第37話 不要という宣告
王国からの報告書は、薄かった。
赤字が、消えている。
修正案も、減っている。
私は、しばらく紙を見つめたまま、動かなかった。
――完成した。
制度が。
私が設計した枠組みは、もう修正を必要としない段階に入っている。
午後、正式な通知が届いた。
『試験導入は成功と判断する。
今後は王国内部の常設制度として運用する』
それだけだった。
謝辞もない。
感謝もない。
必要な報告だけ。
私は、静かに息を吐く。
「どうした」
マルクの声が、横から落ちる。
「……終わりました」
紙を渡す。
彼は一読し、頷く。
「成功だな」
「はい」
「浮かない顔だ」
私は、少しだけ笑う。
「役目が、終わったので」
沈黙。
「それが望みだったんじゃないのか」
「ええ」
望んでいた。
私がいなくても、回る世界。
切り捨てられても壊れない仕組み。
それを作ることが、目標だった。
なのに。
胸の奥が、少しだけ空いている。
「……私は」
言葉が、ゆっくり出る。
「もう、不要です」
事実だ。
王国は回る。
隣国も回る。
修道領も回る。
私は、いなくてもいい。
マルクは、しばらく黙っていた。
やがて、低く言う。
「それで?」
私は、顔を上げる。
「それで、ですか」
「不要だから、何だ」
短い問い。
「俺は、制度と一緒にお前を選んだ覚えはない」
胸が、強く鳴る。
「……でも」
「制度は完成した」
彼は言う。
「だから、今からが本番だろ」
意味が、すぐには分からない。
「役目が終わったなら」
一歩、近づく。
「お前は、自由だ」
その言葉は、優しかった。
慰めではなく。
解放。
「自由になった人間が、何を選ぶか」
視線が、まっすぐ重なる。
「それが、俺は知りたい」
胸の空白が、ゆっくりと埋まる。
不要ではない。
必要だから残るのではない。
選ぶから残る。
私は、深く息を吸う。
「……では」
声が、静かに震える。
「自由な私として、選びます」
迷いは、ない。
「ここにいます」
「制度のためではなく」
「役割のためでもなく」
視線を逸らさない。
「あなたと、生きるために」
空気が止まる。
マルクは、しばらく何も言わなかった。
やがて。
「……ようやく言ったな」
低く、笑う。
「不要かどうかなんて、どうでもいい」
彼は、私の肩に手を置く。
「俺は、必要としてる」
その一言で。
胸の空白は、消えた。
制度は完成した。
世界は回る。
私は、もう役目では定義されない。
だからこそ。
今度は、私の人生を選ぶ。
不要という宣告は、終わりではなかった。
自由の始まりだった。
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