第63話 王太子の選択
王城の執務室は、重い沈黙に包まれていた。
窓の外には王都の屋根が広がっている。
その向こうで、噂が動いている。
断罪。
公開審査。
制度審理。
拘束された悪役令嬢。
すべてが王都の空気を揺らしていた。
机の前に座るのは、王太子アルベルト。
彼の前には三つの書類が置かれている。
一つ。
公開審査制度の審査申請。
一つ。
誤裁定事件の報告。
一つ。
過去断罪事件の再調査申請。
扉が開く。
「失礼いたします」
入ってきたのは宮廷法官。
白髪の老人だ。
「殿下」
彼は静かに言う。
「議会は結論を求めています」
王太子は目を閉じる。
「二つの道があります」
法官が続ける。
「公開審査制度を違法と認定する」
沈黙。
「あるいは」
「国家審理へ進める」
国家審理。
それは王国最高の公開裁定。
つまり。
制度と断罪制度を
**国家レベルで比較する裁判**。
法官が言う。
「ですが」
視線が鋭くなる。
「国家審理を開けば」
沈黙。
「過去の断罪も議題になります」
王国の歴史。
その正義。
それが揺れる。
王太子は窓を見る。
「侯爵は?」
「制度違法認定を求めています」
当然だ。
レヴァン侯爵は秩序派。
制度の根を守る側。
法官は続ける。
「そして」
書類を一枚差し出す。
「民衆請願」
王太子は目を通す。
内容は二つに割れていた。
『公開審査制度を支持』
『断罪制度を守れ』
王国は割れている。
王太子は小さく息を吐く。
「リリアーナは」
「拘束中です」
「逃げる可能性は」
「ありません」
法官は即答する。
沈黙。
王太子はゆっくり言う。
「彼女は」
視線が遠くを見る。
「逃げる人間ではない」
それは理解している。
だからこそ。
危険だ。
理想の人間は、政治にとって扱いづらい。
法官が言う。
「殿下」
「はい」
「決断を」
沈黙。
窓の外で鐘が鳴る。
王都の昼。
その下で。
制度と断罪が争っている。
王太子は静かに言う。
「国家審理を開く」
法官が目を見開く。
「よろしいのですか」
「逃げれば」
王太子は言う。
「問題は残る」
沈黙。
「ならば」
机の書類を指で叩く。
「王国の前で裁く」
法官が小さく頭を下げる。
「承知しました」
王太子は続ける。
「ただし」
視線が鋭くなる。
「国家審理は公平でなければならない」
「はい」
「断罪派も」
「公開審査派も」
「同じ条件で立たせる」
沈黙。
それはつまり。
王国史上初の公開対決。
制度 vs 断罪。
思想 vs 秩序。
王太子は静かに言う。
「そして」
最後の書類を見る。
エリオナ・クラウス。
断罪被害者。
「過去も審理対象に入れる」
法官が息を呑む。
それは。
王国の正義を裁くこと。
だが。
王太子の声は静かだった。
「王国が正しいなら」
沈黙。
「恐れる必要はない」
鐘が鳴る。
王城の廊下を、伝令が走る。
そしてその日の夕方。
王都全域に布告が出た。
『国家審理開催』
悪役令嬢。
断罪制度。
公開審査制度。
すべてが。
王国の前で裁かれる。
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