第61話 制度の穴
王都拘束四日目。
私は机の上に並ぶ報告書を見つめていた。
倉庫火災事件。
誤拘束。
再犯事件。
そして、東区審査の遅延。
紙の上には、制度の失敗が並んでいる。
扉が叩かれる。
入ってきたのはセシルだった。
疲れた顔。
「面会許可が出ました」
私は椅子から立つ。
「東区は?」
「混乱しています」
短い答え。
「ミレイアは」
沈黙。
「議会から事情聴取を受けています」
私は小さく息を吐く。
彼女を責めるつもりはない。
あれは制度の歪みだ。
セシルが紙束を机に置く。
「分析しました」
私は目を通す。
ページの上には三つの項目。
——記録処理能力不足
——審査権限の曖昧さ
——暫定判断の基準不在
どれも核心だった。
「制度は理想で作られている」
セシルが言う。
「現場処理能力が追いついていない」
私は頷く。
「人数が足りない」
「それだけじゃない」
彼は続ける。
「審査官の訓練がない」
公開審査は広がった。
だが。
運用する人間が育っていない。
「つまり」
私は言う。
「制度ではなく“人材”の問題」
「半分」
セシルは首を振る。
「もう半分は設計ミス」
沈黙。
その言葉は重い。
彼は続ける。
「責任分散は正しい」
「だが」
「責任の“終点”がない」
私は紙を見つめる。
断罪は速い。
なぜなら。
責任の終点が一人だから。
公開審査は違う。
責任が分散する。
だが。
終わりが曖昧。
それが不安を生む。
「つまり」
私は言う。
「最終裁定者が必要」
「そうだ」
セシルは答える。
「だが、それは断罪と似る」
制度は円を描いている。
断罪を否定すると。
断罪に似た装置が必要になる。
沈黙。
扉が再び開く。
マルクが入る。
「議会が動いた」
短い言葉。
「何が」
「公開審査制度」
彼は紙を投げる。
議会通知。
『制度誤裁定の責任審査』
つまり。
制度そのものが裁かれる。
私は静かに言う。
「当然です」
マルクは私を見る。
「逃げるか」
「逃げません」
沈黙。
彼は続ける。
「もう一つある」
「何ですか」
「過去の断罪記録」
私は顔を上げる。
「調査が始まった」
空気が変わる。
それは。
危険な扉。
もし冤罪が見つかれば。
王国の正義が揺れる。
マルクは言う。
「一人来る」
「誰が」
沈黙。
そして。
「過去の断罪被害者」
私は言葉を失う。
それは。
制度の影。
マルクは続ける。
「名は」
短く言った。
「エリオナ・クラウス」
その名は。
十年前の断罪事件。
王都最大の騒動の一つだった。
私はゆっくり息を吐く。
制度は今、二つの裁きを受けている。
一つは未来。
一つは過去。
そして。
その両方が。
私の前に現れようとしていた。
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