第71話 新しい秩序の始まり
国家審理から三日。
王都の空気は、まだ落ち着いていなかった。
制度が変わったからだ。
断罪制度は消えたわけではない。だが、王国の裁定によって形を変えた。
暫定裁定。
公開審査。
二段構造の新制度。
王国史上初の司法改革。
その中心にいるのが、私だった。
王城の廊下を歩きながら、私は書類を確認する。
「制度監督官、こちらです」
案内役の官吏が扉を開ける。
そこは新しく設けられた執務室だった。
広い机。
山のような書類。
そして壁一面の棚。
すべて記録用。
制度が変わった以上、記録は増える。
「すでに届いています」
官吏が言う。
「地方裁定報告」
机の上には十数枚の報告書が積まれていた。
私は一枚を手に取る。
南部領、窃盗事件。
暫定裁定実施。
拘束。
公開審査予定。
私は小さく息を吐いた。
制度は、もう動いている。
止めることはできない。
「忙しそうですね」
声が聞こえた。
振り向くと、扉のところにマルクが立っていた。
騎士団長の制服。
だが今日は、どこか柔らかい表情だった。
「騎士団長」
私は言う。
「仕事ですか」
「いや」
彼は肩をすくめる。
「様子見だ」
机の書類を見る。
「もう始まっているな」
「ええ」
私は頷く。
「制度は止まりません」
マルクは机に寄りかかる。
「止める気もないだろう」
「ありません」
即答だった。
彼は小さく笑う。
「相変わらずだ」
私は書類をめくる。
「騎士団のほうは?」
「忙しい」
短い答え。
「暫定裁定の拘束は騎士団の仕事だ」
つまり。
制度が動けば、彼も忙しくなる。
「迷惑をかけます」
私が言うと、マルクは首を振る。
「迷惑じゃない」
少し間を置く。
「秩序の形が変わっただけだ」
私はペンを置く。
「不安ですか」
「当然だ」
マルクは言う。
「制度が変われば、混乱も起きる」
沈黙。
「暴動も起きるかもしれない」
「分かっています」
私は答える。
制度は魔法ではない。
作った瞬間に平和になるものでもない。
「それでも」
私は窓を見る。
王都の街並み。
「記録は残ります」
マルクは私を見る。
「エリオナの言葉か」
「ええ」
彼女の言葉は重かった。
制度は人を守らない。
だが記録は守る。
マルクは腕を組む。
「一つだけ聞く」
「はい」
「逃げる気はないか」
私は笑った。
「ありません」
彼は小さく息を吐く。
「知っている」
沈黙。
そのとき、扉がノックされた。
「失礼します!」
若い官吏が駆け込んでくる。
「制度監督官!」
「何ですか」
「北方領から急報です!」
私は顔を上げる。
「何が」
官吏は言う。
「暫定裁定に対して」
少し息を整え。
「地方貴族が反発しています」
マルクが小さく呟く。
「……早かったな」
私は報告書を受け取る。
そこには短く書かれていた。
北方領。
地方領主。
暫定裁定拒否。
そして。
『公開審査制度を認めない』
私は静かに言う。
「地方ですか」
マルクは言う。
「王都の制度は地方で試される」
沈黙。
私は書類を閉じた。
「準備を」
官吏が言う。
「北方領へ?」
「ええ」
私は答える。
「制度監督官の仕事です」
マルクは苦く笑う。
「やっぱり行くのか」
「当然です」
私は言う。
「制度は机では守れません」
窓の外で鐘が鳴る。
王都はまだ平和だ。
だが。
制度は今、王都を出る。
そして。
王国の本当の試練が始まる。
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