第70話 王国の裁定
国家審理の議場は、完全な沈黙に包まれていた。
断罪制度。
公開審査制度。
暫定裁定制度。
三つの思想が、ここに並んでいる。
そして今。
王国が選ぶ。
王太子アルベルトがゆっくり立ち上がった。
その動きだけで、議場の空気が張り詰める。
「国家審理」
静かな声。
「最終裁定に入る」
誰も動かない。
「まず」
彼は言う。
「断罪制度」
沈黙。
「秩序維持装置として有効」
侯爵がわずかに頷く。
「だが」
王太子は続ける。
「正義装置ではない」
議場がざわめく。
マルクの言葉。
それが引用された。
「冤罪の可能性」
「記録不在」
「再検証不可能」
短く列挙される。
「よって」
沈黙。
「断罪制度の単独運用を停止する」
議場が揺れる。
「断罪は廃止ではない」
王太子は続ける。
「暫定裁定として再定義する」
つまり。
第一段階として残る。
侯爵の顔がわずかに動く。
完全敗北ではない。
次に王太子は言う。
「公開審査制度」
沈黙。
「記録と検証に優れる」
「だが」
「即応性に欠ける」
事実。
「よって」
短く言う。
「第二段階制度として採用する」
議場が静まる。
そして。
王太子は私を見る。
「暫定裁定制度」
沈黙。
「第一段階」
「秩序維持」
「第二段階」
「公開審査」
机に手を置く。
「この二段構造を」
ゆっくり言う。
「王国制度として採用する」
一瞬。
誰も動かなかった。
そして。
議場が揺れた。
ざわめき。
貴族たちが声を上げる。
「制度変更だ」
「王国法が変わる」
王太子は続ける。
「また」
沈黙。
「すべての裁定は」
「記録官による保存を義務化」
つまり。
証拠は消せない。
議場が静まる。
そして。
王太子は最後の言葉を言う。
「制度は」
短い沈黙。
「完成ではない」
「運用で完成する」
彼はゆっくり言う。
「ゆえに」
議場を見渡す。
「制度監督官を任命する」
沈黙。
視線が私に集まる。
「リリアーナ・エルフェルト」
私は立つ。
「はい」
王太子は言う。
「あなたを」
短い沈黙。
「王国制度監督官に任命する」
議場がざわめく。
悪役令嬢。
断罪されるはずだった女。
その女が。
制度の監督者になる。
侯爵が静かに言う。
「面白い」
エリオナは小さく笑う。
ミレイアは涙を拭く。
マルクは何も言わない。
ただ。
ほんの少しだけ笑っていた。
王太子は最後に言う。
「王国は変わる」
沈黙。
「だが」
その声は静かだった。
「変わる責任は」
視線が私に向く。
「あなたにもある」
私は頷く。
「承知しました」
鐘が鳴る。
国家審理。
終了。
そして。
王国の制度は。
新しい時代に入った。
悪役令嬢は。
もう断罪される存在ではない。
秩序を記録する者になった。
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