第77話 悪役令嬢は断罪されない
王都の朝は静かだった。
あの日の喧騒が嘘のように。
街はいつも通り動いている。
だが。
確かに何かが変わっていた。
王城の新しい一室。
扉には新しい名が刻まれている。
『王国裁定院』
私はその前に立つ。
ゆっくりと扉を開けた。
中には机。
書類。
そして。
記録の棚。
以前と同じ。
だが意味は違う。
「院長」
声がかかる。
振り向くと、ミレイアがいた。
「準備は整っています」
「ありがとう」
私は頷く。
彼女は少し誇らしげに笑った。
かつての少女は、もう裁定官だ。
ルーカスもいる。
相変わらず無表情で書類を整えている。
「記録体制、問題なしです」
「さすがですね」
「当然です」
短いやり取り。
だが、それが心地いい。
エリオナは窓際にいた。
「いい光景ね」
外を見ながら言う。
「記録が残る世界」
「はい」
私は答える。
彼女は微かに笑った。
あの日とは違う。
もう。
消されることはない。
そのとき。
扉がノックされた。
「入れ」
低い声。
マルクだった。
騎士団長ではなく。
今は。
王国治安総監。
「問題はないか」
「ありません」
私は答える。
彼は部屋を見渡す。
「……変わったな」
「ええ」
私は言う。
「王国が」
沈黙。
少しだけ、穏やかな時間。
他の者たちが席を外す。
自然と。
二人だけになる。
マルクが言う。
「傷はどうだ」
「大丈夫です」
「そうか」
彼のほうこそ、あのときの傷が残っているはずだ。
だが何も言わない。
沈黙。
私は言う。
「一つだけ」
「なんだ」
「まだ聞いていません」
彼を見る。
「あのときの言葉」
マルクは一瞬だけ目を逸らす。
そして。
観念したように言う。
「……好きだ」
短い。
だが。
逃げない言葉。
私は静かに息を吐く。
「私は」
言葉を選ぶ。
制度。
責任。
立場。
全部ある。
それでも。
「逃げません」
彼は少しだけ笑う。
「知ってる」
沈黙。
そして。
私は続ける。
「だから」
彼を見る。
「隣にいてください」
一瞬。
時間が止まる。
マルクは何も言わない。
ただ。
ゆっくりと頷いた。
それで十分だった。
窓の外。
人々が歩いている。
もう。
誰も簡単に断罪されない。
記録が残る。
裁定が行われる。
そして。
間違いは修正される。
完璧ではない。
だが。
進む。
それが制度。
私は机に手を置く。
王国裁定院長として。
そして。
一人の人間として。
「始めましょう」
新しい一日が。
始まる。
悪役令嬢は。
もう断罪されない。
断罪を終わらせたからだ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
本作は「悪役令嬢×断罪×ざまぁ」という王道の中で、
「断罪とは何か」「正義とは何か」をテーマに書き始めました。
最初はただのざまぁで終わる予定でしたが、
書いていくうちに、リリアーナは“やり返す人”ではなく、
“仕組みを変える人”になっていきました。
そして気づけば、
断罪される側の物語から、
断罪そのものを終わらせる物語へと変わっていました。
ここまで読んでくださった皆様のおかげで、
最後まで書ききることができました。
本当にありがとうございます。
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少しだけ裏話を。
この作品で一番大切にしたのは、
「感情」と「構造」のバランスでした。
・理不尽への怒り
・守られる安心感(溺愛)
・最後にしっかりと報われるカタルシス
この3つが揃ったとき、
読後の満足感が一番強くなると考えています。
特にマルクの「守る理由」のシーンは、
この作品の感情の核として書きました。
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また、制度というテーマを扱った理由は、
「個人の強さだけでは救えないものがある」と思ったからです。
一人の正しさではなく、
“誰でも救われる仕組み”を作ること。
それがリリアーナの戦いでした。
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今後の作品にも繋がります。
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改めて、
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
またどこかの物語でお会いできたら嬉しいです。




