第六話 ダメおっさん、サラに剣を教える
「まずは剣の振り方だ」
「あたしってそんなに剣の振り方変なの?」
「違う。サラの振り方はこうだ」
俺は左足を踏みこみ、早い助走で上段から木剣を振るう。
ブゥン!
「何よ、普通じゃない」
「違う、振り切った後の体勢を見て見ろ」
俺の体勢は重心が振り切った後でブレていた。
「次はこういう風に剣を振る」
俺は先ほどと同じように左足を踏みこみ、剣を振る。
シュン!
「あ、風切り音が違うわ」
「そうだろう。そして体の体勢を見て見ろ」
「上体が突っ込んでないわ」
俺の体勢は次の連撃に備えられる体勢になっていた。
「でもなんで風切り音が違うの?」
「良いところに目を付けたな。剣を振るときに無駄な力を抜いて、体全体で振るんだ。具体的には、下半身で踏みこみ、腰から上半身に力を伝える」
「それだけ?」
あのなあ。その基本ができてないから、駆け出しから中堅になって、上がれなくなる冒険者は多いんだぞ。
「一回振ってみろ」
「ふん。一回でマスターするわ!」
「千回は振ってもらうぞ」
「せ、千回?」
サラは俺の言葉にビビりながら俺の正面に構える。
正眼に構えて、木剣を振る。
ブゥン!
「ダメだな。やっぱり上半身の力だけで振ってる」
「なんでよ!」
そりゃそうだ。剣の才能があるのは間違いないが、体が細く、上半身から剣を振り切る癖がついてる。だが俺はそんなにこの癖を直すのは時間がかからないと思っている。
サラは目がいい。じゃなきゃ、アルト戦で俺が使った魔力層を薄く張る芸当が真似できるはずがない。
「ほら、とりあえず、木のショートソードを振るぞ。だが一回ずつだ。魔物が実際襲ってきていると思って振る」
「その魔物は?」
「そうだな。昨日戦ったジャイアントスパイダーの上位種なんてどうだ?」
「良いわね!」
「だがちょっと待て」
「?」
俺は二階の物置からマジックオーブを持ってくる。
これは、今まで本人が戦ったことのある魔物の幻影を映し出してくれるんだ。
すごいところは本人に実際にダメージを食らった感覚があること。
勿論魔物もダメージを受ける。幻影だけどな。
それに何回でも使える。俺は現役時代、ダンジョンからこのオーブを発見して小躍りしてた。
昔の仲間には戦闘狂って言われたけど、パーティーの異世界人の勇者だけは褒めてくれたな。ブイアール装置って言ってたけどどういう意味だ?
このオーブをサラに説明すると目を丸くしてニマニマしていた。
こいつも戦闘狂だな。
「ガンクの癖にやるじゃない!」
「じゃあこいつを使って稽古開始だ」
マジックオーブを起動すると、俺たちのいた空間がマルクの街の森の中に変わる。
そしてジャイアントスパイダーの上位種が登場する。
「良いか、剣は振りきらず、次の連撃につなぐこと。常に魔力層を張って相手の攻撃は予測しながら躱すこと」
「分かったわ!」
サラは目を輝かせながらジャイアントスパイダーの上位種と戦い始める。
昨日は考え無しに前脚に攻撃してたが今日はどうかな?
「ほう」
サラはジャイアントスパイダーの上位種と少しだけ距離を取り、相手の攻撃を待って躱してから攻撃するヒットアンドアウェイの構えだった。
元々運動神経はいいから、ジャイアントスパイダーの上位種の糸を躱して、ひらりと木のショートソードで斬りつける。
「お」
前脚がまた一本斬れた。どうやら木のショートソードに魔力を流して切れ味を上げているようだ。これは簡単に言うが駆け出し冒険者にはできる芸当じゃない。
物質によって魔力抵抗が変わるのだが、普通の木剣は魔力抵抗が高く、強引に魔力を流すと壊れてしまう。
だがサラは簡単に魔力を流す量を見極めて、壊れない程度に刃を纏わせている。
サラはやっぱりレインブルクの一族かもな。
ジャイアントスパイダーの上位種は業を煮やして昨日と同じく、糸を周りに吐き出す。
これに当たって、サラは動きを止められたが、次はどうする?
「ファイアーボール!」
「良い判断だ」
もっと距離を取って、糸が当たらない位置から魔法を放つ。
ジャイアントスパイダーの上位種は火魔法が弱点だから糸を吐くのをやめて、逃げ始める。サラ、ここだぞ。
「これでおしまい! 壱の回……」
「え?」
「壊閃!」
サラは木のショートソードに最大量の魔力を溜めて、透明な大剣を作り出す。
そして素早い動きでジャイアントスパイダーの上位種の頭に上段から重心をブレさせずに叩ききる。
シュン!
ジャイアントスパイダーの上位種は攻撃を食らった後、動きを止めて……。
頭から尾まで二等分に綺麗に割れる。
ジャイアントスパイダーの上位種は崩れ落ちて、消えた。
俺たちの空間も俺の家の庭に戻ってくる。
「どんなもんよ!」
「最後の一撃はよかったぞ。ちゃんと重心をブレさずにショートソードに力を伝えていた。まさか俺の技を真似するとはな」
「ふっふーん! 昨日の夜から宿の部屋でイメージしてたのよ!」
うーん、やっぱりサラは天才だ。
あの技は簡単そうに見えるが魔力操作や剣の振り方が関わってきて難しい。
少しため息をつく。
これは師匠を越えるのも早いかもしれんな。
俺は裏の井戸でサラに汗を流すように言う。
マジックオーブの空間でも体は体力を使うし、汗も流すからな。
また美味い飯作ってやるか。体ができてくれば、今よりも剣を振るえるようになるしなあ。
「っておい! 何でここで脱いで……ッ!」
いきなり裏の井戸で脱げばいいのに、背中を向けてサラは上半身裸になった。
そして……サラの背中には斜めに切られた切り傷が残されていたのだ。
「……」
俺はサラの背中を見て押し黙る。
サラも傷の事を忘れていたように俺の顔を見て失態に気づく。
俺は言葉を絞り出すように、一言言った。
「誰に斬られた」
サラはバツの悪い顔をした後、一言こういった。
「パパよ。あたしはレインブルクの一族にはふさわしくないって」
「ッ!」
俺は頭が煮えたぎり、手に持っていた木剣を握り壊した。
サラは悲しそうに笑った後、語りだした。
四年前の夜の事を。
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