時間をくれ
次の日、届いたばかりの大型の水槽の中に由美子が持ってきた人形ハウスを入れた。
温度調整ヒーターも設置した。
「もう虫かご暮らしはおしまいだ。君は人間なんだ。僕らは君を人間として扱う」
ちよりは手を合わせて僕らに頭を下げた。
「お礼をいうことじゃないよ。アタリマエのことなんだ。人間として、当たり前の権利であり、
僕らの君に対する義務なんだ」
由美子が小さな下着と服の着替えを持ってきた。ちよりのサイズに作られている。
由美子が得意の手芸で作ったものだ。
「あんたは向ういってて!」
「なんだよ、またかよ!?」
僕は部屋を追い出された。リビングで待つ。
由美子とちよりが女子トークをしているようだ。
由美子が出てきた。
「他にいるものあるか?」
そう僕が聞くと由美子は難しい顔をしている。
「もう一度聞くけどさ?」
「何度でも答えるよ。僕はちよりの面倒を見る。一生かかって見続ける」
「結婚もしないの?」
僕は肩をすくめた。
「それが由美子に関係あるのかよ?」
「あんたの人間としての人生はどうなるの?」
「由美子は僕の考え方に賛同してくれて、僕らの仲間に参加してるんだよな?」
由美子は頷いた。
「これが単なるお遊び勉強サークルじゃないことは理解しているよな」
由美子は頷いた。
「僕がこういう集まりを作ったのは、こういうことに人生を捧げるためだ。僕にとっては結婚よりも
ちよりのような人を守ることが大事なんだ」
「そっか」
由美子は言うとリヴィングのソファに座った。僕に座るように言う。
「なんだよ?」
僕は少々めんどくさい気持ちになっていた。
由美子はポーチから小さなワタのような素材を取り出した。
「なんだよこれ?おいしいのかよ?」
「あんた女の子の下着って洗濯したことある?しかもミニチュアサイズ」
僕は返答に詰まった。
「それに、この素材は……」
「なんだよ?」
僕を締め出した理由のようだ。
「生理用ナプキンだよ」
僕は息を呑んだ。
「これを小さく切って作るんだ。あんたの役目だからね!」
そう言って由美子はソファを立とうとする。
「頑張ってね!正義の運動家サン!」
僕は由美子の腕を掴んでいた。
「待ってくれ」
「病気になっても虫歯になってもあんたが面倒みてあげてよね。責任を持って!人間らしい人生を
あんたがしっかり保障してあげてよね!」
僕は由美子をソファに引き戻して座らせた。
「時間をくれ」
「どれくらい?」
「1ヶ月」
とりあえず僕はそう言っておいた。




