第一章 再会 01
『俺、大きくなったらパイロットになる!そんでアリアは俺が乗るロボを造ってくれよ』
『わかりました、約束です』
『約束!俺諦めないから、アリアも諦めんなよ!』
『はい!破ったら許さないですからね、悠司!』
幼い頃の、大切な約束。
だけど今は素直に向き合うことが出来ない
依吹悠司は罪悪感で目を覚ました。
ソファーで寝ていたせいか身体はどっと疲れていて、冷や汗で身体が冷え切っていた。
「はぁ……どうしたもんかな」
悠司は居眠りする前と全く同じように頭を悩ませた。
原因は目の前のタブレットに表示されている一枚の画像である。
「成績足りなくて進級危ういなんて、なんて説明すりゃいいんだ?」
その題名とは通知表。内容は、体育と家庭科以外壊滅というものだ。
春休みいっぱいは補習を行い、再試験で合格点を取らないと進級は出来ない、と強面の学年主任に脅かされたのはまだ数時間前の出来事だった。
『体育の成績の高さでなんとかならないですか?ほら、助っ人で大会優勝してるし…』
『それで甘くなるのは体育の成績だけだ。それに他の教科の成績をカバーするつもりならあと四回入賞せねばならんぞ』
『今年はセーブしてたのが仇になったか…』
『まったく…体育の授業以外、寝てばかりでさえなければ…普段の態度は良いんだから…』
『そうでしょ?だからここはひとつ、ねぇ…?』
『やめろ、コーヒーを袖の下に突っ込むな!俺は賄賂など受け取らん!普通に再試験に合格しろ』
『そんなぁ…』
家に帰ったあと着替えもせず途方に暮れ、そして今に至る。
パイロットになれないどころか、同い年の後輩になる可能性があるなんて、どんな顔をして説明すればいいかわからない。
「ま、そんな機会いつ来んのか…」
悠司は背もたれに身体を預けて、気の抜けたようなため息をついた。
アリア=ゼフィールは悠司の幼馴染だが、もう二年も連絡を取れていない。
『すごく重要な研究をするので連絡は取れません。いつになるかは分からないのですが、終わったら必ずこちらから連絡します』
そんなメッセージを最後に、アリアのアカウントは反応がなくなった。
そしてそのうち返答のないメッセージを送ることが寂しくなって、悠司の方も送るのをやめてしまった。
どのみちアリアが今の悠司の状態を知るのは、とうぶん先のことである。
「とりあえず走ってこようかな――」
悠司は頭を切り替えるためにランニングに向かおうとして、突然鳴ったインターホンで立ち止まった。
来客なんて珍しい、宅配便か?
確認もせずに悠司はドアを開けた。
「どちらさま――」
言い終わるより先に息が止まった。
彼女だけが、雲の切れ間から差し込む光に照らされていた。
まるでスポットライトが当てられているようで、金色の髪は透き通るように輝く。
それは身動ぎする度にふわりと揺れて、もし天使がいるとすればこんな髪なのだろうと、ふと悠司は思った。
「お久しぶりです、悠司。私のこと、覚えてますか?」
喋ったことに悠司は驚いた。精巧な西洋人形だと思っていたからだ。
肌は陶器のように白く滑らかで、瑠璃のような瞳が悠司を見上げるように覗き込んでいる。
妖精の知り合いなんて居たっけ?寝ぼけた頭ではあるが、悠司は一瞬本気でそう思った。
上目遣いに険が帯びはじめるのを見て、悠司は我に返った。
金髪、青い瞳、そして白衣。これらの特徴を持つ知り合いは一人だけ。
寝起きでも、どんなに勘が鈍くても流石に分かる。
「ちゃんとわかってるよ。…実は今とっても気まずい状況なんだが、何よりまた会えて嬉しいよアリア」
起きてほしくないと考えたことは、往々にして現実になってしまうのだろう。
機会は唐突に来てしまった。
悠司の頭には当然何のプランもない。
「覚えていてくれて嬉しいです悠司。……気まずい状況ってどういうことですか?」
当然アリアからの追及が入る。
嘘をつきたくないが、バカ正直には話しにくいのが本音だった。
どうにか間を持たせたい。
「ま、玄関先じゃなんだし、パンケーキでも食いに行こうぜ。バイク出すからさ」
悠司は駅前に新しいカフェができたのを思い出した。
アリアが好きそうなふわふわのパンケーキが売りだったはず。
ルートを計算しながら、悠司は黙々とガレージからバイクを出した。
「それ、悠司が乗りたいだけじゃないですか?」
悠司の誤魔化したい魂胆や、その裏の魂胆まで見抜いているのか、アリアは呆れたように笑ってヘルメットを被る。
「そ、ずっとアリアを後ろに乗せたかった」
躊躇わない。言うべきことは言う。
それがモットーの悠司は悪びれもせずにこやかに答えた。
「――い、行きましょう」
フルフェイスのヘルメットに隠れて表情はわからないが、アリアのくぐもった声は震えていた。
「じゃ、しっかり掴まってろよ」
「はい」
駅まで道のりにして十分程度。
市街地なので道路は平坦だし速度帯も控えめだ。
それなのにアリアは、やけにきつく悠司にしがみついていた。
アリアにバイクの後ろは怖かったかと、悠司はさらに丁寧な運転でゆっくりと向かうのだった。




