第五話 ダメおっさん、サラについて考える
あの後、ジャイアントスパイダーをアイテム袋に収納して、マルクの街に戻った。
「ジャイアントスパイダーだけだとクロイ様に叱られるわ」
「はあ? サラは何で夜に魔物を狩りに行くんだ?」
「……倒さなきゃいけない魔物がいるのよ」
うん? マルクの街の夜に出没する魔物で倒さなきゃいけない魔物?
「……わかったよ。だが一人で行くのはダメだ」
「ふん。勝手についてくればいいのよ!」
うん、またつんつんしだしたな。後なんか貴族の令嬢みたいな感じだ。
俺は苦笑しながら、サラの頭を撫でてやる。
サラは少し固まったものの、手を払わなかった。
ジャイアントスパイダーは俺が壊しちまったから、買取値段が下がっちまった。
冒険者ギルドの職員が苦笑してたな。
ちなみにジャイアントスパイダーは甲殻と糸と毒針が売れる。
ただメインの甲殻がだいぶ傷んでたから安くなっちまった。
「悪いな。俺がぼこぼこにしたから買取値段が下がっちまった」
「ふん。次はガンクの手を借りずに勝つわ!」
「ああ。サラはどこの宿に泊まってるんだ?」
「森の温もりって宿よ」
「ああ、あそこはいいな」
「ガンクは?」
「俺は買った家があるぞ」
「はあ⁉ ガンクのくせに生意気よ!」
「俺はそこそこ金持ってるつうの」
「納得いかないわ……」
そもそもギルド職員だから給料は悪くない。
それに今はCランク冒険者だったが昔はAランク冒険者として戦ってたんだぜ。
まあ広い家に一人で住んでるから寂しいんだけどな。
「明日の朝の鐘が鳴るころに俺の家に来い。午前中は稽古だ」
「ふん。あたしに教えられることを感謝しなさい!」
いつも通りサラはつんつんして、森の温もりに入って行った。
「あ、領主のクロイとの関係を聞くのを忘れてたな」
俺は自分の家に戻りながら、一人呟く。
倒さなきゃいけない魔物がいる、か。
うーん、そんなに危険な魔物がマルクの街の森に居たか?
いや、冒険者ギルドで近年、駆け出し冒険者が森から帰ってこないことが起きてたはずだ。
マルクの街の森は深く潜るとそれだけ魔物の強さも変わってくる。
そこまで考えたところで、マルクの街の森に住む一族の事を思い出した。
「……確か、レインブルクの一族だったか」
古くからマルクの街の森の魔物を狩る一族。
もしかして、サラはそこの一族か?
サラは今何歳なんだ? っていうかあいつは体が細すぎる。
だが安物のショートソードでジャイアントスパイダーの脚を斬り落とした。
才能はピカイチだが、体がなってない。
「稽古の時に美味いもん食わせてやるか」
冒険者の中では料理は出来る方だ。昔パーティーを組んでた異世界人に料理を教えてもらったからな。
俺はそんなことを考えながら、自分の家まで歩いて行った。
路地裏から覗く何者かの視線を感じながら。
その翌日。朝の鐘が鳴るころ、いやまだ薄暗い時間帯に俺の家の扉が叩かれる。
「う? うーん。誰だよ、こんな朝早くから……」
俺はとりあえず、魔力操作をして、水面に落ちる波紋のように魔力を探る。
これは本当に便利だぞ。敵か味方か一発で分かるからな。
「何だよ。サラじゃねえか」
俺は木造建ての二階から階段を下りて、玄関の扉を開ける。
「遅いわよ! あたしが来てあげたのに!」
「あのなあ、まだ外は薄暗いだろ!」
はあ。俺はため息をつきながら、家に迎え入れる。
サラは少しワクワクした顔で家に入ってくる。
「うわ! 酒臭いわ!」
「うるせえ、家の中くらい良いだろ」
「この木彫りの像とか家具、何⁉」
「あーもう、触るな触るな」
とにかく目を輝かせて、家の中の物を触ろうとする。
子供かよ。いや子供だけどな。
「サラ、朝飯は食ったか?」
「食べてないわ」
「はあ⁉ 森の温もりのご飯は美味いだろ!」
「あたし、夜しか食べないもの」
あー! クッソ。こいつがガリガリな理由がよく分かった。
キレたぜ、俺はよお。
「サラ! そこに座っとけ!」
「え? 何で怒ってるのよ」
「良いか? 冒険者ってのは体が資本なんだ。いいから食え」
固焼きの白パンを半分に切る。
確かまだオーク肉のベーコンがあったはずだ。
「ファイアーボール」
「え? 料理に魔法を使うの?」
俺の弟子になるなら、魔力操作はみっちりやってもらう。
魔力量は少なくとも、魔力操作の能力はあって損はない。
それに普段使いにすることによって、魔力操作はいやでも上達する。
それをサラに説明すると、感心したような顔になる。
ベーコンは結構火を通す。肉汁が出たあたりで止めても良いんだがまあここは好みだな。
アイテム袋からコッコの卵を取り出して、四つ位フライパンで焼く。
なーに、簡単な目玉焼きだよ。
両面焼いてから、固焼きの白パンに庭で育てている野菜を挟んで完成だ。
トマトと新鮮な野菜があってよかったよ。
ソースはコッコの卵とお酢と油を使ったマヨネーズっていう異世界の調味料だ。
こいつが絶品でなあ。異世界人に教えてもらって食べたときは涙が出たもんだ。
「え? 美味しそう!」
「いいから食え。冒険者は食って体をでかくするのも仕事だ」
「うん!」
サラは目を輝かせて、ベーコンサンドにかぶりつく。
ああ。昔の仲間もこうやって俺の料理を食べてくれたな。
「美味しい! 中のソースとベーコンが!」
「分かった分かった」
サラは結局ベーコンサンドを三つ食った。
俺は一つだけで十分だ。
美味い美味いって言われると作ったかいがあるな。
ふむ、朝日も出てきたな。
今日はからっとした気持ちの良い陽気になりそうだ。
「じゃあ、稽古するか」
「ふん、別に稽古したいわけじゃないからね!」
いや稽古したくてこんな朝早くから来てるんだろ。
まあ見逃してやるか。俺は苦笑しながら庭に出る。
「まずは剣の振り方からだ」
続く。
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