第七話 ★サラの四年前の夜
幼い頃を思い出す。
マルクの街の森に山小屋があり、そこにパパとママとあたしで住んでたの。
「パパ、ママ待って!」
「森の中は危険だから走るな」
「パパの言う通りよ」
あたしがパパとママを追いかけて、森の中を走って追いかけると二人は苦笑していたわ。
「だってお花畑が綺麗なんだもん!」
「そうだな。ここはママがきちんと手入れをして、ここまで育ったんだぞ」
「この場所はレインブルク一族にとって特別な場所なのよ」
大きな岩の周りに咲き誇る白やオレンジ色の花々。
それが森の中に開かれた土地に綺麗に咲いていた。
あたしはその場所に目を奪われていた。
あたしはレインブルク一族の跡取り。
ご先祖様は強大な魔獣と戦い、勝利してマルクの街の森の管理を任されるようになったらしい。
「ほら、お家に戻るわよ」
「今日のご飯はなあに?」
「今日はイノシシ肉のステーキと山菜のソテーの盛り合わせよ」
「やったあ!」
この頃が一番幸せな記憶だった気がする。
あたしはずっとこの森でパパとママと一緒に暮らしていくんだと思っていた。
**
「あの子はもうだめだわ」
「ああ、そろそろやらないとまずいな」
「レインブルク家の血が強いわ。あの子も私たちから離さないとまずいことになるわ」
「分かってる。分かってるんだが……」
ある時、お花摘みに行こうとして、パパとママがリビングで話をしているのを聞いたわ。あたしはどういう事か二人に聞こうとしたけど……聞けなかった。
何故かものすごく怖かったの。
それからも異変が起きたわ。
パパとママは狩りがものすごく上手い。
傷ひとつ負わずに狩りをしていたのに、最近は大きな傷を負って帰ってくることが増えた。
あたしは心配だった。だからこう言ったの。
「パパ、ママ、あたしにも剣を教えて!」
「……」
あたしの言葉に二人は答えなかった。
今ならわかるわ。あの二人はあたしに実力を付けさせたくなかったのよ。
でも何故か二人は泣きそうな顔をして、あたしを無言でハグしてくれた。
「パパ、ママ?」
「ごめんな」
「ごめんなさい……」
二人は涙を流して何も言わなかった。
それがどうしてもわからなかったわ。
そして四年前のあの夜。
夜になったのに、パパとママが帰ってこない。
危険なのはわかっていたけど、護身用の木剣を持って暗い森の中を進んだわ。
「パパ! ママ!」
あたしは獣の鳴き声や虫が鳴く森を一人で歩いたわ。
一人で歩く森はとても怖かった。
あたしはいつの間にか、パパとママがレインブルク家にとって大切な場所だと言っていた花畑に来ていたわ。
「グラアアアアア!」
月に照らされた花畑に、今まで見たことのない魔獣がいたわ。
赤い目に漆黒の体毛、筋肉が異常に肥大した魔獣。
四足歩行かと思いきや、二足歩行で走り回って誰かと戦っていた。
あたしは戦っている二人を見てびっくりした。
「パパ、ママ!」
「何をしているのサラ!」
「隠れていろ!」
二人はロングソードとランスを振りかざして、魔獣の攻撃を逸らし、反撃をする。
振り、払い、斬る。ただそれだけの行動なのに何故か目を離せなかった。
魔獣がジグザグにステップを踏み、パパに迫る。
パパはまだ距離を離れていたのにロングソードを振るう。
魔獣は大きな血しぶきを上げて悲鳴を上げる。
その隙をついてママは持っていたランスを月の光にかざす。
あれは何?
ランスが白く光り、ママの背中に白い羽が生えた。
「これで決めるわ! ムーンチャージ!」
ママは一瞬で魔獣に迫るとランスを振り抜く。
すごい! 決まった!
だが魔獣は黒い靄を纏わせると背中に堕天使のような羽を生やし、鋭い爪でランスを払った。何故だかその時だけ魔獣はかっこよく思えたの。
あれは稽古を積んでいる者しかできない芸当に思えた。
魔獣は大きな咆哮を放つと、あたしの方をちらりと見て森の奥に消えていった。
あたしは腰が抜けていた。
あんな魔獣とパパとママは戦っていたんだ。
怖いけど誇らしい気持ちでいっぱいだった。
「パパ、ママ! 大丈夫?」
あたしはパパとママに向かって走り出す。
そして立ち止まった。
何故かパパがあたしにロングソードを突き付けていた。
「パパ……?」
パパとママは何も言わなかった。
底知れない冷たい目と本気の威圧。
なんで。なんでなんでなんで。
怖い、こんな目線を向けられたことがない。
「何故怯える」
「だ、だって」
「こんなことで怯えるのならば……」
「……」
「お前はレインブルク一族にふさわしくない」
あたしは絶句した。
なんで? あたし何か悪いことした?
いや、前にリビングで聞いたことってこの事?
え? あたし捨てられた?
パパは無言でロングソードを構えてこちらに歩いてくる。
怖い、逃げなきゃ!
あたしは背中を向けて、全力で走り出す。
「ギャア!」
あたしの背中に大きな衝撃が走り、宙を跳ぶ。
痛い、痛い痛い痛い!
あれはパパとママじゃない!
ただの化け物だ。
あたしは倒れ込んだまま、目を閉じた。
その後何が起きたかは知らないわ。
気がついたら、マルクの街の領主様のお屋敷に運ばれていた。
「怖かっただろう。まさか自分の父親に斬られるとはな」
「あたしはどうして、ここに?」
「マルクの街の門の前に捨てられていたのだよ」
クロイ様はそれだけ言って口をつぐんだ。
パパとママは指名手配された。マルクの街の森に騎士たちが入って行方を探したみたいだけど見つからなかった。
それからあたしはクロイ様の騎士団に剣を少しだけ教えてもらい、マルクの街の森に夜に入るようになったわ。
何故かはわからないけど……パパとママが憎かった。
そしてあの時二人が戦っていた魔獣に何かを感じたの。
あいつはあたしが倒さなきゃいけない。そう感じた。
周りの冒険者たちはパーティーを組まないかって誘ってきたけど断ったわ。
だって……あんなことがあったら他人なんて信用できない。
あたしは……一人よ。
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