第69話 秩序の代償
国家審理の議場は、静まり返っていた。
第三の制度。
暫定裁定制度。
その提案は、確かに理にかなっている。
秩序の速さ。
記録の正義。
両方を持つ仕組み。
だが。
沈黙の中で、一人だけ動かない男がいた。
レヴァン侯爵。
彼はゆっくりと立ち上がる。
「理屈は理解した」
低い声。
議場に響く。
「だが」
沈黙。
「それは制度ではない」
ざわめき。
私は言う。
「理由を」
侯爵は言う。
「制度とは」
短い言葉。
「人間がいなくても回る仕組みだ」
沈黙。
「だが」
彼は机を指で叩く。
「お前の制度は」
紙を指す。
「人間に依存する」
ざわめき。
「三名評議」
「記録官」
「審査官」
侯爵は続ける。
「人が優秀なら回る」
「人が未熟なら壊れる」
ミレイアの証言が思い出される。
議場の空気が重くなる。
侯爵は言う。
「断罪は違う」
沈黙。
「責任は一人」
「判断も一つ」
机を軽く叩く。
「だから回る」
短い言葉。
「簡単だからだ」
議場が静まる。
侯爵は続ける。
「王国は広い」
「全員が賢いわけではない」
沈黙。
「だから制度は」
低い声。
「愚かな人間でも回る設計でなければならない」
重い言葉。
それは現実。
私は言う。
「断罪は誤る」
「誤る」
侯爵は即答する。
ざわめき。
「だが」
彼は続ける。
「王国は燃えない」
沈黙。
「それが秩序」
私は言う。
「冤罪が出ます」
侯爵は言う。
「出る」
また即答。
議場がざわめく。
侯爵は続ける。
「秩序には代償がある」
沈黙。
「それを払う覚悟があるから」
低い声。
「王国は続いている」
議場が静まり返る。
彼は私を見る。
「お前の制度」
短い言葉。
「誰が代償を払う」
沈黙。
答えは簡単ではない。
公開審査は遅い。
暫定裁定も完璧ではない。
侯爵は続ける。
「理想は美しい」
沈黙。
「だが王国は」
低い声。
「理想で回らない」
議場が静まり返る。
そして。
彼は最後に言った。
「代償を払う覚悟があるのか」
沈黙。
その問いは。
制度ではなく。
私に向けられていた。
国家審理は。
ついに。
最後の裁定を迎えようとしていた。
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