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断罪された悪役令嬢ですが、追放先の辺境で静かに有能さがバレていきます ~誰にも褒められない仕事をしていたら、気づけば居場所ができていました~  作者: すずり


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116/120

第116話 数えなおす

 その夜、私は数えた。


 庫の机に、断罪の綴りを並べた。オルデン辺境区、この二年分。月ごとに、件数を出す。


 こういうときは、数えるに限る。


 感情は、数えているあいだ、黙っている。


 一昨年の冬。月に十一件、九件、十四件。


 昨年の春。十二件、十件、十件。


 夏。九件。八件。


 秋。十一件、十件。


 ――そして。


 私がオルデンに着いた月。十二件。


 次の月。十八件。


 その次。二十七件。


 筆を置いた。


 置いてから、しばらく、その三つの数字を見ていた。


 十二、十八、二十七。


 私の指が、無意識に、別の紙を引き寄せていた。差分を出す紙だ。


 二年のあいだ、この区の断罪は、月に八件から十四件のあいだで動いていた。季節の波はある。冬に増え、夏に減る。麦の出来と、たぶん関係がある。


 その波の外へ、二つの月が飛び出している。


 偶然ではない。


 それを知っている。数字が波の外へ出るとき、そこには必ず原因がある。


 原因は、書いてある。


 この二月に、この区で変わったことは、一つしかない。


 私が、索引を作った。


 計算が、合う。


 合ってしまう。


 私は、その紙を、長いこと見ていた。


 言い訳を、探していたのだと思う。


 言い訳は、いくつも作れた。


 冬だから増えた。役場に新しい役人が来たからだ。帝都の締めつけが強まったのだ。私の索引は、断罪ではなく配給のために作った。悪用したのは役場であって、私ではない。


 どれも、少しずつ本当だった。


 少しずつ本当な言い訳を、私は、王国でいくつも見てきた。


 断罪に立ち会った者たちが、あとで言った言葉だ。私は、あのとき何も知らなかった。私は、命じられただけだ。私は、止める立場になかった。


 ――私は、あの人たちを赦さなかった。


 赦さなかった私が、いま、同じ形の文を並べている。


 言い訳の紙を、裏返した。


 そして、別のことを数え始めた。


 二十七件の中身だ。


 罪状。禁じられた集まり、九件。税の隠匿、六件。盗み、五件。不敬、四件。その他、三件。


 被告発者の年齢。書かれていない。この様式に、年齢の欄はない。


 審査。全件、済。


 処断。追放、十九。労役、六。死、二。


 二。


 そこで、数えるのをやめた。


 やめて、机に手をついた。


 二人だ。


 名前は、書いてある。読めば、分かる。読めば、その人が何村の誰で、何を告げられて、どの日に死んだかが分かる。


 私は、読まなかった。


 読めば、たぶん、立てなくなる。


 ――卑怯だ。


 自分にそう言って、それでも、私は綴りを閉じた。


 窓の外は、暗かった。


 オルデンの夜は、灯が少ない。星が、やたらとよく見える。


 その星を、少しのあいだ見ていた。


 王国で、私は制度を作った。


 断罪を止め、記録を残し、公開の場で審査するようにした。人が、殺されなくなった。


 そのことを、私は誇っていた。


 誇っていた、というより――信じていた。


 記録は人を守る。透明であることは、常に善い。誰が見ても同じになる様式は、恣意を消す。


 その三つを、私は疑ったことがなかった。


 疑う必要が、なかったからだ。


 王国では、それが正しかった。


 ここでは。


 ――正しくない。


 いや、違う。


 正しさが、逆向きに働いている。


 同じ道具が、置かれた場所によって、人を守りもし、殺しもする。


 その考えを、はっきりと形にしたことがなかった。


 道具に、向きがある。


 なんという、当たり前のことだろう。


 鍬は、土を耕す。同じ鍬で、人を打てる。誰でも知っている。


 記録だけは違うと思っていた。


 記録は、真実に近づく道具だから。真実に近づくことは、常に善いことだから。


 誰にとって。


 私は、机の縁を握った。


 真実に近づくことは、真実を知られたくない人にとって、善いことではない。


 この国で、真実を知られたくないのは、権力ではない。


 隣の家に告げられたくない、ただの人だ。


 灯を落とさなかった。


 落とせば、暗くなる。暗くなれば、たぶん、朝まで眠れない。


 二十七という数字が、灯の中に浮いていた。

数えるところから始めました。この主人公は、動揺すると必ず数えます。

そして数え終わると、逃げ場がなくなります。

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