第66話 未熟な裁き
国家審理の議場。
先ほどまでのざわめきが、少し落ち着いていた。
だが空気は張り詰めている。
王太子が静かに言う。
「次の証人」
紙をめくる。
「ミレイア・ノルディア」
若い足音が議場に響く。
ミレイアはゆっくりと中央に歩いてくる。
男爵家の令嬢。
まだ十八歳。
国家審理の場には、あまりにも若い。
それでも彼女は止まらない。
席に立つ。
「証言を」
王太子が言う。
ミレイアは深く息を吸った。
「私は」
声は震えていた。
「公開審査を行いました」
議場が静かになる。
「そして」
沈黙。
「誤った判断をしました」
ざわめきが広がる。
侯爵が目を細める。
ミレイアは続ける。
「倉庫火災事件」
「私は」
言葉を選ぶ。
「群衆の圧力に負けました」
沈黙。
「証拠を確認する前に」
「責任者を拘束しました」
それは事実だった。
議場が静まる。
王太子が問う。
「なぜ」
ミレイアは少し考える。
そして言った。
「怖かった」
その言葉に、ざわめきが広がる。
「群衆が怒っていた」
「制度を疑っていた」
沈黙。
「私は」
拳を握る。
「制度を守ろうとした」
少し間を置く。
「でも」
彼女の声は小さくなる。
「制度ではなく」
「群衆を見てしまった」
議場が静まり返る。
侯爵が言う。
「つまり」
低い声。
「制度は人に依存する」
「はい」
ミレイアは答える。
即答だった。
侯爵が続ける。
「未熟な人間が運用すれば」
「誤る」
「はい」
沈黙。
それは断罪制度にも言える。
だが。
今は公開審査側の弱点として響く。
王太子が言う。
「制度提案者」
私を見る。
「この証言について」
私は立つ。
「事実です」
ざわめき。
「制度は未熟です」
沈黙。
「ですが」
私は続ける。
「誤りが記録されている」
議場が静まる。
「だから」
机に紙を置く。
「改善できます」
侯爵が言う。
「断罪でも誤りは起きる」
「はい」
私は答える。
「ですが」
私は続ける。
「断罪の誤りは残らない」
沈黙。
議場が静まり返る。
ミレイアは言う。
「私は」
声が震える。
「未熟でした」
涙が落ちる。
「でも」
彼女は顔を上げる。
「断罪はもっと怖い」
ざわめき。
「一人を裁けば終わる」
「でも」
沈黙。
「間違ったとき」
彼女は小さく言う。
「誰も止められない」
議場が静まり返る。
王太子が言う。
「証言は以上か」
ミレイアは頷く。
「はい」
彼女は席に戻る。
歩く背中は小さい。
だが。
その証言は重かった。
国家審理は続く。
そして。
次の証人が呼ばれる。
王太子が言う。
「マルク・ヴァルディス」
騎士団長。
秩序の象徴。
議場の空気が、再び変わった。
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