↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/38

第35話 あずさの襷

 それから8ヶ月後、駿と亜朱沙は、川端市の保健センターで声を嗄《か》らしていた。


「あずさーっ! こっちよ! ママはこっち! 急いでー!」


 赤ちゃんのハイハイレースである。居並ぶ0~1歳児が一斉にスタートするが、それぞれが思うようにハイハイするから、レースの体は成していない。スタート地点でキョトンとして動かなかったり、器用に寝返りして見せたり、各人各様の賑やかな会場だった。竹内 梓も例外ではなく、ゴールで呼びかけるママとパパを無視して、興味のある方向へハイハイしている。


 見かねた亜朱沙は叫んだ。


「あずさー! ゴールテープはこっちよ! 走れー!」

「おいおい、無茶言うなよ、まだ立ってもいないのに」


 白熱する亜朱沙ママの声に駿パパは呆れた。


 その時である。ママの声を認識したのか、突然、竹内 梓は方向を変えた。


「そうそう! あずさ! こっち! まっすぐそのまま!」


 そこからの竹内 梓の高速ハイハイは圧巻だった。手足が一体になり、弾みをつけリズムよく繰り出す。あっという間に先頭に立つとそのまま亜朱沙ママの元へゴールした。


『はーい、一等賞は竹内 梓ちゃん!』


 アナウンスが響き渡り、亜朱沙ママに抱っこされた竹内 梓8ヶ月は、ママと一緒に会場に向けて小さな手を振った。その梓の肩には、空色の『川端市立北端中学校』の襷がぐるぐると巻き付けられていた。


+++


「凄かったでちゅねー、梓ちゃん」


 亜朱沙は自慢の娘のほっぺにチュッとキスをする。


「まあ血を考えたら当然とも言えるけどな」

「百人中、一番の運動神経って言われたよね」

「ぶっちぎり人生を歩んで欲しいよ」


 赤ん坊を抱っこしたママと優勝賞品を抱えたパパは、保健センターの駐車場へ、ノロケながら歩いている。


「あれ?」


 亜朱沙は梓を抱っこしたまま足を止めた。舗装された駐車場の外れに一輪の花が揺れている。


 亜朱沙は近寄ると腰を屈めた。あの日、駒切中学の校舎を見下ろす舗装道路で見た、ピンクの小さな花である。飯野 梓の象徴と思ってしまった草花。亜朱沙は梓をその花の傍らに降ろす。


「繋ぐのよ、梓。これからも」


 亜朱沙は二人の梓に向かって言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。