第42話 静かな締め付け
公開討論の三日後。
修道領に届くはずの物資が、遅れた。
「運搬業者が契約を打ち切られたそうです」
修道士が報告する。
理由は曖昧。
だが、偶然ではない。
アデルが机を叩いた。
「やはり反撃です!」
「声を下げなさい」
私は静かに言う。
怒りは理解できる。
だが、ここで騒げば“危険思想”の印象を強めるだけだ。
「他は」
私は淡々と問う。
「寄付金が一部停止」
「研修参加希望者の家族に圧力が」
予想通り。
正面ではなく、締め付け。
マルクが腕を組む。
「露骨だな」
「ええ」
私はうなずく。
「でも、違法ではありません」
それが厄介だ。
「どうしますか」
アデルが食い下がる。
私は少し考える。
怒鳴り込むか。
告発するか。
どちらも短期的。
「増やします」
私は言う。
「何を」
「参加者を」
アデルが目を見開く。
「圧力をかけられない規模にします」
沈黙。
「小さいから締め付けられる」
「公に広げれば、止めにくい」
マルクが低く笑う。
「また正面突破か」
「透明は武器です」
その日の夜。
私は公開文書を出した。
『研修参加は自由意志。
王都議会での議論記録も添付する』
隠さない。
逃げない。
数日後。
王都で小さな変化が起きた。
「参加したい」
若手男爵家の令嬢。
「うちの妹も断罪された」
子爵家の次男。
声が、少しずつ届く。
レヴァン侯爵の屋敷。
「止まりません」
側近が報告する。
「若手が動いています」
侯爵は眉をひそめる。
「火種は小さいうちに消すべきだった」
だが、もう広がっている。
同じ頃、修道領。
アデルが言う。
「怖くないのですか」
「何が」
「潰されること」
私は少し笑う。
「潰されるなら、私一人です」
「違います!」
アデルが叫ぶ。
「もう一人ではありません!」
その言葉に、私は一瞬息を呑む。
増えている。
悪役令嬢は。
私は、窓の外を見る。
灯りが増えている。
制度は、ゆっくり広がる。
断罪は、物語を終わらせる制度。
でも。
物語を終わらせない者たちが、増え始めた。
マルクが横に立つ。
「引き返すか」
「いいえ」
「後悔するなよ」
「しません」
今度は、はっきり言える。
締め付けは始まった。
でも。
孤立は、終わっている。
悪役令嬢は、増殖する。
それが、最大の反撃だった。
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