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スペクタクル社会

「前の仕事はどうしてやめたんですか?」


「はぁ!?経歴不問じゃないんですか?求人票にはそう書いてあるのにどうして前の仕事を辞めた理由なんて聞くんですか?話が違うじゃないですか!」


「うちには若いスタッフも多いんですがうまくやっていけますか?」


「ハァ!?年齢不問って書いてあるじゃないですか!?だいたいうまくやっていけますかってなんなんですか!?年齢の上の人が入ってきても上手くやっていける人ばかり集めてるんじゃないですか?僕の方から上手くやっていこうとしても若い人たちが上手くやっていこうと思わないようでは成立しないじゃないですか!」


「帰ります!」


そう言うと僕は席を立った、面接担当者の手元から履歴書をひったくる。


「飲み仲間が欲しいなら人間力で探しな!」


僕はそう捨て台詞を吐くとオフィスを後にした。社畜どもが僕を冷ややかに見送る。


「君たちは自分の意志で投票したことはあるか!?」

僕が連中に向かってそう言うとヘラヘラしながら一斉に目をそらず。

女性社員がちらりとこちらを見たがすぐに目をそらして後はひたすら知らぬ顔だ。


「おい、そこの女性!君は女性の力を買われて採用されたはずだろ!?それを発揮できているのか!?男性中心社会の弊害、硬直した官僚的機構を打破するために、女性ならではの感性を生かして

変革をもたらすために雇われたはずではないのか!?」


「いいさ、仕事なんてやるフリして、殆どは無駄な儀式だってことは君たちだってわかってるはずだもんな!」


反応はない。泥に向かって叫んだようだ。

彼らが誰に投票するのかは彼らの支配者が決めることだ。


「君たちはロボットと変わらないんだ!わかるか!?人間じゃないんだ」


完全なる無視だ。


「君たちはこのスペクタクル社会の、まさに傍観者だ!もはや観客ですらない!」


僕がそう捨てゼリフを吐いてオフィスから退場しようとするとき背中から小声が聞こえた。


「あんたじゃぁ何のために面接受けに来たの?」


クスクスと笑い声が聞こえた。


僕は家に帰ると「ようちゃん」改め「ちよりちゃん」の飼育ケースを覗き込んだ

「ちよりちゃん」

ハンカチの下に潜り込んでいたちよりが現れた。僕に笑顔で手を振ってくれる。

「もうすぐ家ができるからね。あいつ、由美子がさ、人形ハウスを持ってくると言ってるんだ」

飼育ケースの隅には糞尿がたまっていた。

僕はちよりにハンカチの下に戻るように言った。そして糞尿をティッシュで拭き取った。


由美子がやってきた。人形ハウスはしかし大きすぎて飼育ケースに入らない。

大型のケースが必要だ。


「あっちいってて!」

「なんでだよ?」

「ちよりのサイズを測るのよ」

由美子は僕を部屋から追い出した。


採寸を終えて部屋から出てきた由美子と僕はホームセンターへ向かった。

「あんたさあ、女の子のことわかってんの!?」

「なんだよ!?」

「下着だって、着替えだっているのよ?」

「それはそのうち……」

「トイレだってあのままでいいと思ってるの?」

「だって、どうしようもないじゃないか!」

「もうほんとに!犬や猫じゃないんだよ!ちよりは人間なんだよ!人間の女の子なのよ!」

僕は気色ばんだ。

「わかってるよ!人間だからこそ、人間らしく……」

「あんたさ、ちよりの面倒、ずっと見るつもりなの?」

「当たり前だろ!人間なんだから人間の連帯として……」

「あんた1人で面倒見続けられると思ってる?こんなこと言いたくないけど……、下手すると一生面倒みなきゃいけないんだよ?」

「だったら何か。お前は自分が異世界の、巨大人間国に飛ばされてしまったとき、誰からも相手されなくてもいいのか?」

「だからあんた1人で見続けることが、現実にできるの?って聞いてるのよ」

由美子はちよりの存在をオープンにして世間の協力を得るべきだと考えているのだ。

「由美子は自分が巨大人間国に飛ばされて、そこで好奇の視線に晒されて、24時間監視されてもいいのか?それが人間の暮らしと言えるのか?」

「あんた言ってたよね。傍観者にはならないって」

「ああ、人間の多様性と個性が認められて、全員が対等にお互いを尊重できる社会を目指すのは僕らの使命だ。由美子だって賛同してくれたじゃないか」

「そうよ。だから私はちよりの存在をオープンにすることが必要だと思ってるの」


由美子は熱帯魚用のヒーター付き水槽を指差した。

「これがいいわ」

僕は実物を確認すると、スマホでショッピングサイトを検索した。

そして一番安いモノを注文した。今や実店舗はネットコマースのショーウインドウ的地位に成り下がっている。


僕達を眺める店員たちの目には生気がない。彼らは非正規なのでそれも致し方ないだろう。

ここは連中の店ではないのだからモノが売れようが売れまいがどうでもいいのである。

だから僕らも何も気兼ねする必要はない。


「水だって、いつも清潔でなきゃいけない。でないとお腹壊しちゃう」


由美子がチョイスしたのはうさぎ用の給水サーバーだ。それからトイレ用の猫砂。

僕らはこれらを全てネットで注文した。合わせ買いで値引きされるうえにポイントも貯まる。


だから僕らは手ぶらで僕の家に戻った。玄関で由美子が言った。


「あんたさ、ずっとちよりと暮らすつもりなの?」

「僕が僕の責任で家に連れ帰ったんだ。僕が面倒見るのは当たり前だろ」

「結婚もせずに?」

僕は答えに詰まった。

「ちよりは私とタメだから、あんたよりだいぶ年下だよ。普通に考えてあんたのほうが先に死んじゃうんだよ?」

「でもそれまでにきっと異世界、ってか元の世界への帰り方がわかるはず」

「ホンキで思ってる?」

「絶対見つかるよ。元の世界に帰る方法。だからそれまでは……」

「奥さんや子供にも隠し通すつもりなんだ?」

「だからそれまでには見つかるはずだ」

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