第九話 ダメおっさん、領主クロイに会う
「領主クロイに会わせてくれ」
「貴様! クロイ様になんて口をきくんだ!」
俺は領主の館に着き、クロイに面会を求めた。
当然門番は敬語を使わない俺を排除しようとするだろう。
だがそんなことは関係ない。
ダメなら押し通るまでだ。
俺と領主の館の門番がにらみ合っていると館から背の高い黒髪のメイドが出てきた。
はっはーん。こいつが俺の家やサラの監視をしていた影か。
「その方はクロイ様の客人です。通しなさい」
「な!」
門番は後ろを向いてメイドを見た瞬間、怯えた表情を見せて門を開ける。
まあ職務に忠実なのはいい事だ。
領主の館はレンガと木造で作られた城のような館だった。
門と外を隔てる塀は高く、俺の身長の五倍はあるだろう。
「こちらにお進みください」
「お前が……」
俺が言葉を続けようとすると、黒髪の泣きほくろがチャーミングなメイドはそっと口にチャックをする。
まあここで言う事でもないか。
領主の館に入ると貴族の館にしては少し地味な黒色のカーペットが目に入る。
壁に掛けられているのは古今東西の武器ばかり。
お、東方の国で作られている刀って武器もあるな。
魔力操作で魔力波形を探ろうとすると、俺の首に冷たい感触が当たる。
「前も言ったはずです。魔力波形を探るのは推奨できないと」
「ちっ」
殺気を一ミリも出さずに俺の後ろに転移する。
はあ、俺も鈍ったものだ。戦場では転移してくる魔族の裏をかいてぶっ壊すなんてよくやってたのにな。
「黒髪メイド。お前の名前は?」
「……ラーナとお呼びください」
ふん。本名か知らんがこいつはかなり腕が立つ。
魔族大戦の時にはいなかったはずだがな。
ラーナは俺が魔力操作を辞めるのを感知すると何事もなかったかのように歩き出す。
「お前が前を歩けよ」
「ラーナとお呼びください」
「……ラーナが前を歩け」
ラーナは一瞬で俺の前に転移すると俺を応接室に案内する。
「クロイ様、冒険者のガンク様をお連れしました」
「入れ」
「入るぞ。ってやっぱりか!」
俺は領主クロイ様とやらの顔を見て驚く。
金髪が白くなり、銀髪のオールバックになっている。
目つきは険しく、見る者をすべて威圧するこの佇まい。
そして部屋にはビッグサイズの太刀を携えたこの壮年の男性は……。
「やっぱりクソ師匠じゃねえか!」
「ああ! それが師匠に話をする態度か!」
「うるせえ! クソ爺! てめえ貴族だったのかよ!」
俺が魔族大戦で戦う前に出会った太刀使いのSランク冒険者のアンドルフ師匠だ。
「なんで貴族だって隠してたんだよ!」
「ああ? ガルランド王国に隠して戦うにはそれしかなかったんじゃ!」
はあ。そうだった。このクソ師匠はどうしようもなく、戦闘狂なんだ。
「てか名前はどうしたんだよ」
「アンブレイン・クロイ・ガンドルフじゃ」
「……はあ」
戦場では略してアンドルフって名乗ってたってわけか。
「ラーナ、もう下がっていいぞ」
「かしこまりました」
黒髪美人メイドのラーナは一瞬呆れた顔をすると無表情で部屋を出ていった。
「ふむ。元気でやっとるか?」
「俺は悠々自適に暮らしてるよ。ってそうじゃねえ! サラを何で一人で森で戦わせているんだ!」
「あの娘はレインブルク一族じゃ」
「ああ?」
「ラーナは監視に付けておったじゃろう」
「なんで目に付くところで助けてやらないんだ!」
「あの娘が護衛を許すと思うか?」
ちっ。この一言で分かった。
やっぱりこのクソ爺はサラの家族の事情を知ってやがる。
俺はふつふつと怒りが湧いてきた。
「おいクソ爺。てめえ、サラがなぜ、父親に斬られたか知っているだろ」
「そんなことは知らん」
ちっ、俺は思わず威圧をしたが、このクソ爺には効かない。
「ガンクは今やギルドの飲んだくれたダメおっさんじゃ。何故そんな奴があの娘を気に掛ける」
「……あいつには才能がある。こんな呪われて終わってるおっさんと違ってな」
俺はもう良いんだ。かつては呪いを直す手立てがないか探し回ったが空振りに終わった。だけどサラはまだまだこれからの人生だ。
俺はいつの間にかサラの才能について熱く語っていた。
「ふむ、随分あの娘に肩入れしているようじゃの」
「当たり前だろ」
「マルクの街の森の異変を解決できれば何かわかるじゃろうな」
「クソ爺がとっとと口を割ってくれればいいんだぜ?」
「……」
どうしても話す気はなさそうだ。
だが今回の緊急依頼は受けた方が良さそうだ。
サラは一人でもマルクの街の森の異変に向かうだろう。
俺が理由をつけて一緒に戦ってやればいい。
「ふむ。サラはしっかりお主が見ておくんじゃ。折角とった弟子を死なせたくないだろう」
「クソ爺の手のひらで踊るのは癪だな。だがサラのためなら仕方ねえ」
「冒険者ギルドで報酬について聞いてくるといい。今回は領軍も出すが冒険者の手綱はしっかり握っておくのじゃぞ」
はあ。クソ師匠はいつもこうだ。何かを知っていて弟子にそれが対処できるか試してくる。同じパーティーの異世界の勇者も、いつも師匠を苦手にしていたな。
だがマルクの街には愛着がある。しっかり守ってやらなきゃな。
次話、マルクの街の冒険者の稽古をする。
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