エピローグ
ナイツの為にお墓を作った。
綺麗な石が積み重ねられた簡易的な墓石だったが、現状ではこれが精一杯の形だった。
石を用意したのはクールだが、襲ってきた相手の墓を作るのは面倒だと感じていたが、ティアに逆らうことが出来ず、言われるがままに行動していた。
「これで良いか?」
「うん……」
ティアは手を合わせ、そっと瞳を閉じた。
静かにナイツへと冥福を捧げる。
本当は花を添えたかったが、残念ながら辺りには何処にも生えてはなかった。
「ありがとう……ありがとう……ナイツ……ありがとう……」
何度も感謝の言葉を繰り返し、その度に涙が溢れた。
ナイツが悪い人だとは思えなかった。ヘリコプターからの落下や、先ほどの落盤の時も救ってくれたのはナイツだったから。
一部の記憶が蘇っていた。遥か昔に読んだ絵本に、命を救ってくれた恩人の為にお墓を建てて供養した内容も思い出した。
ナイツの為に……それだけではない。もう一人……“大切な人”の為に、こうしなければいけないと思った。
ティアの健気な姿を黙って見つめるクール。だが、ゆっくりもしていられない。
一通りの別れを済ましたと判断して、切り上げさせる。
「さぁてと、そろそろ行きますか。ティア様」
「え……もう?」
「気持ちは解るが、ここでグズグズしていると、また黒服の連中に取っ捕まって閉じ込められるかもしれないぜ。ひとまずオレを信じて付いてきてくれ。さぁ」
クールはそう言いつつ、バイクの中からゴーグルとマスクを取ると、ティアに手渡した。
バイクはサイドカーが備え付けられており、博士が用意してくれていたもので見つけておいた。水や食料などの用品も準備してくれていて、暫くは生活に困らないだろう。
「これは……?」
「博士が言っていたよ。ティア様にとっては、外の空気は毒みたいなものだから、それを付けて、ちゃんと自分の身は自分で守れとさ」
クールに促されるままマスクなどを装着するティア。その場を立ち去ろうとしたが、名残惜しくもナイツの墓を振り返った。
ナイツの姿に、ある人物の姿が重なって見えた。
「行ってきます、ナイツ……。そして、お兄ちゃん」
最後の別れの言葉を手向けた。
すると、厚く灰色の雲に覆われていた空の隙間から光が差し込み、大地を照らす。現代にとって珍しい光景だった。
「おっ! なんか良いことがありそうだな」
クールは博士が用意してくれていたバイクに乗り込み、ティアは促されるままバイクの横に備え付けられていたサイドカーの座席に座った。
ティアは、ふとクールを見た。
ナイツのお墓を作っている時にクールから詳しい話を聞かされた。
なぜ自分が、クールに連れられて外に出ているのかを。充分、信じられる内容では無かったが、ティアはクールに一応の信頼を置いていた。
顔はまったく似ていないにも関わらず、どこかナイツと同じような雰囲気を感じ取っていたからだった。それに、いつまでもあの部屋に閉じこもりっぱなしだったのもイヤというのもあった。
しかし外の世界は、想像以上に廃れていた。辺りを見回しても、戦争が起きる前の風景……自分の記憶にある綺麗な建物や景色などは何処にも無かった。広がるのは廃墟と荒れ果てた大地。
心細さに不安がティアの心によぎる。
本当はお兄ちゃんが居て欲しかった。ナイツが居て欲しかった。
だけど今は、クールが居る。今は彼を信じて見よう。と、心の奥で思った。今、頼れるのは彼だけなのだから。
そう思いつつ、ティアはクールの服の裾をそっと握った。
「さぁて、行きますか!」
クールは自分自身に気合いを入れつつ、エンジンを起動させた。問題なく起動したのち、ゆっくりとハンドルのスロットルを回した。
こうしてクールたちは、ティアが安全で安心して暮らせる場所を目指して、日差しに照らされた道を、地平線の彼方へと走り去っていったのであった。
***
ナイツは、深い闇に閉ざされる間際、夢を見た。夢を見ることが出来ない改造人間のはずなのに。
目の前にティアが立っていた。ティアと二人きりの空間。
ナイツは自然と口が開き、ティアに優しく語りかける。
「ティア……。君がこの映像を見ているということは、無事戦争が終わり、冷凍睡眠から目覚めたのだろう。本当に良かった……」
「あー……、もし、これをティア以外の人が見つけたのなら、出来ればティアという女の子に見せてください。僕の大切な妹のような存在なんです」
「ティア……」
「まず、謝らせてくれ……ごめんな。お兄ちゃん、ティアに嘘をついていたよ。冷凍睡眠装置が他にも有るって……。実は、ティアの分しか無いんだ」
「お兄ちゃんは、残念だけど……。と言っても、ティアは信じてくれないんだろうな……。ごめんな……ティアが目覚めた時に、お兄ちゃんが側に居られないで……ごめんな。だけど、ティアには、平和な時代で幸せに生きて欲しいんだ」
「でも、ティアは怒るだろうね……泣いてくれるだろうね……。ごめんな……」
「だけど……僕は、ずっとティアを守ってあげるよ。ティアが好きだった、あの絵本の騎士のように……必ず……」
「ティアと、もっと一杯、もっとずっと……遊びたかった、一緒に居たかった、遊んであげたかった……」
「ティア……さようならは言わない。また……会おう。必ず、会おう……」
ナイツは理解した。自分は、この青年なのだと。
正しく言えば、これは夢ではない。いつか博士に見せられた映像。だけど、それでも良かった。
記憶や全てを失った自分にとって、僅かな間ではあったが、新しい自分……生きる理由を見つけられたのだから。
ナイツは穏やかな表情を浮かべ、自分の命の幕を下ろすかのように、瞼を閉じたのだった。
―了ー




