉って実はゲーム経験がある?」
「ないけど、わざわざ役職を選ばせるということは、それぞれに、それぞれの役割があるのでしょう? それがどういったものかは分からないのだけど」
分からないからこそ、試してみる。それがロールプレイングゲームの醍醐味なのだ。
「じゃあ、勇者である林田は、城であるこの展望台周辺を調べてみて。魔術師のアイちゃんも、かな。先ずは、たけど。あ、なるべく距離を取って調べてみてね」
「りょ! ほら、林田、行くよ」
「はいよ」
勇者でしか入ることの許されない部屋、そんなものがあるのかないのか、と言ったところか。
「私たちはどうするの?」
「少し下って、道の方から、駐車場にかけて調べてみよう。もしかしたら城下町もあるかもしれなくて、そこに暮らす人に、戦士だとか医者が求められているかも知れないし」
「それなら、手分けをして。私は道から。あなたは駐車場から調べましょう。調べ終えたら、勇者チームと交代ね」
「うん。絶対に何かあるって信じると、怪しいものが見えてくるからね」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
怪しいのに何もない場合は、本当に腹が立つのだけど。
そうして、私たちは散開をして周囲を探索し始めた。改めて、観光客が居ない幸運を喜ぼう。
「なぁ、俺は何をしていればいい?」
「ドリフトでもしていたら? 邪魔にならないように」
「難しい注文だなっ!」
「じゃあ、コーラでも飲んでいて」
「炭酸で走る未来の車じゃねーんだよっ!」




