第十一話 嫌な予感
空中に浮かぶゲーム画面を、私たちは眺めていた。
そこには〈職業を選択してください〉と表示されていて、いくつかの名前が並んでいる。
「アタシ、ゲームとか経験があんまりないから、どうしたらいいかさっぱり分からん。カナは分かる?」
「私もあまり。アイと変わらないと思うわ。ここは、歩と林田に任せてみようかしら」
私は任せろ、と胸を叩きたいところだけど、林田はそうではないみたい。
「俺だって、最近はその手のゲームをやっていないけどな。けど、懐かしいなぁ。親父の実家で遊んだのを思い出すわ。こういうドット」
「そう? こう言うの、最近は復刻版とか、リマスターとかリメイクだとかで、ありふれていると思うけど」
「それは、ゲーマーの意見じゃねーの?」
そうなのだろうか? 少なくとも、私にとっては馴染み深い、粗いドットの文字だった。
「勇者、戦士、魔術師、医者。最後だけ、急に現実味があるなぁ。そこは、僧侶とかじゃないのって思っちゃう」
「『ロールプレイング殺人事件』なんだろう? 医者がいないと始まんないんじゃねーの? 俺、勇者にしよっと」
林田の指がウィンドウに触れると、私たちの画面に映る勇者という文字も、暗いものに変化した。
「あ、これ誰かが一つ選ぶと、他の人はそれを選べないみたい。ね、林田。一度選んだら変更は出来ないの? 何度も選択を繰り返すと、隠し職業が現れるとか」
「いや、この画面では変更は出来なさそう。他のプレイヤーを待っています、って表示されている」
残念。探偵でも現れるかと思ったのだけど。
「どんなふうに進むゲームか、分からないけれど、一応、初心者二人は後衛のほうがいいかな? アイちゃんは魔術師、カナちゃんは医者を押してもらっていい?」
そして、私は戦士。それぞれが返事をして項目を押すと、表示が消えて、新たな文字がぽぽぽぽ、という独特の効果音と共に一文字ずつ表示されていく。
「〈先ずは城を目指しましょう〉か……。チュートリアルがない。クソゲーか?」
「そう言うのが判断の仕方なの?」
首を傾げる名嘉に向かって、私は笑顔でこう言った。
「クリアが難しい、鬼畜ゲーって呼ばれるジャンルでありがち」
「嫌な予感しかしないのに、なんでアユはそんなに笑顔で、楽しそうなのかなぁ」
「ゲーマーの性、なのかなぁ? アイちゃんもきっと、分かるよ!」
「分かりたくねーです」
残念。ゲーマーの性はゾンビにはなれない。
「そんなことより、城を目指せってどういうことなんだろうな。画面は真っ暗だし、操作のできそうなキャラクターはいないし」
林田の疑問はもっともで、画面に触れても、表示は城云々のものから変化はない。つまり、この画面行えることは、今はない、と言えるのだろう。
「位置情報ゲー、みたいなものなのかな? ほら、私たちが実際に動くことで、ゲームが進む。現実世界にあるものが、ゲームに深く関わっている。みたいな」
「じゃあ、城ってどこにあるんだよ」
「私は知らない」
お手上げのポーズ。
相川もそれを真似をする。
「それなら多分、展望台ね」
名嘉が言った。
「なんでだよ。あそこには城は建ってないぜ?」
「建ってはないけど、あそこは城跡って話よ。展望台を造っている石垣は、元々は城の跡だって」
「へぇ、よく知っているね」
私は感心して言うと、彼女はパンフレットに書かれていたという。まったく気が付かなかった……。というのは三人の言葉。
向かうのはいいが、大量のお金はどうしよう。特に進言がないのなら、放置してもいいのでは? そう結論に達し、念のため一輪車を土間に運び入れて、しっかりと施錠をして旅立った。
展望台へは、曲がりくねった道をひたすら進めば見えてくる。途中でハイキングコースも設置されていたけれど、そちらに入ると遠回りになってしまうため、舗装された道路を歩く。
「林田ってさ、この三人の中なら誰がタイプ?」
「はあっ!?」
相川の唐突な質問に、彼は明らかに動揺した。本命がいそう。と、私たちは何となく察した。
「べ、別に、そう言うのは意識したことねーな。ほら、女の子だったら誰でもいいのよ。誰といても、楽しいからな」
「へぇ? じゃあ、今度デートでもしてみる? あんたは楽しいのかもだけど、果たしてアタシは楽しいかなぁ?」
「デートって、何処へ?」
「街……、に何かあったっけ?」
「大型のスーパーとか、電気屋とか、ラーメン屋とか?」
私たちは、まだ国道沿いしか知らない。
十分ほど歩くと、右側に広いスペースができる。そこが展望台で、左側には駐車場と公衆トイレ、飲料の自動販売機が並び、休日にはたこ焼きの屋台が出店していた。
そこで閉じていたウィンドウを開くと、新たな文字が表示されていく。
「〈王様が殺された。魔王の仕業かもしれない。魔王城を調べてくれ〉。ふむ……。説明もなく、たらい回し。クソゲーだ。好き」
「プレイヤーを置いてけぼりにする展開が好きとか、分からんわぁ」
林田はため息をついて、自動販売機へ向かった。すかさず思い思いの注文をして、私たちはベンチに腰掛けて相談を始める。議題は一つ。魔王城って?
「城跡が目的の城だったということは、魔王城は別の場所にあるんだよね? カナちゃん、他に城ってないの?」
「聞いたことがないけど……、民宿の女将さんなら、詳しいんじゃないかしら」
「えー、民宿まで行くのぉ? それってスーパーの近くでしょ? とーおーいー! 流石に歩くの疲れる!」
「確かに、そうよね。林田みたいに自転車を持ってきたら良かったかしら」
「いや、もしも行ったり来たりをしなくちゃならなかったとして、この坂を自転車で上り下りするのは大変だよ? そんなことより、こう、もっと便利な移動法があると思う」
つまりは、そう。噂をすれば影。
「ふっ。呼んだかい? 俺のスピードが火を吹くぜっ!」
颯爽と現れる旧車。
「お? 何だ、この古臭い車」
「んだと、てめぇっ!?」
「ギャァァァッ!? 無人の車が追いかけてくるだとォォォッ!?」
あ……、コーラを抱えたまま、走り回らないで……。




