12話《商談終了、その後のご褒美》
興が乗ったので、続けて書いちゃいました〜
「これ以上、無礼を働くなら・・・バルガルド帝国だけでは無く、他国にも報告せざるを得ません」
「!!」
サロリアの言葉に、相手の表情が目に見えて強張る。
バルガルド帝国への報告だけでも十分に痛い。
それが他国にまで広がれば、今回の件は単なる商談の失敗では済まなくなる。
星界盟国との取引で無礼を働き、希少資源を安く買い叩こうとした。
そんな話が他国へ回れば、商人個人の信用だけではなく、その背後にいる組織や帝国側の評判にも影響しかねない。
「あほらし・・・そないなことも考えてへんかったんどすか?二流どころか、ど三流どすえ」
化乃は呆れたように肩をすくめる。
柔らかな京都弁なのに、言葉だけは容赦がない。
「(確かに、いくら俺が考えた国とは言え・・・ここまで強気に出れるもんなの?)」
ユウライは表情を崩さないまま、内心で首を傾げていた。
転生前はただの設定だった。
けれど今は、その設定が本物の国家として存在している。
そして星界盟国は、他国が簡単に無視できるような国ではない。
ユウライはまた一つ、自分が作った世界の現実を思い知らされていた。
も、申し訳ありません・・・三流は認めます・・・ですので、我が国、他国だけは・・・見逃してくれませんか・・・?」
その言葉を聞いた瞬間。
サロリアの表情からは、もはや呆れすら消えていた。
残ったのは、露骨な嫌悪感だけ。
化乃も同じだった。
深いため息をつき、相手を見る目は完全に冷め切っている。
「ウチらの主を侮辱しておいて、謝罪だけで済むと思ってますん?」
柔らかな京都弁。
だが、その声音には一切の温度がなかった。
サロリアも静かにユウライへ視線を向ける。
「ユウライ様、ご決断を」
「うーん・・・他国には、この件は言わなくていいよ」
その言葉に、相手の顔が僅かに明るくなる。
だが。
「コイツは・・・バルガルド帝国に任せるよ」
「っ・・・!」
「それと、これで国同士まで仲悪くならないようにって、ちゃんと伝えといて」
ユウライとしては、今回の件を必要以上に大きくするつもりはなかった。
問題を起こした本人には責任を取ってもらう。
だが、それだけで国同士の関係まで壊す必要はない。
個人の無礼と、国家そのもの。
そこは分けて考えるべきだと思った。
サロリアはその意図をすぐに理解したように、小さく頷く。
化乃も先ほどまでの冷たい表情を少しだけ緩めた。
相手を許したわけではない。
ただ、必要以上に報復を広げない。
それがユウライの出した結論だった。
「了解しましたわ。準備が出来次第、報告致します」
サロリアはユウライの判断を受け入れ、静かに一礼した。
「相変わらず、ユウライ様はお優しいどすなぁ・・・まぁ、それもウチらが忠誠を誓った理由の一つどすえ」
先ほどまで冷え切っていた化乃の表情も、ユウライへ向ける時だけは柔らかくなる。
「ははっ、ありがとうね」
「(知らないだけなんだよなぁ・・・従者達や他国との関係が・・・探り探りで行くしか、無いんだけど・・・)」
褒められるたびに少し複雑な気分になる。
優しさからそう判断した部分も、もちろんある。
だが、それ以上に――転生したばかりのユウライは、この世界で自分が築いた人間関係も、国家同士の距離感も、まだ十分に把握できていない。
下手に話を大きくして、知らないところで問題を増やすよりは、今は穏便に済ませた方がいい。
そんな事情など知らない化乃は、再び商人へと視線を戻した。
先ほどまでの柔らかな表情は消え、露骨に面倒そうな顔になる。
「で?いつまでおるんどす?はよ帰ってもろてもよろしおす?」
最後だけは、丁寧な言葉遣いとは裏腹に――。
明らかに「さっさと帰れ」と言っていた。
「は、はい!直ちに!!」
その一言だけで、商人は肩を大きく跳ねさせた。
これ以上ここにいるのは危険だと本能的に悟ったのだろう。
散らかした書類や荷物を慌ただしく整え、何度も頭を下げながら、ほとんど逃げるようにその場を後にしていった。
扉が閉まり、ようやく室内に静けさが戻る。
「この様な事態が起きぬよう、各国に報告しておきますわ」
サロリアは先ほどまでの険しい空気を少しだけ緩め、ユウライへ向き直った。
「おーありがとう。よろしく頼むよ」
「!!」
その瞬間。
サロリアの表情が、ほんの僅かに固まった。
外から見れば、本当に僅かな変化。
けれど内心では――。
「(「ありがとう」と言ってくれましたわ!!これだけでも褒美と言えますわ!!)」
先ほどまで外交の場で冷静に相手を追い詰めていた人物とは思えないほど、胸の内は一気に華やいでいた。
ユウライにとっては、ただ自然に出た感謝の言葉。
けれどサロリアにとっては、それだけで十分すぎるほど嬉しい。
自分の働きを見てもらえた。
認めてもらえた。
その事実だけで、先ほどまでの苛立ちすらどうでもよくなってしまうほどだった。
「で、では!わたくしは部屋に戻って、報告をまとめておきますので!失礼します!!」
そう言い残すと、サロリアは足早に部屋を出ていった。
ニヤけた顔を見られないようにしているつもりなのだろう。
だが、その去り際が妙に慌ただしかったせいで、むしろ分かりやすかった。
そして、残された二人はと言うと。
「なぁなぁ、ユウライ様?」
「ん?どしたの?」
化乃がどこか期待するように、少しだけ身を乗り出す。
「ウチにはあらへんの?」
「あー・・・相変わらず、頼りになって、カッコよかったよ」
ユウライは自然な笑顔で、思ったことをそのまま口にした。
別に深い意味はない。
ユウライからすれば、本当にそう思っただけだ。
この世界の人間関係をまだ十分に把握できていなくても、化乃が頼りになる存在であることくらいは分かる。
何せ、自分で考えた設定にはしっかりと――天才商人と書いてあるのだから。
「!!」
化乃の身体がぴたりと固まった。
予想していたより、ずっと真正面から褒められた。
しかも「頼りになる」だけではない。
最後に付け足された言葉まで、頭の中で何度も反響する。
「・・・か、カッコええって・・・」
さっきまで商談相手を冷たく追い詰めていた人物とは思えないほど、声が小さくなる。
「うん?カッコよかったよ?」
「二回言わんといておくれやす!!」
化乃は一気に顔を赤くし、扇子で口元を隠した。
「えぇ・・・?」
「ほんま・・・ユウライ様はそういうとこ、ずるいどすわ・・・」
「何が?」
「なんでもあらへん!!」
顔を背ける化乃。
だが、隠しきれていない口元はしっかりと緩んでいた。
結局。
この日の商談で一番効いた言葉は、どんな脅しでも交渉術でもなく――
ユウライの、何気ない一言だった。
商談はとりあえず、終わりましたかねぇ




