ようちゃんの彼氏
僕らは車に乗った。
もちろん「ようちゃん」も一緒だ
ビクの中のようちゃんは終始うずくまって耳をふさいでいる
音が大きくて仕方ないのだ。由美子がハンカチをビクにいれた。これで音が防げると思ったのだ。
ようちゃんをハンカチで包んだ。ようちゃんは潜り込んだがすぐに出てきて首を振る。
鼻をつまんでいる。両手でバツ印を作っている。
「くさいのかよ!?」
僕らは笑った。その笑い声にようちゃんはまた耳を防ぐ。
「おっといけない」
僕らは声を小さくした。
「まぁ!失礼な!むかつく!!」
由美子が憤慨している。
「そういうなよ。俺たちにとってはいい匂いだけどコビトになってしまったようちゃんにはキツイんだよ」
「あ、そっかあ。小さくなると大変だね」
由美子はようちゃんにゼスチュアで謝った。ようちゃんも申し訳なさそうに手を合わせている。
僕らは草を詰んでビクに敷き詰めた。ようちゃんは潜り込んだ。これは快適のようだ。
「やっぱり自然の匂いが一番なんだな」
僕らはクルマに戻って発進させた。街が見えてきた。
「でもさ、ようちゃんはどうして草むらに潜り込んでたんだろ?」
最初に出会った時ようちゃんは草むらの中にいた。
「それはやはり、花を摘みに行ったんじゃないかしら?」
「うーん。なるほど、女の子だもんな」
ようちゃんは何かしらのトラブルに巻き込まれ異世界に転送されてしまったらしい。
「何と言っても異世界だからな。体調が崩れても仕方ないよ」
「水が合うとか、そういう次元の話じゃないもんな」
僕らは言い合った。ビクの中を見るがようちゃんは敷き詰めた草の奥深くに潜り込んでしまって姿が見えない。そこなら騒音もなんとか耐えられるのだろう。
「なんとかようちゃんを元の世界に戻してあげなきゃな」
そう僕らの1人が言ってから僕らはみんな無言になった。
(しかし……どうやって?)
「まぁそう深刻になるなよ。この世界には神様はいるんだから」
「そうだね。異世界……ってか元の世界から救援隊が向かってるかもしれないし」
「救援隊……。だとしたら俺達がこうやって移動させてしまうのはまずかったのでは?」
「だけどあのまま夜になると凍えて死んでしまう」
「ようちゃんがこの世界に来たのは、だから今日のことなのか?」
「そこはわからんが、後で聞いてみるしかない」
「聞いてみるとはいっても、どうやってコミュ取るんだ?声が聞こえないんだぞ?」
「こんな時のためのコミュ力だろ?」
「コミュ力ねえ~」
「コミュ力とか人間力ってのはだけど、50代とか60代とかの立派な大人になった人が身につける、そういうものじゃないのか?」
「社会で働きながら人間力やコミュ力を身につけていくものなのに、その入口で要求されるってなんだかおかしくないか?」
「コミュ力を求めるオトナたちにはコミュ力があるはずだから、誰とだってコミュできるはずなんだよな。だいたいコミュ障とコミュできる力や、理解できる力がコミュ力とか人間力だと思うんだけどね。」
「お前はコミュ力がない!人間力が足りない!ってのは言ってるお前こそ足りないんじゃないの?って話だよな」
僕達の話は自然とシューカツの話になっていた。
「だから『人間力のある人を求めます』なんていう企業はアホがボスやってる会社だよな」
「そんな超能力みたいなものを求められても困るよな」
「コミュ力や人間力の内容を考えたこともなく募集広告に使ってるわけで、自分たちの人間力でスカウトすりゃいいんだよな」
「飲み仲間募集と思ってんじゃないのかね?」
「飲み仲間と仕事仲間が一緒なのがそもそもおかしいんだよな。それにさ、そんな人間力が求められるような高度なスキルが必要な仕事を任せる人間を公募で集めようってのが図々しいよな」
「コミュ力やら人間力やら言い出す経営者はボンクラで、そんなやつがやってる企業はブラックってことだわな!!」
アハハハハハハ!僕らは互いに笑いあった。黙って聞いていた由美子が言った。
「ようちゃん、恋人はいるのかな?」
僕はハッとした。そこで僕は由美子に聞いた。
「由美子、お前は処女だよな?」
「えっ、そ、そうだけど。何よ?」
「なんで16歳にもなって未だに処女を頑張れるんだ?」
「あ、あんたに言われたくないわよ。」
「お前たちの年頃の女の子は恋愛をしたがるんじゃないのか?」
「私は、別に、思わないよ。みんなとこうして遊んでるのが楽しいし」
「エッチしたいと思わないのか?」
「そ、そりゃ、いつかは、誰かと、って思うけど、今は別にそんなのまだいい」
「だってお前もう16歳だろ?」
「16歳でも色んな子がいるよ。男のコやエッチには興味あるけど、そういうことを自分がしたいとは思わないし。まだ早いもん」
「早い早いと思ってたら気がつくと遅れてるもんだぞ?」
「早い遅いに価値の差があるわけ?」
僕らはすこしたじろいだ。由美子がここまで処女にこだわりを持っているとは。
「お前AKGに入りたいのかよ?」
AKGとは人気の国民的アイドルグループである。なんだかんだで処女でないとセンターには立たせないハード系の清純派グループとして知られている。
「そういや、最近卒業した渡辺由麻やなんだけっけ?公式ライバルグループの生駒莉羅?あの子達も22歳とか23歳まで真剣に処女を頑張っていたね。」
由美子はう~んと不思議そうな顔をした。
「たしかにサー、ユマやリラが処女で卒業したことをメディアが褒めてて、清純を頑張り通したとか、ノースキャンダルを貫いたとかさ。でもそんなの清純派グループなんだから当たり前のことじゃん?それができないのに清純派とか王道なんて名乗れないでしょ?それに恋愛禁止なんて、うちら普通の一般女子でも割りとアタリマエのことだよ?」
「でも雑誌やメディアじゃさ」
「知らないよ。そういうの信じるか信じないかの違いだけじゃん。みんなやってるからってなんで私までエッチしなきゃいけないの?快楽よりも幸福を求めてるの、私は!それに性病になったり、子宮頸がんになったりするんだよ?いやじゃん、そんなの。男の人はどうせ逃げちゃうんだから」
僕は意地になった。そのとき僕らのクルマは湖畔の辺りを走り抜けていた。
「でもさ!」
由美子は機先を制するように畳み掛けてきた。
「じゃさ、処女の渡辺由麻と非処女の渡辺由麻が溺れてたらどっちを助けるの?」
そういって湖を指差した。僕らは一斉にそっちを見た。クルマが揺れた。
「ちょーっともう!ドライバーはよそ見しないの!」
「うーん。だけどこれはクリティカルな指摘だよね」
僕らの1人がいった。僕もうなずかざるをえない。
「確かに、処女の渡辺由麻と非処女の渡辺由麻があの湖で溺れていたら、まずは飛び込んで処女の渡辺由麻を確保だよな。人工呼吸して、心臓マッサージして、それで息を無事に吹き返して、そのうえで、余裕があったら非処女の渡辺由麻を助けるよな」
「でしょ?処女と非処女なら処女のほうが絶対価値が高いもん!」
「こりゃ一本取られたようだぜ?」
僕らの仲間が僕に笑いかける。僕も苦笑いするしかない。
「この世は結局男と女、男無くしては女が輝くこともできない。処女の前では男の根性とパワーは5倍になるからな。男を最大限に活かしてこそ女も活きるってわけか」
「そういうことよ」
そういって笑顔を見せる由美子。その頬に湖の輝きが揺れていた。




