第56話 越権
王都議会の空気は、昨日までとは違っていた。
怒りではない。
冷たい視線。
中央席に立つのは、レヴァン侯爵。
「議題を変更する」
低い声が響く。
「公開審査制度の合法性について」
ざわめき。
私は静かに立っている。
侯爵は続ける。
「修道領は宗教自治領」
「王国行政機関ではない」
数名の貴族が頷く。
「制度設計権限を持たない組織が」
「王国の司法運用を変更している」
紙が机に置かれる。
「これは越権行為だ」
議場が静まる。
感情ではなく、法律。
この攻撃は強い。
セシルが小声で言う。
「正面から来ました」
私は答える。
「予想通りです」
侯爵は続ける。
「公開審査は王国の制度ではない」
「ただの私的集会だ」
群衆がざわめく。
それが意味するものは一つ。
これまでの審査結果は
**法的効力がない**
アデルが小さく呟く。
「そんな……」
侯爵は私を見る。
「リリアーナ・エルフェルト」
「はい」
「あなたは何の権限で制度を作った」
沈黙。
これは思想の問題ではない。
法の問題。
私は正直に言う。
「正式な行政権限はありません」
どよめき。
侯爵の目が細くなる。
「つまり」
彼は言う。
「王国制度を私的に改変している」
セシルが言う。
「補足があります」
侯爵が視線を向ける。
「公開審査は強制ではない」
「各地域が自主採用している」
「だからこそ問題だ」
侯爵は即答する。
「統治権が分裂する」
沈黙。
この論は重い。
改革の正当性を直接突いている。
王太子が静かに言う。
「では、侯爵の提案は」
侯爵は迷わない。
「公開審査制度の即時停止」
議場が揺れる。
「そして」
彼は続ける。
「断罪制度の復元」
空気が凍る。
ここで終われば。
改革は完全に終わる。
私は一歩前に出る。
「提案があります」
侯爵が目を細める。
「聞こう」
私は言う。
「公開審査制度を王国制度として正式申請します」
議場がどよめく。
セシルが息を呑む。
アデルも驚いている。
侯爵は低く言う。
「正式制度化?」
「はい」
私は続ける。
「王国議会の審査を受けます」
逃げない。
正面から制度にする。
侯爵の目がわずかに揺れる。
だがすぐ戻る。
「いいだろう」
彼は言う。
「ただし」
その声は冷たい。
「審査期間中」
沈黙。
「あなたは王国制度への干渉を禁止する」
空気が張り詰める。
つまり。
制度運用停止。
今までの試験は凍結。
私は数秒考える。
これを受ければ、改革は止まる。
拒めば、越権確定。
逃げ道はない。
マルクが小さく言う。
「罠だ」
「ええ」
私は答える。
だが。
「受けます」
議場が揺れる。
侯爵が言う。
「覚悟はあるようだ」
私は静かに頷く。
「制度は、議会で証明します」
これは新しい戦い。
思想ではない。
王国制度そのもの。
そして。
この決定は一つの意味を持つ。
修道領の改革は——
一時停止した。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




