8話《本当は孤独だった。でも・・・その風があったからこそ》
今日いっぱい書きすぎて、疲れてるから駄作かもしんない・・・
「・・・ユウライ・・・じゃないな・・・また敵か・・・」
洞窟の外から聞こえてきた気配に、シェリスは僅かに期待した。
だが、すぐに違うと分かる。
近づいてきたのは、いつも通り財宝や名誉を求めてやって来た人間だった。
シェリスはその事実に、少しだけガッカリしてしまった。
そして、その感情に自分自身が驚く。
「我が・・・一人の人間に・・・期待するとは・・・」
これまで人間など、愚かで欲深い存在としか思っていなかった。
それなのに今は、ユウライが戻ってくることを自然と待っていた。
たった二週間。
それだけの時間で、自分の中にこんな変化が生まれていることを、シェリスはまだ上手く理解できずにいた。
「何言ってるんですか?シェリスさん?」
「は・・・?」
聞き覚えのある声に、シェリスは顔を上げた。
目の前には、ユウライが立っている。
だが、おかしい。
先ほど確かに感じ取った気配は、いつもの敵と同じものだった。
ユウライではない。
そう判断したはずだった。
なのに、今そこにいるのは紛れもなくユウライだった。
シェリスは違和感を拭えず、確かめるように問いかける。
「住めって言った。後日、お主は何をした?」
「え?鶏肉を持ってきたと?」
「・・・・・・」
合っている。
あの日の出来事を知っている。
だが、それでも違和感は消えなかった。
何かがおかしい。
そう感じるには、十分だった。
「敵が来た時、追い払う時に風系のスキル使っていたな、それは使えるのか?」
シェリスは、目の前にいるユウライを確かめるように問いかけた。
これで使えたら本物。
そう考えたかったが、それでも違和感の正体は未だ分からない。
「《暴風拳》ですね?やりますので、気を付けて下さい」
「・・・・・・」
迷うことなく答えた。
そして、《暴風拳》を使おうとしている。
少なくとも、記憶だけではなくスキルまで同じらしい。
「(スキル使えたからって本当だとしても・・・直感が・・・我の直感が違うと言っている・・・)」
シェリスは悩んでいた。
同じ記憶を持ち、同じスキルまで使える。
ここまで揃っていれば、本物だと判断する材料としては十分なはずだ。
だが、同じスキルが使えるからと言って、それだけで本物だと決めてしまっていいのか。
どうしても、胸の奥に残る違和感だけが消えなかった。
「この時を待ってましたよ」
そう言った直後。
洞窟の外へ向けて放つはずだった《暴風拳》が、突然シェリスへと向けられた。
まるで、この瞬間をずっと待っていたかのように。
「!!」
ドンッ!!
凄まじい衝撃が洞窟内に響き渡る。
シェリスの身体は大きく吹き飛ばされ、地面を滑るように転がった。
「ハァ・・・ハァ・・・貴様・・・やはり、偽物だったか・・・ゴフッ」
口元から血が零れる。
それでもシェリスの視線は、目の前の“ユウライ”から離れなかった。
違和感は、間違っていなかった。
記憶も。
スキルも。
姿も。
全て同じだったとしても――。
目の前にいる存在は、ユウライではない。
「貴様・・・《移し鬼》か・・・」
《移し鬼》。
相手の姿・声・記憶・スキルを模倣する妖怪。
しかし、本人の感情や価値観までは完全に再現することができない。
だからこそ、シェリスは最初から僅かな違和感を覚えていた。
「いやぁ、珍しい人間居たから利用させてもらったよぉ?あの古龍様がこんなにズタボロなんてねぇ?」
「貴様ァ・・・!!」
シェリスは怒りを露わにする。
自分を騙したことだけではない。
ユウライの姿を利用し、その記憶やスキルまで奪ったことが許せなかった。
「これで国からの大金がガッポガッポ手に入る!!名誉もなぁ!!」
移し鬼は、完全に勝利したと思い込んでいた。
弱りきったシェリスを見下ろしながら、大声で笑う。
そして――。
倒れているシェリスへ近づくと、その身体を容赦なく思い切り蹴り飛ばした。
すでに大きな傷を負っている身体へ、さらに衝撃が加わる。
それでもシェリスは、憎悪を込めた目で移し鬼を睨み続けていた。
「最後に言い残す言葉はそれだけか、クソ野郎」
「は?グハッ!?」
「!!」
突如として現れたもう一人のユウライが、移し鬼の腹へ拳を叩き込んだ。
あまりに突然の一撃に、移し鬼の身体が大きく浮き上がる。
シェリスは、その姿を見た瞬間――何故か安心していた。
理由など、もう分かりきっていた。
目の前に現れたその男こそ、本物。
自分が待っていた、本当のユウライだったからだ。
「本物の暴風拳を見せてやるよ・・・」
「は?」
「こうやるんだよッ!!」
次の瞬間、ユウライの拳から解き放たれた暴風が、移し鬼を真正面から飲み込んだ。
バガァァンッ!!
轟音と共に、暴風は洞窟内を突き抜ける。
それは先ほど移し鬼が放った《暴風拳》とは、似て非なるものだった。
ただ真似ただけの風ではない。
守るために振るわれ、敵だけを穿つ――本物だけが持つ一撃だった。
「大丈夫ですか!シェリスさん!今から治癒魔法かけますね!!」
ユウライは傷ついたシェリスの元へ駆け寄り、すぐさま治癒魔法を使おうとする。
だが――。
「もう大丈夫です」
「え?」
シェリスは傷ついた身体のまま、ゆっくりと立ち上がった。
先ほどまで移し鬼に騙され、重傷を負わされていたというのに、その瞳にはもう迷いがなかった。
「私は貴方の従者を選びます」
「従者ってーー」
パァァァァァ!!
突然、シェリスの身体を眩い光が包み込む。
洞窟の中を照らすほどの光に、ユウライは思わず目を細めた。
「急に何をーー」
やがて光が収まっていく。
「これからは貴方様に仕えさせて頂きます。ユウライ様」
そこに立っていたシェリスの姿は、それまでとは大きく変わっていた。
シェリスの姿は、人の姿を取っていても、どこか人ならざるものを感じさせた。
艶のある黒髪は肩口で揺れ、その頭には大きく湾曲した黒い角が二本。
耳は長く尖り、赤い瞳は静かに相手を見据えている。
身に纏っているのは、黒と白を基調としたメイド服。
上品に整えられた衣装とは裏腹に、その立ち姿からは古龍らしい威厳が滲んでいた。
腰には金色の懐中時計が下げられ、背後には黒い鱗に覆われた太い尾が覗いている。
一見すれば、美しいメイド。
しかし、その正体は紛れもなく――古龍。
かつて人間を嫌い、誰一人として信用しなかった古龍が。
この瞬間、自らの意思で一人の人間を主として選んだ。
「これから、よろしくお願い致します」
「ハァァァァァ!?」
あまりにも急な展開に、ユウライは状況を飲み込めずにいた。
そりゃそうだ。
つい先ほどまで人間を信用せず、誰にも従おうとしなかった古龍が。
たった一人の人間に仕えると、自ら決めたのだから。
シェリスはそんなユウライの反応を見つめながらも、理由を口にすることはなかった。
何故、彼を主として選んだのか。
何故、そこまで信じることができたのか。
それは、本人には言わない。
従者になると決めた、その瞬間から。
シェリスはそう決めていた。
そして、現在。
「風系って難しいんだなぁー」
ユウライは、自分の手を見ながら何気なく呟いた。
その隣で、シェリスは静かに微笑む。
「ふふっ・・・」
かつて、人間を嫌っていた古龍。
誰にも期待せず、誰も信じようとしなかった存在。
そんな彼女が、今はこうして一人の人間の傍にいる。
「(見返りを求めずに助けたからですよ、そして真面目で心優しいからこそ、ずっと傍に居たいと思ってしまったんです。孤独だったんです・・・本当は貴方のような人を探してたんです。ユウライ様・・・)」
その想いを、本人に伝えるつもりはない。
少なくとも、今はまだ。
ただ傍にいられるだけで十分だった。
シェリスはそう思いながら、変わらずユウライの隣に立っていた。
次回は新しい従者かなと思ってます




