第59話 拘束
議場の扉が閉まる。
音が、やけに重く響いた。
中央には審査席。
その前に立つのは、私一人。
傍聴席には貴族たち。
後方には記録係。
そして。
議場の両脇には騎士団。
マルクもそこにいる。
だが今、彼は騎士団長として立っている。
「リリアーナ・エルフェルト」
レヴァン侯爵が言う。
「王国議会審査を開始する」
静かな声。
だが圧力は強い。
「公開審査制度は現在停止中」
「はい」
私は答える。
「その間、あなたは王国制度への干渉を禁じられている」
「承知しています」
侯爵は一枚の紙を掲げる。
「しかし」
沈黙。
「あなたの思想活動は続いている」
ざわめき。
「各地で制度模倣が拡大」
「若手貴族の扇動」
私は言う。
「自主判断です」
「責任は誰にある」
沈黙。
「制度設計者です」
私は答える。
議場が揺れる。
侯爵は頷く。
「つまり」
その声は冷たい。
「あなたが責任者だ」
「はい」
「ならば」
彼は続ける。
「審査終了まで、あなたを王都拘束とする」
空気が止まる。
ざわめきが一気に広がる。
「拘束?」
「裁判前に?」
侯爵は言う。
「思想扇動防止措置」
法的には可能な処置。
だが。
事実上の隔離。
私は静かに言う。
「異議はありません」
ざわめき。
セシルの顔が青くなる。
アデルは傍聴席で立ち上がりそうになっている。
だが声は出せない。
侯爵は言う。
「騎士団」
マルクが前に出る。
一歩。
二歩。
彼は私の前に立つ。
その顔は無表情。
騎士団長の顔。
「リリアーナ・エルフェルト」
形式的な声。
「審査終了まで王都滞在拘束とする」
「承知しました」
私は答える。
彼が手を差し出す。
拘束ではない。
同行の形式。
だが意味は同じ。
私はその手を取る。
議場の空気は冷たい。
侯爵が言う。
「制度は人を守ると言ったな」
私は振り向く。
「はい」
「ならば」
彼は続ける。
「まず自分を守ってみろ」
沈黙。
私は答える。
「制度は私を守りません」
議場が静まる。
「ですが」
私は続ける。
「記録は残ります」
侯爵の目が細くなる。
マルクが小さく言う。
「……行くぞ」
私は頷く。
議場を出る。
外では群衆がざわめいている。
「拘束されたらしい」
「やっぱり断罪だ」
噂が広がる。
修道領。
その夜。
アデルが机を叩く。
「拘束ですって!?」
セシルが言う。
「王都滞在命令です」
「つまり」
アデルの声が震える。
「動けない」
沈黙。
ミレイアが小さく言う。
「……私のせいです」
誰もすぐには答えない。
改革の中心が、止まった。
制度は動かない。
その空白を。
世論が埋める。
そして。
王都では新しい噂が流れていた。
『悪役令嬢は、ついに捕まった』
嵐は、まだ始まったばかりだった。
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