5話《壊した壁と、過去の記憶》
このペースでどんどん書き続けたいですねぇ
俺は訓練室の床に胡座をかきながら、目の前に浮かぶ《ステータス》をじっくり眺めていた。
さっきまではレベルや能力値ばかりに目が行っていたけど、ちゃんと見てみると、他にも色々と分かることがある。
まず、持っているスキルの数。
想像していた以上に多い。
戦闘系だけじゃなく、補助、感知、耐性、特殊能力まで細かく分類されている。
次に、スキルの使い方。
能力ごとに発動条件や扱い方まで記載されていて、わざわざ手探りで試す必要なんてなかった。
そして一番大きかったのが――。
「ONとOFF・・・切り替えられるんだ・・・」
常時発動する能力もあれば、自分の意思で有効と無効を切り替えられるものもあるらしい。
《武神無双》もその一つだった。
つまり。
最初からステータスを開いて、説明を読んで、必要なスキルをONにすればよかった。
俺はしばらく無言でステータス画面を見つめる。
それから、さっき壊した人形と壁の穴へゆっくり視線を向けた。
「何だったんだよ・・・最初の件・・・」
技名を叫んで。
普通に殴って。
一人で恥ずかしくなって。
能力の使い方を身体で探って。
壁まで壊して。
全部、必要なかった。
「・・・俺、一人で何やってたんだろ」
転生して早々、自分で作ったシステムに敗北した気分だった。
コンコン。
「ん?はーい」
返事をした直後。
俺は、ふと壁の方へ視線を向けた。
「(・・・いや待てよ?)」
そこには、さっき《暴風拳》でぶち抜いた見事な大穴。
「(これ・・・普通に見られるじゃん・・・)」
今さら隠すのも無理だ。
素直に言うか。
言い訳したところで、たぶん見苦しいだけだし。
そんなことを考えているうちに、扉が開いた。
「失礼します。訓練室にいるとの事で、お茶をお持ち・・・・・・」
そこで言葉が止まる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
静寂。
入ってきたシェリスの視線が、俺からゆっくりと壁へ移る。
そして――。
穴。
再び俺。
また穴。
「・・・・・・」
何も言わない。
ただ、じっと見られている。
「(うわぁ・・・この無言が一番怖い・・・)」
俺は胡座をかいたまま、なんとなく姿勢を正した。
「・・・えーっと」
シェリスはまだ何も言わない。
「・・・壊しました」
先に白状した。
「加減は・・・したんだけどね?」
その言葉に、シェリスの視線がもう一度、壁の大穴へ向いた。
「・・・・・・加減、ですか?」
「はい・・・」
声が小さくなった。
どうやら。
従者との再会より先に、俺はメイド長へ謝罪することになりそうだった。
「なるほど・・・訛ってると思い、スキルを使ってしまったと・・・ふむ・・・」
「そうなんです」
俺は若干、目を逸らしながら答える。
「(嘘はついてないハズ・・・だって本当だもん・・・スキルなんてあったら使いたいけど、使い方知らないし・・・)」
少なくとも、《暴風拳》を試したかったのは本当だ。
ただ、その結果として壁まで吹き飛ばすとは思っていなかっただけで。
シェリスはしばらく俺と壁を見比べていたが、やがて小さく息を吐く。
そして壊れた壁へ手を向けた。
淡い光が広がり、崩れていた石材がゆっくりと元の位置へ戻っていく。
欠けた部分も、ひび割れも。
まるで最初から壊れていなかったかのように、壁が綺麗に修復されていく。
「おっ?」
思わず声が漏れた。
「壁を修復しました。次は気を付けて、お使い下さい」
「はーい・・・」
怒られるかと思っていた分、少しだけ安心する。
それにしても。
「(補助系スキルで普通に壁直せるんだ・・・便利すぎない?)」
この世界では、壊す側だけじゃなく。
直す側まで、普通に規格外らしい。
「風系スキル・・・」
シェリスが、ほんの小さな声で何かを呟いた。
「ん?」
俺が聞き返すと、シェリスは一瞬だけこちらを見る。
「いえ、何でもありません」
「うん・・・?」
何でもないと言われても、なんとなく引っかかる。
「(今、風系スキルって言ったよな・・・?)」
俺は首を傾げるが、シェリスはそれ以上何も言わず、持ってきたお茶を静かにテーブルへ置いた。
まるで、さっきの一言なんて最初からなかったかのように。
「どうぞ。少し休憩なさってください」
「あ、ありがとう」
カップを受け取りながらも、俺の頭の片隅にはまださっきの言葉が残っていた。
「(・・・まぁ、気にしすぎか)」
そう思って、ひとまずお茶に口をつけることにした。
「(懐かしい・・・主が過去に“救って下さった”風系スキルを久しぶりに・・・)」
シェリスは、修復された壁を静かに見つめながら心の中で呟く。
先ほどユウライが放った《暴風拳》。
ただの攻撃スキルではない。
シェリスにとっては、それを見るだけで過去の記憶が蘇るものだった。
「(あの時も・・・同じように・・・)」
一方の俺は、そんなシェリスの胸中など知る由もない。
「うま・・・このお茶」
さっきまで壁を壊していた人間とは思えないほど、呑気にカップを傾けていた。
シェリスはそんな俺を見て、ほんの少しだけ目を細める。
今の主は、過去のことを覚えていない。
それでも。
あの頃と変わらないものは、確かに残っている。
「・・・ユウライ様」
「ん?」
「いえ・・・何でもありません」
「またそれ?」
俺が苦笑すると、シェリスも小さく笑った。
こうして。
俺の知らない“過去”を知る従者と、何も知らない俺との時間が、少しずつ動き始めていた。
次は多分、過去シーンになると思います




