第117話 二度目のテオ
三日後、テオが告発された。
二度目だった。
罪状は、前と違った。今度は、禁じられた集まり。西村の男が三人、彼の家に集まっていたのを見た、という証言だった。
ヨナが、庫に駆け込んできたのは、昼前だった。
去年と、同じだった。息を切らして、綴りを抱えて。
「テオの一件です」
立ち上がった。
去年、私たちはこれを止めた。配給の記録と村の在庫を突き合わせて、盗みようがないことを示した。半日かかった。それでも、間に合った。
今度も、突き合わせればいい。
――そう思った。
「もう、終わってます」
ヨナが、言った。
私は、動きを止めた。
「……終わった?」
「役場が、昼前に照合を済ませました」
彼の声は、平らだった。
「名の索引を引いて、テオの前の記録を出して、去年の一件と照らして。去年、告発を取り下げられている。一度目の告発が取り下げられた者は、再度の告発では扱いが重くなる。そういう決まりです」
私は、口を開いた。
声が、出なかった。
「一刻でした。去年は、半日かかった。今年は、一刻で済んだ」
役場へ走った。
走りながら、私は、自分の作った索引の形を思い出していた。
名の索引。ある人の名を引けば、その人に関わる記録が、年をまたいで全部出る。配給も、税も、人別も、断罪も。
私は、それを、人が自分の記録を探せるように作った。
同じ索引で、役場は、人の過去を一刻で並べられるようになった。
当たり前だ。
引ける、というのは、両方向に引けるということだ。
役場の前に、人が集まっていた。
中に入ると、若い役人が、私を見て、また嬉しそうな顔をした。
「視察官どの。ご覧になりますか」
彼は、綴りを差し出した。
告発。受理。照合。過去記録の添付。審査、済。処断、労役三年。
全部、揃っていた。
様式のとおりに。私の索引で。
「よく、揃っていますね」
そう言うのが、精一杯だった。
「おかげさまで」
彼は、心から言った。
「以前は、こういうときに前の記録を出せませんでした。出せなければ、審査は空欄のまま通ります。いまは、ちゃんと見た上で決められます」
「ちゃんと、見た上で」
「はい」
彼は、少しだけ胸を張った。
「私は、いい加減な仕事は、したくありませんので」
私は、その言葉を、正面から受けた。
この人は、真面目だ。
この人は、以前の役場のいい加減さを、恥じていた。そして、いい加減でなくなったことを、誇っている。
誇っていい。
仕事として、この人は、正しい。
――正しいのだ。
誰も、間違っていない。
テオは、その日の午後、連れて行かれた。
見に行った。
役場の裏手で、二人の兵に挟まれていた。縄は打たれていない。この国は、労役の者に縄を打たない。逃げれば、その村ごと告発されるからだ。
テオは、私を見つけた。
驚いた顔をした。それから、少し、笑おうとした。
笑えていなかった。
「視察官どの」
「テオ」
「……三年です。三年で、帰れるそうです。去年は、断罪でしたから。今度は、労役で済みました」
済んだ、と彼は言った。
この土地の人は、そう数える。
「集まりというのは」
「麦の話です」
テオは、あっさりと言った。
「西村の三人と、来年の種をどうするか、話してました。集まりって言われれば、集まりです」
何も言えなかった。
「あの」
テオが、少し声を落とした。
「ヨナに、言っといてください」
「……はい」
「去年、助けてもらった。今年は、間に合わなかった。それだけです、って」
彼は、頭を下げた。
深く。この土地の人の、精一杯の礼で。
それから、歩いていった。
私は、その背中を、動かずに見ていた。
――間に合わなかった。
違う。
間に合わなかったのではない。
速すぎたのだ。
私が、速くしたのだ。
去年助けた手順が、今年は追い詰める手順になりました。
誰も悪くない。それがこの章のいちばん重いところです。




