第38話 もう一人の悪役令嬢
その知らせは、春の終わりに届いた。
王都の一角で、断罪が行われたという。
罪状は――
『傲慢』
『王太子妃教育の妨害』
『聖女への侮辱』
聞き覚えのある言葉だった。
私は、報告書を読み終え、ゆっくりと目を閉じる。
「……早いですね」
制度が安定して、まだ数か月。
それでも、旧い習慣は簡単には消えない。
「追放先は?」
エレナが問う。
「南方の小領地です」
私は、紙を机に置いた。
名前が、そこにあった。
アデル・フォン・リース。
十七歳。
侯爵家の令嬢。
――若すぎる。
「罪状の裏は?」
マルクが低く問う。
「王太子の婚約者候補の一人でした」
空気が、少し冷える。
構図が、あまりにも似ている。
「聖女は?」
「今回は関係が薄いようです」
「なら、なぜ」
私は、静かに言う。
「断罪は、制度だからです」
必要だからではない。
仕組みとして残っているから。
王国は変わり始めた。
でも、断罪文化そのものは消えていない。
「どうする」
マルクの問いは短い。
私は、少し考える。
助けに行くのは簡単だ。
政治的に介入するのも、できなくはない。
でも。
「救いません」
静かな答え。
エレナが、目を細める。
「理由は」
「私が救えば、“特別”になります」
それでは、制度は変わらない。
「では、見捨てるのですか」
「いいえ」
私は、視線を上げる。
「選択肢を渡します」
翌週。
南方領地へ、正式な文書が送られた。
差出人は、修道領。
内容は簡潔だった。
『制度設計研修への参加を提案する』
追放された令嬢に。
王国に背を向けるのでもなく、
復讐するのでもなく。
学ぶ機会を。
数日後、返事が届く。
『なぜ、私に』
震える文字だった。
私は、短く書く。
『あなたが悪役令嬢だからです』
夜。
井戸のそばで、マルクが言う。
「随分と、回りくどい」
「直接助けるより、時間はかかります」
「面倒だな」
「ええ」
私は、少し笑う。
「でも、それが一番壊れにくい」
断罪を止めるのではない。
断罪が必要なくなる土台を作る。
「また、背負うのか」
その問いに、私は首を振る。
「違います」
空を見上げる。
「一人で背負わないために、増やすんです」
仲間を。
同じ立場を経験した者を。
悪役令嬢は、私一人ではない。
もし。
断罪される令嬢が、学び、繋がり、制度を理解すれば。
王国は変わる。
「……増えるな」
マルクが言う。
「何がですか」
「面倒な女が」
私は、吹き出す。
「困りますか」
「いや」
低く笑う。
「面白い」
春の風が吹く。
私の物語は、終わらなかった。
悪役令嬢は、救われて終わる存在ではない。
増える存在になる。
それが、次の物語の始まりだった。
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