第57話 命令
修道領に届いた書状は、王家の封蝋で閉じられていた。
それを見た瞬間、誰もが黙った。
私は静かに封を切る。
内容は短い。
『王国議会審査開始に伴い、リリアーナ・エルフェルトの出頭を命じる』
その下に、騎士団印。
アデルが言う。
「……拘束命令ですか」
「形式上は出頭命令です」
私は答える。
「ですが」
セシルが続ける。
「拒否すれば拘束になる」
沈黙。
マルクは壁際に立ったまま動かない。
彼はすでに知っている。
騎士団経由の命令だ。
「……いつですか」
アデルが問う。
「明日」
短い猶予。
私は書状を机に置く。
「準備を」
そのとき。
「待て」
低い声。
マルクだ。
全員が彼を見る。
「その命令」
彼は言葉を選ぶ。
「騎士団から出ている」
「はい」
「つまり」
沈黙。
「俺が執行する」
空気が止まる。
アデルが立ち上がる。
「そんな!」
セシルも眉をひそめる。
私は静かに言う。
「当然です」
騎士団長。
秩序側。
彼の役目だ。
マルクは私を見る。
「逃げるなら」
言葉が重い。
「今だ」
全員が息を呑む。
私は小さく笑う。
「逃げません」
即答。
「そうだろうな」
マルクは苦く笑う。
「だが」
彼の声は低い。
「出頭は審査じゃない」
「分かっています」
「政治だ」
「はい」
沈黙。
アデルが言う。
「私たちも行きます」
「無理です」
セシルが首を振る。
「出頭対象は彼女だけ」
つまり。
主人公は一人で議場に立つ。
制度の中心人物。
そして。
責任の顔。
夜。
私は一人で記録を整理していた。
机の上には制度設計の紙束。
未完成の部分も多い。
マルクが入ってくる。
「寝ていないな」
「明日寝ます」
私は軽く笑う。
「……笑うな」
彼は言う。
私はペンを置く。
「怖いですか」
「当然だ」
即答。
彼は続ける。
「議会は処刑場になる」
私は頷く。
「分かっています」
沈黙。
マルクは言う。
「お前は制度を作った」
「はい」
「だが制度は人を守らない」
「だから改善します」
彼は頭を振る。
「違う」
視線がぶつかる。
「制度が守る前に」
言葉が重い。
「お前が潰される」
私は静かに言う。
「その可能性はあります」
沈黙。
「それでも行くのか」
「はい」
私は答える。
「制度が間違っているなら」
「私が証明します」
彼はしばらく黙る。
やがて言う。
「……明日」
「はい」
「俺が迎えに来る」
短い言葉。
騎士団長として。
私は小さく頷く。
「お願いします」
彼は扉に向かう。
だが、途中で止まる。
「逃げたら」
振り向かないまま言う。
「追う」
「ええ」
「捕まえる」
「ええ」
「そして」
沈黙。
「守れない」
その言葉は重かった。
私は答える。
「守られに行くわけではありません」
マルクは小さく笑う。
「知ってる」
扉が閉まる。
夜は静かだ。
明日、私は議場に立つ。
悪役令嬢としてではない。
制度設計者として。
だが。
この戦いは、もう思想だけでは終わらない。
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