第四話 ダメおっさん、サラの師匠になる
俺はサラの魔力波形を辿り、森の中腹部にたどり着いた。
「サラ! 何してるんだ!」
「うるさいわ! 今戦闘中、なの、よ!」
魔力波形の乱れからわかっていたが、サラは戦闘中だった。
しかも相手は八本の脚に糸を吐くジャイアントスパイダー。
マルクの街の森では珍しくない敵だ。
だが通常より個体がでかい。
ありゃあ上位種だな。
サラは吐かれた糸を躱して息を整える。
素早い動きはいいが、反射神経だけで躱している。
それだと、体力の消耗が大きいんだ。
「いいからこっちに来ないで! あたし一人でやれるから!」
サラは俺がアルトと戦った時のように魔力層を纏い、安物のショートソードでジャイアントスパイダーに切りかかる。
「おいおい、そんな安物のショートソードじゃ切れないぞ! ってマジか!」
ジャイアントスパイダーの脚は甲殻に覆われていて硬い。
だが左足の一番前の足を斬って見せた。
緑色の血が飛び散り、ジャイアントスパイダーは声にならない悲鳴を上げる。
全く、どれだけ才能があるんだよ。
俺は少し背筋がぞわっとした。
このガキは……いやサラは『英雄』になれる。
「‼」
ジャイアントスパイダーは糸を無作為に吐き始める。
まずい。これは巣をつくるつもりだ。
「きゃあ!」
サラの躱した地点にジャイアントスパイダーが吐いた糸が着弾する。
ッ! まずい。
「そんな……こんな所で……」
サラの絶望した呟きが聞こえる。
「サラを離せえええ!」
ドンッ!
右足だけに魔力を集中させて俺はサラの所にたどり着く。
俺は呪いによって全力で戦うことは20秒しかできない。
だから全力を出すのは瞬間毎でいい。
0.2秒で魔力を右足に集中させて、加速する。
後は勢いで走ればいい。
ジャイアントスパイダーがサラに右足を突き刺そうとしている。
させねえ。
——アダマンタイト製の大剣を振り上げて、全てを断ち切る。
「壱の回! 壊閃!」
「!」
大剣を振り上げてから振り下ろすまで二秒。
すぐさま、二の矢を繰り出す。
てめえは上位種。尾に毒の針がある。
「弐の回。周壊《ラウンド・ブレイク」
次の技は三秒。
大剣をスムーズな体裁きで振り回し、魔力の刃ごとジャイアントスパイダーを吹き飛ばす。横振りの一撃はジャイアントスパイダーは足で踏ん張っている。だがな。
「参の回……天壊!」
俺はあえて大剣に振り回されて宙に舞い上がり、縦回転で大剣を天から振り抜く。
ズドォン!
「てめえには七秒あれば十分だ」
ジャイアントスパイダーは俺の一撃でひしゃげ潰れる。
「……ッ!」
一瞬サラがこちらを見て、顔を赤らめる。
だがすぐに矢継ぎ早に言ってくる。
「ガンク、めちゃくちゃ強いじゃない! 何でアルトの時に本気出さなかったのよ!」
「俺の本気は人間相手には使えない。壊しちまうからな」
「確かに、あの威力なら普通に殴っただけで殺しちゃうわね」
そうなんだ。俺は時間をかけられる戦いに弱い。
そして人間相手だと、大けがをさせるからな。
だから上半身の攻撃は使えない。
アルト戦でも足払いだけだったろ?
サラはひとしきり喜んでいたが、俺を無言でじっと見つめてくる。
「こ、この糸外してよ……」
「それをしてほしかったら何で夜にこんな所にいるか、説明しろ!」
俺はサラの額を小突く。
その後大剣で糸を切った。
「馬鹿ぁ! 痛いじゃない!」
「馬鹿はお前だ! こんな夜に森に潜って! 俺がいなかったら喰われてるんだぞ!」
「……ごめん」
サラは俺が真剣に怒っているとわかると謝ってくる。
「昔はジャイアントスパイダーも安全に狩っていたの」
「は?」
「昔はママとパパがいたから怖くなかった。でも……」
「?」
俺が疑問符を浮かべるとサラは押し黙る。
これがサラが人を信用できない理由か。家族に何かされた?
だが俺はあえて続きは聞かなかった。
俺はサラの才能が惜しくて、剣を教えたいだけだからな。
なんて、強がったけどまあトラウマは俺にもあるからな。
まだその先を聞けない気がしたんだ。
気まずそうにしているサラに俺は違う話題を振る。
「サラ、剣の振り方を直せ」
まあどうせ断られるだろうと思っていた。
「……ガンクが教えてくれるの?」
俺は少し驚く。このつるぺったんつんつん少女がデレるときが来るとは。
「ああ、教えてやる。ちなみに心変わりした理由は?」
「——その、技かっこよかったの」
少しだけ心を開いて、満面の笑顔で言われた言葉は俺の胸に響いた。
ああ、あれくらいだったらいつでも教えてやる。
まあ魔物相手しか使えないけどな。
俺とサラは拳を突き合わせ、ぶつけて笑った。
次話に続く。
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