第74話 王都の敵
王都に戻ったその日。
空気は明らかに変わっていた。
視線。
ざわめき。
そして。
距離。
王城の廊下を歩くと、官吏たちが一歩引く。
制度監督官。
だが今は。
歓迎されていない。
「来ましたか」
低い声。
私は足を止める。
廊下の奥。
そこに立っていたのは。
宰相ローデリック。
黒い外套。
無駄のない姿勢。
そして。
冷たい目。
「お帰りなさい」
形式的な言葉。
だが温度はない。
「報告に参りました」
私は言う。
「北方領の件について」
「聞いています」
彼は軽く手を上げる。
「制度役人が死亡」
沈黙。
「重大な失態です」
周囲の空気が凍る。
私は言う。
「失態ではありません」
「ほう」
彼の目が細くなる。
「では何だと」
「意図的な妨害です」
沈黙。
廊下にいた官吏たちが息を止める。
「誰の」
宰相の声は静かだった。
だが圧がある。
私は一歩踏み出す。
「王国中央の人間によるものです」
ざわめき。
誰も声を出さない。
だが空気は揺れている。
宰相はゆっくり言う。
「証拠は」
「現時点では推測です」
私は正面から答える。
「ですが」
視線を逸らさない。
「複数地域で同時発生」
「訓練された犯行」
「制度への明確な攻撃」
短く区切る。
「偶然ではありません」
沈黙。
宰相はしばらく何も言わなかった。
そして。
「つまり」
静かに言う。
「王国の中に敵がいると」
「はい」
私は答える。
「そしてその敵は」
少し間を置く。
「制度を潰したい」
沈黙。
宰相は笑った。
ほんのわずかに。
「興味深い」
その笑みは冷たい。
「だが」
一歩近づく。
「制度はすでに失敗しています」
空気が揺れる。
「地方は混乱」
「役人は死亡」
「民衆は反発」
淡々と並べる。
「これ以上の証拠が必要ですか」
私は言う。
「混乱は作られたものです」
「証明できますか」
即座の問い。
沈黙。
私は答える。
「します」
短く。
強く。
宰相は私を見る。
その目は、値踏みしている。
「では」
彼は言う。
「国家審査を開きましょう」
ざわめき。
「制度の是非」
「そして」
少し間を置く。
「あなたの責任を」
空気が凍る。
マルクが一歩前に出る。
「待て」
だが宰相は視線すら向けない。
「騎士団長」
冷たい声。
「これは政治です」
マルクの手が止まる。
私は言う。
「受けます」
沈黙。
マルクがこちらを見る。
私は頷く。
「制度監督官として」
「責任は負います」
宰相は言う。
「良い覚悟です」
そして。
最後に。
「楽しみにしています」
その言葉は。
完全に。
敵の言葉だった。
宰相は去る。
静寂が残る。
マルクが言う。
「罠だ」
「分かっています」
私は答える。
「それでも行くのか」
「はい」
私は言う。
「逃げれば制度が死にます」
沈黙。
マルクは小さく息を吐く。
「……本当に」
少しだけ苦笑する。
「面倒な女だ」
私は微かに笑う。
「知っています」
窓の外。
王都は静かだ。
だが。
嵐はもう始まっている。
そして。
次は。
命をかけた戦いになる。
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