第64話 国家審理の席
王都中央議場。
普段の議会とは違う配置になっていた。
中央に円形の審理席。
左右に二つの席。
そして。
上段には王太子の裁定席。
観覧席は満員だった。
貴族。
商人。
記録官。
修道士。
そして市民代表。
王国史上初の国家審理。
鐘が鳴る。
王太子アルベルトが席に着いた。
「国家審理を開始する」
声は静かだが、議場の空気を締める。
「本審理では」
彼は続ける。
「断罪制度と公開審査制度の正当性を審査する」
ざわめき。
「また」
紙を一枚めくる。
「過去断罪事件の検証も含む」
議場が揺れる。
十年前の事件。
それが正式議題になる。
「まず」
王太子が言う。
「制度提案者」
沈黙。
「リリアーナ・エルフェルト」
私は席に座っている。
拘束状態だが、審理参加者として呼ばれている。
マルクが横に立っている。
騎士団長として。
私は立つ。
「出席しています」
「次に」
王太子が言う。
「断罪制度代表」
重い足音。
レヴァン侯爵が席に着く。
「出席している」
低い声。
議場の空気が引き締まる。
そして。
「証人」
扉が開く。
黒い外套。
エリオナ・クラウス。
十年前の断罪被害者。
彼女は静かに席に座る。
ざわめきが広がる。
「本当に来た」
「噂は本当だった」
王太子が言う。
「これより」
沈黙。
「王国の裁定を始める」
議場が静まる。
「第一議題」
彼は紙を見る。
「断罪制度の役割」
侯爵が立つ。
「断罪は秩序維持装置だ」
迷いのない声。
「迅速な責任確定により」
「暴動と混乱を防ぐ」
群衆が頷く。
「王国は広い」
「全てを調査する時間はない」
侯爵は続ける。
「秩序には速さが必要だ」
沈黙。
王太子が私を見る。
「反論は」
私は立つ。
「断罪は速い」
「ですが」
私は続ける。
「誤りも速い」
ざわめき。
「責任が一人に集中する」
「だから」
「冤罪が起きる」
侯爵がすぐ言う。
「証拠がある」
「あります」
私は答える。
「ですが」
私はエリオナを見る。
「作られることもある」
議場がざわめく。
侯爵の目が鋭くなる。
「証拠を出せ」
沈黙。
私は言う。
「証人がいます」
王太子が言う。
「エリオナ・クラウス」
彼女が立つ。
視線が集まる。
十年前。
王都最大の断罪事件。
彼女は静かに言う。
「私は反逆者として断罪された」
沈黙。
「だが」
その声は冷たい。
「証拠は作られた」
議場が揺れる。
侯爵が言う。
「証明は」
エリオナは肩をすくめる。
「消された」
沈黙。
それは証拠ではない。
だが。
疑念は残る。
王太子が言う。
「第二議題」
空気が張り詰める。
「公開審査制度」
私は一歩前に出る。
「公開審査は遅い」
ざわめき。
「ですが」
私は続ける。
「記録が残る」
沈黙。
「責任が共有される」
「冤罪を減らせる」
侯爵が言う。
「だが失敗した」
沈黙。
「誤裁定」
「再犯」
「混乱」
彼の言葉は重い。
私は答える。
「はい」
議場がざわめく。
「制度は失敗しました」
正直な言葉。
侯爵が言う。
「ならば断罪に戻れ」
沈黙。
私は言う。
「いいえ」
議場が静まる。
「制度は失敗した」
「だから」
私は続ける。
「改善します」
侯爵が笑う。
「理想論だ」
「いいえ」
私は答える。
「記録がある」
机に紙を置く。
「制度の失敗は分析できる」
「断罪の失敗は消される」
沈黙。
議場が静まり返る。
そして。
王太子が静かに言う。
「国家審理はまだ始まったばかりだ」
この場で。
王国の正義が裁かれる。
そして。
その中心にいるのは。
悪役令嬢だった。
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