第67話 剣が守るもの
議場の空気が変わる。
名前が呼ばれた瞬間だった。
「マルク・ヴァルディス」
騎士団長。
王国の秩序を支える剣。
彼はゆっくり中央に歩く。
鎧ではない。
だがその姿は、まるで戦場に立つ騎士のようだった。
議場は静まり返る。
王太子が言う。
「証言を許可する」
マルクは軽く頭を下げる。
「承知」
低い声。
落ち着いている。
侯爵が言う。
「騎士団長」
「はい」
「断罪制度の役割を説明しろ」
マルクは少し考える。
そして言った。
「断罪は」
沈黙。
「暴動を止めるための制度だ」
議場がざわめく。
「秩序維持ではないのか」
侯爵が言う。
「それもある」
マルクは答える。
「だが」
少し間を置く。
「一番の役割は“怒りの出口”だ」
沈黙。
「人は怒る」
彼は続ける。
「事件が起きる」
「犯人がいる」
「責任者がいる」
拳を軽く握る。
「その怒りを」
低い声。
「一人に集中させる」
議場が静まる。
「それが断罪」
誰もすぐには言葉を返さない。
マルクは続ける。
「俺は騎士団長だ」
「暴動も見てきた」
沈黙。
「群衆は」
短く言う。
「理由では止まらない」
重い言葉。
「説明では止まらない」
「証拠でも止まらない」
机に指を置く。
「止まるのは」
沈黙。
「責任者が示されたときだ」
議場が静まり返る。
侯爵が言う。
「つまり断罪は必要」
「はい」
マルクは答える。
即答だった。
だが。
彼は続ける。
「ただし」
議場が少しざわめく。
「断罪は」
沈黙。
「正義ではない」
空気が凍る。
侯爵の目が細くなる。
「どういう意味だ」
マルクは言う。
「断罪は装置だ」
低い声。
「秩序維持装置」
「正義装置ではない」
沈黙。
王太子が言う。
「詳しく」
マルクは続ける。
「騎士団は知っている」
短い言葉。
「断罪には誤りがある」
ざわめき。
「だが」
彼は続ける。
「止められない」
沈黙。
「止めれば」
議場を見渡す。
「王都は燃える」
誰も否定できない。
マルクは私を見る。
「公開審査制度」
「遅い」
「混乱も起きる」
私は黙って聞く。
「だが」
彼は続ける。
「一つだけ違う」
沈黙。
「後から戦える」
議場が静まる。
「断罪は終わる」
「公開審査は続く」
短い言葉。
そして。
彼は王太子を見る。
「王国は」
沈黙。
「どちらを選ぶか」
それは証言ではない。
問いだった。
議場が静まり返る。
国家審理は続く。
だが今。
秩序の剣が。
理想の制度を否定しなかった。
それは。
誰も予想していなかった証言だった。
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