第50話 公開審査
三日後。
王都中央議場は、再び満席だった。
今回は断罪ではない。
「暫定公開審査」
被審査者は、南区市場の暴動扇動容疑者三名。
名は伏せられず、罪状も明示される。
私は中央に立つ。
「本審査は三段階で行います」
ざわめき。
「第一段階:事実確認」
「第二段階:責任分散評価」
「第三段階:最終処分」
侯爵は腕を組んでいる。
「時間がかかる」
「はい」
私は認める。
「ですが、即断罪よりも記録が残ります」
第一被審査者が前に出る。
「私は煽られただけだ!」
群衆がざわめく。
「誰に」
私は問う。
男は一瞬ためらう。
「……貼り紙だ」
記録係が書き留める。
貼り紙の文言が読み上げられる。
同じ語尾。
同じ言い回し。
セシルが小さく言う。
「筆跡一致」
場が揺れる。
責任は一人ではない。
拡散経路が記録される。
第二段階。
「扇動源の特定」
資料が提示される。
資金の流れ。
印刷所の契約。
裏に、ある商会の名が浮かぶ。
侯爵の側近がわずかに顔を動かす。
私は気づく。
だが、今は触れない。
第三段階。
「処分」
沈黙。
「拘束ではなく、公開奉仕」
「再発防止講習への参加義務」
どよめき。
「軽すぎる!」
叫び声。
「断罪しろ!」
私は正面を見る。
「断罪はしません」
ざわめきが広がる。
「責任は分散し、記録されます」
審査終了。
群衆は完全には納得していない。
だが。
暴動は起きていない。
それが事実。
議場の外。
マルクが低く言う。
「持ったな」
「ぎりぎりです」
私は答える。
だが。
その夜。
セシルが急ぎ足で戻る。
「問題が発生しました」
「何が」
「印刷所の商会が、レヴァン侯爵と繋がっています」
空気が止まる。
「証拠は」
「間接的だが、十分怪しい」
アデルが震える。
「暴動は意図的に?」
「可能性は高い」
つまり。
侯爵は、断罪の必要性を“実演”した。
私は目を閉じる。
もしこれを公表すれば、王国は割れる。
隠せば、断罪論が強まる。
マルクが言う。
「どうする」
重い問い。
秩序を守るか。
真実を出すか。
私は、ゆっくりと目を開ける。
「証拠を固めます」
「公表は?」
「まだしません」
セシルが息を呑む。
「なぜ」
「今出せば、王家が巻き込まれる」
侯爵は保守派の象徴。
ここで暴けば、内乱に近づく。
沈黙。
マルクが静かに言う。
「汚い世界だな」
「ええ」
私は小さく笑う。
「でも、断罪よりはましです」
悪役令嬢は、生贄ではない。
今度は、記録する側。
だが。
秩序を守る者と、変える者。
その境界は、薄い。
王国は静かに揺れている。
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