ティータイム
僕と由美子はソファに並んで座り紅茶をすすった。
あれからほとんど毎日由美子が僕の家にやってきてちよりの世話をしている。
下着を取り替えたり小物を作ってきたり。
今日はパネルを持ってきた。50音順に文字が並んだ小さなボードである。これも由美子が製作したものだ。言いたいことがあればそれをちよりに指差してもらうことでコミュニケーションが可能となったのだ。
「あんな簡単なこと、どうして気づかなかったんだろう」
僕たちはジェスチャー大会から解放された。
「それはやっぱり男性脳、女性脳の違いじゃないかしら?」
「それよく言うけどさ、違いなんてあるのかな。男と女で脳みその使う部分が違うだとか。そんなの
オカルトとしか思えないよ。」
「どっちか言うと幼少期からの訓練だろうね。女性は女性らしさを訓練されるから、細かいところに気づくように習慣づけられるし、男性は男性らしい動作を習ううちにそういう思考が身につくんじゃないかな」
「だけど男はケンカが大好きだし、格闘マンガやプロレスを見て喜んでるのは男ばっかりだよな。」
「それはそうね。少年漫画のバトルシーンは何度読んでも面白いとは思えないわ。あんたも少女マンガ読んだら同じように思うんじゃない?」
「読もうとも思わないよ」
「ちょっとは読んだほうがいいよ。女の子の気持ちも理解したほうがいいよ」
「少女漫画は同級生とばっかり付き合ってるだろ?最終的には結局結婚だし。幼馴染とか先生とか、なんだか現実感がないよ」
「少年漫画だって1人で何十人も闘ったり変じゃん!」
僕が紅茶を飲み終わって伸びをしていると由美子がカップをもってキッチンへ行く。
そして手際よく洗浄した。その後姿を僕は不思議な気持ちで見つめていた。
なんだろうかこの気持ちは?
「なぁ由美子?」
「なぁに?」
「由美子は処女だよな?」
「そだけど。それがどうかした?私だって女の子だから恋愛に憧れるけど、女の子だからってエッチしたがるってわけじゃないからね!それに今は性病だって凄いことになってるし、だいたいさ……」
「いやいや、別に責めてるわけじゃないんだよ。それはそれで由美子の考えだから尊重するけどさ」
「だったら何よ?」
由美子が手を拭きながら戻ってきて僕の隣に座った。
「それはその、須藤凛々菜のことなんだけどさ」
「須藤?ああ、あの結婚宣言のね。」
須藤リリナは人気の国民的アイドルグループの中堅人気メンバーだった。
センター候補として期待され、去年の『国民的アイドル総選挙』では16位入賞に更に近づく20位という堂々の成績を納めた。しかし須藤はそのスピーチの場で突如密かに交際していた恋人との結婚宣言を行い、周囲のメンバーとファンを驚愕させたのである。騒動はその後もファン、メンバー、多くの文化人、芸能人論客を巻き込んだ大論争へと発展した。
「ああ、そのリリナなんだが」
「あんたファンだったの?」
「そういうわけじゃないんだが国民的アイドルグループはセンターと総監督が処女に拘っているという清純派グループなわけだよ。そこでリリナもセンター候補として自分が処女であるとしきりにアピールしていたんだ」
「よく知ってるるわね」
「男性脳だからね。それで僕もなんとなく気になっていたんだが、彼女は最近テレビに出て、母親が男をアパートに連れ込んで☓☓☓な☓☓☓する☓☓☓な音を小中学生の頃に聞かされて☓☓☓アレルギーになったというんだ。☓☓☓な☓☓を☓☓するのさえ連想してしまってツライというんだ。」
「まぁ、それって虐待じゃない!」
「ああ、親が☓☓☓を☓☓☓することを子供に見せるのは、見てしまったという場合でも虐待とされる。充分に注意していたが子供に見られてしまった、というなら別だがね」
「親としては気付いてなかった場合もあるわけだ。寝ているものだと思って」
「片親らしくてね。母親だって女だし、30代40代といえば女盛りだ。」
「だけどショックはショックよね」
「それについて奇妙な噂があってね。」
「どんな?」
「彼女は虚言癖らしい」
「芸能人なんだからアリじゃないの?虚構の世界で楽しむものでしょ」
「彼女の場合は度が過ぎている。最近のアイドルはリアリティが求められるから、作り込むキャラより本人の自然なキャラを活かしたキャラ作りを指導されるはずなんだ。特に国民的アイドルグループではね。総合プロデューサーがそういう方針だからね」
由美子は僕の目をじっと見て話を聞いている。
「彼女がそこまで処女キャラを作り込むのはなぜだろう?と思っていたところにこの奇妙な噂さ」
「どんな噂?」
「彼女の母親はバーの雇われママだった。そこで連れ込んでいた男はバーのマスターだ。そのマスターがたちの悪い男で母親だけではなくリリナにも☓☓☓を☓☓☓していたって話さ」
「あの子可愛いもんね。本当だとしたらひどい話。でもそういうのって結構よくある話でもある」
僕らはしばし沈黙して見つめ合った。
「そこで、だ。僕が由美子に聞きたいのは例えば、例えばだよ、そういう悲劇が起こったとして、その場合でも『穢らわしい非処女』と言えるのか?ということなんだ」
由美子は口を尖らせて少々思案しているようだ。
「ちよりに聞いてみる?」
「その必要はない。僕は由美子の見解が聞きたい」
ふうっと由美子は頬を膨らませてから息を吹いた。
「無理やりとかお酒やクスリを盛られて、親に売られて、逃げられない状況を作られて、☓☓☓させられた、仕方なく☓☓☓してしまったという場合は、その、なんていうかな、風で吹き飛ばされて不思議の国まで飛ばされたとしてさ、着地した地点で尻餅をついてしまった、その時丁度そこに棒が突っ立ってて、そこに刺さってしまったという、そんな事故と同じね」
「そうか。やっぱりそうか。膜が破れても処女を失ったわけではないってことか」
「なんにも恥ではないし、穢れてもいないわ」
「処女資格は失っていないってわけだな」
「処女というのは観念的な問題で、実際の肉体の状態は重要ではあるけど、それでも徴表に関する資料にすぎないからね。膜そのものは確かに重要だけど、それだけで処女かどうか?が決まるわけではないの。その子の内心や状況を総合判断して決まることなのよ」
僕は大きく頷いた。
「スッキリしたよ」
由美子はにっこりと笑った。
「処女は捧げるもので奪えるものではないからね」




