7話《奇妙な人間から同居人になった》
日常回入りました。これで関係性が分かると思います。
約半月が経った。
相変わらず、シェリスの元には人間がやって来る。
国のため。
名誉のため。
力を得るため。
口にする理由こそ違えど、結局は自分の欲を満たすためにしか見えなかった。
あの日。
ユウライという一人の人間と出会ったことで、少しだけ人間に対する価値観を改めてみようと思った。
もしかしたら、自分が見てきた人間が偏っていただけなのかもしれない。
そんな考えすら、一瞬は浮かんだ。
だが――。
「・・・やはり、変わらんな」
何日経っても。
何人見ても。
あの日の男のような人間は、現れなかった。
そして・・・。
「シェリスさん、お久しぶりです」
聞き覚えのある声が、洞窟の入口から響いた。
シェリスはゆっくりと顔を上げる。
そこに立っていたのは――。
「・・・何故、また来た・・・?」
半月前。
何一つ奪わず、ただ道だけを聞いて去っていった男。
ユウライ・クロスだった。
「違う町行こうと思ったんですけど、オススメなとこあります?」
「・・・・・・」
シェリスは無言になる。
「貴様は・・・我を何だと思っている?」
「え?」
「案内人ではないぞ」
「いやぁ、前に教えてもらった道、めっちゃ分かりやすかったんで」
「・・・・・・」
またしても。
この男は、予想していたどの反応とも違っていた。
シェリスは、もう一度だけ探りを入れてみることにした。
「貴様、欲は無いのか?」
「めっちゃありますよ?」
あまりにもあっさり返され、シェリスは一瞬だけ黙る。
「じゃあ・・・何故、財宝や我の命を奪わん?」
「悪い事しちゃいけないって・・・ちゃんと習ってますので・・・それくらいは?」
「・・・・・・」
まただ。
また、この男はシェリスの想定から外れてくる。
欲が無いわけではない。
綺麗事だけを並べるわけでもない。
ただ、自分の欲のために他者を傷つけることを選ばない。
それだけのことを、まるで当たり前のように口にした。
「・・・それだけか?」
「それだけですね」
「財宝を見ても?」
「欲しいとは思いますよ?」
「では何故」
「シェリスさんの物じゃないですか」
「・・・・・・」
ユウライは本当に不思議そうな顔をしていた。
まるで、何故そんなことを聞かれるのか分からないとでも言うように。
シェリスはその顔をじっと見つめる。
「(・・・欲がありながら、奪わない・・・か)」
これまで見てきた人間とは違う。
だが、まだ信じるには早い。
「貴様、しばらくここに居ろ」
「え?」
「聞こえぬのか?ここに――」
「いや・・・聞こえてますけど・・・何故・・・?」
「興味本位だ。悪いか?」
あまりにも真っ直ぐ言われて、ユウライは少しだけ考え込む。
目の前にいるのは古龍。
しかも、つい半月前まで人間を片っ端から追い払っていた存在だ。
普通なら警戒する。
普通なら断る。
だが――。
「いいですよ」
「・・・何?」
シェリスの方が逆に面食らった。
「危機感は無いのか?」
「聞いといて?」
「・・・・・・」
確かにその通りだった。
自分から「ここに居ろ」と言っておいて、了承されたら危機感を問う。
「・・・妙な男だな、貴様は」
「シェリスさんも大概ですよ?」
「我に口答えするか?」
「え、ダメなんです?」
「・・・・・・」
また、調子が狂う。
威圧しても怯えず。
媚びるわけでもなく。
かといって無礼というほどでもない。
ただ普通に、自分と会話をしてくる。
シェリスはしばらくユウライを見つめたあと、ふいと顔を逸らした。
「好きにせよ。ただし、我の財宝には触れるな」
「分かりました」
「勝手に奥へも行くな」
「はいはい」
「返事は一度でよい」
「はい」
「・・・・・・」
ほんの少しだけ。
シェリスの眉間に皺が寄った。
けれど――。
その表情は、これまで人間に向けていた嫌悪とは、少し違っていた。
1日目。
「シェリスさん、食料取ってきました」
「・・・は?」
ユウライが抱えていたのは、仕留めたばかりの獲物だった。
「あ、嫌いでした?鶏肉?」
「そうでは無い。何故、我の分も取ってくる?」
「住まわせて貰ってるので?」
「・・・・・・」
あまりにも当然のように返されて、シェリスは言葉を失う。
自分の分だけ確保すればいい。
ここに住むことを許したのも、ただの興味本位だ。
それなのにユウライは、まるでそれが普通であるかのように、自分の分まで用意してきた。
「・・・好きにせよ」
「じゃ、焼きますね」
「待て。貴様、料理できるのか?」
「多分?」
「多分・・・?」
その日の食事は、思ったより普通に美味かった。
3日目。
「シェリス!!貴様の首を・・・・・・誰だ?」
洞窟へ踏み込んできた男が、シェリスの隣にいるユウライを見て動きを止める。
「ユウライです」
「・・・何故、人間がここに」
「この人間に手を出すな」
低い声。
たったそれだけで、侵入者の身体が固まった。
ユウライはその様子を見ながら、シェリスへ顔を向ける。
「シェリスさん、いつもこうなんですか?」
「あぁ。羽虫の様にウザイ」
「じゃあ、代わりにやります」
「何故・・・?」
「いや、ずっとシェリスさんばっかりやるの大変でしょ」
「・・・・・・」
シェリスはまた黙る。
ユウライにとっては、それだけだった。
恩を売りたいわけでもない。
強さを見せつけたいわけでもない。
ただ、面倒そうだから代わる。
それだけ。
「・・・勝手にせよ」
「はーい」
その後、侵入者はユウライによってあっさり追い返された。
それからも。
5日目。
「シェリスさん、そこホコリ溜まってますよ」
「我の住処だぞ」
「だから掃除します」
「何故だ」
「気になるからです」
7日目。
「これ、どこ置けばいいです?」
「貴様は何故、我の財宝を整理している」
「倒れそうだったんで」
「触れるなと言ったはずだが」
「じゃあ倒れてもいいんです?」
「・・・・・・」
10日目。
「シェリスさん、今日雨すごいですよ」
「見れば分かる」
「外出しなくてよかったですねぇ」
「我は飛べる」
「あ、そっか」
「・・・・・・」
そんな何でもない日々が続いた。
戦いでもない。
契約でもない。
主従でもない。
ただ同じ場所で飯を食べ、言葉を交わし、たまにユウライが余計なことをして、シェリスが呆れる。
そして――。
2週間後。
気付けばシェリスは。
洞窟の入口から聞こえてくるユウライの足音を、自然と待つようになっていた。
次回はどうしましょうね〜・・・色んなパターンあるから、迷う。




