第51話 広がる火種
王都北西部、アルメル地区。
そこはかつて、断罪が最も頻繁に行われていた区域の一つだった。
貴族街と商業区が隣接し、噂と責任が交錯する場所。
その一角で、初めて「暫定公開審査」が行われた。
修道領ではない。
王都内部での自主開催。
私は、傍聴席に立っている。
「本審査は公開で行う」
若い声が議場に響く。
ミレイア・ノルディア。
十八歳。
男爵家の令嬢。
まだ幼さの残る顔立ちだが、目は真っ直ぐだ。
「断罪は行いません」
場がざわつく。
彼女は一瞬だけ息を吸い、それから続けた。
「第一段階、事実確認」
資料が配布される。
記録係が正式に置かれている。
被審査者は商会の経理責任者。
資金不正疑惑。
以前なら即断罪だった案件。
「証拠の提示を」
ミレイアの声は震えていない。
被疑者が弁明する。
資金移動の理由。
書類の誤記。
セシルが小さく言う。
「……成立している」
私はうなずく。
流れは正しい。
第二段階。
「責任の分散評価」
商会代表にも発言機会が与えられる。
沈黙が続いたあと、代表が口を開く。
「監査体制に不備があった」
どよめき。
以前なら、全責任は経理担当者に押し付けられていた。
だが今回は違う。
第三段階。
「処分」
ミレイアは深呼吸し、言った。
「経理担当は三ヶ月の業務停止」
「代表は監査制度改善義務」
「再発防止報告を公開」
ざわめき。
「断罪は行いません」
沈黙。
暴動は起きない。
怒号も少ない。
不満はある。
だが爆発しない。
審査終了。
人々は口々に言う。
「……悪くない」
「説明はあった」
完全な納得ではない。
だが、即時処理よりも穏やかだ。
ミレイアがこちらに駆け寄る。
「どうでしたか」
目が輝いている。
「成功です」
私は静かに言う。
「ですが」
彼女の表情が引き締まる。
「次はもっと難しい案件になります」
「覚悟しています」
若い。
強い。
だが。
未熟だ。
帰路、マルクが言う。
「持ったな」
「ええ」
「だが、あれは軽い案件だ」
「分かっています」
私は答える。
「重い案件でどうなるか」
それが本番。
だが今日は。
確かに、断罪を使わずに収束した。
小さな火種が、確かに広がっている。
王都の空は高い。
希望は、まだ消えていない。
だが。
その裏で。
レヴァン侯爵の屋敷。
「北西部で成功したそうです」
側近が報告する。
侯爵は目を閉じる。
「次は、重い案件を投げろ」
「どの程度を」
「感情が爆発する程度に」
秩序は試される。
悪役令嬢の制度が、本当に持つかどうか。
希望は広がる。
だが。
嵐は、近い。
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