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断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


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外伝① 第78話 記録に残らない一日

 王国裁定院。


 新設されてから一ヶ月が経っていた。


 制度は、まだ完全ではない。


 だが。


 確実に動いている。


「次の案件です」


 ミレイアが書類を差し出す。


 私は目を通す。


 軽微な窃盗。


 だが証拠が曖昧。


「公開審査へ」


「はい」


 ミレイアが頷く。


 その動きはもう迷いがない。


 あの頃とは違う。


 ルーカスが横から口を挟む。


「記録も整っています」


「さすがですね」


「当然です」


 相変わらずの調子。


 だが、その「当然」が制度を支えている。


 エリオナは窓際で言う。


「いい流れね」


「はい」


 私は答える。


「まだ不完全ですが」


「不完全でいいのよ」


 彼女は言う。


「記録が残るなら」


 その言葉に、私は小さく頷いた。


 不完全でもいい。


 続くことが大切だ。


「院長」


 扉がノックされる。


 騎士が顔を出す。


「治安総監がお見えです」


「通してください」


 扉が開く。


 マルクが入ってくる。


 いつも通りの顔。


 だが少しだけ柔らかい。


「仕事中か」


「ええ」


 私は答える。


「そちらは」


「一応な」


 彼は部屋を見渡す。


 ミレイアとルーカスは察して席を外した。


 エリオナも無言で出ていく。


 自然と、二人だけになる。


「どうだ」


 マルクが言う。


「順調です」


「そうか」


 短いやり取り。


 それでも、どこか落ち着く。


 私は書類を置く。


「一つ聞いてもいいですか」


「なんだ」


「最近、見回りが増えていませんか」


 マルクは少しだけ目を逸らす。


「気のせいだ」


「気のせいではありません」


 沈黙。


 彼は小さく息を吐く。


「……少しな」


「なぜですか」


 答えは分かっている。


 それでも聞く。


 マルクは言う。


「制度が動いた」


「はい」


「敵も動く」


 短い言葉。


 そして。


「だから守る」


 私は少しだけ笑う。


「私は守られる側ではありません」


「知ってる」


 即答だった。


 沈黙。


 彼は一歩近づく。


「それでもだ」


 低い声。


「お前は」


 少しだけ言葉を選び。


「守る価値がある」


 心臓が一つ跳ねる。


 私は目を逸らす。


「それは制度です」


「違う」


 即座に否定される。


 私は顔を上げる。


 彼は真っ直ぐ見ていた。


「お前だ」


 沈黙。


 言葉が続かない。


 こんな時間は、まだ慣れない。


 外から声がする。


 人の気配。


 日常が戻ってくる。


 マルクは軽く咳払いをする。


「仕事に戻れ」


「はい」


 私は頷く。


 彼は扉へ向かう。


 その手が止まる。


「リリアーナ」


 名前を呼ばれる。


 少しだけ、特別な響き。


「はい」


「無理はするな」


 それだけ言って、出ていく。


 静寂。


 私はしばらく動けなかった。


 やがて。


 小さく息を吐く。


「……無理はします」


 仕事に戻る。


 書類を開く。


 記録を残す。


 制度は続く。


 世界は少しずつ変わる。


 そして。


 記録には残らない一日が。


 今日も過ぎていく。

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