第三十話 ダメおっさん、五階層にたどり着く
俺たちは三階層、四階層を抜けて五階層までたどり着いた。
三階層、四階層は同じ草原エリアで、出てくる魔物が変わる。
だがここで詰まっていては先遣隊を助けることはできないだろ。
ったく、クソ師匠は本当に人使いが荒い。
三階層からはオークが出やがった。だがサラとラーナの無双だった。
三階層で出てきたオークとサラの戦いは見事だった。
サラはショートソードを下手に構えて、オークに手で挑発する。
あれは誰の真似なんだよ。え、俺? そんなことしたっけなあ。
突っ込んできたオークの突進を体を四分の一回転させて、重い突進を避ける。
右腕の振り下ろしが来た。が、サラは笑みを見せるとショートソードで受け止める。
あいつもう俺並にパワーあるんじゃないか?
両手に力を込めて、オークを振り払い、そのまま斬り返して右腕を切断。
斬り落とした右腕に軽々と飛び乗り、空中で二段ジャンプからの頭部を一閃。
返り血を浴びて振り返ったサラの無邪気な笑みは少し怖かった。
ラーナはもっとすごかった。明らかにサラに対抗しているのだろう。
三体のオークが草原からこちらに向かってくると否や、地面が吹き飛ばされるほどの踏込を見せて、爆走。唖然としていた真ん中のオークにスライディングして突っ込みながら右脚の腱を切る。左側のオークがラーナを捕まえようとするが、虚しく空を切る。いつの間にか跳躍し、そのオークの延髄を突き刺す。腱を斬られたオークと右側のオークはあからさまにラーナにおびえていた。
だが二匹で飛び掛かり、ラーナを捕まえようとする。俺はラーナを助けに行こうとしなかった。ラーナもまた笑っていたからだ。ヒュッと音がしたと思ったら、綺麗な半月型の回し蹴りがオークを吹き飛ばす。体重差どれだけあるんだよ。俺はあきれていたが、ラーナがちらっと殺気を飛ばしてきたのでひゅーひゅーと口笛を吹く。
真ん中のオークは回し蹴りだけで絶命していた。首元には深い切り傷。
あいつのブーツに刃が仕込まれているんだな。三匹目のオークはふらふらと立ち上がろうとするが……
「遅いです」
気配を一瞬だけ殺して、オークの死角から背後に回り込み、暗器でオークの頸動脈を切り裂く。オークたちは肉と魔石になり消えた。
「おい、ラーナ。サラに張り合うな」
「まだまだ負けませんので」
「え? ラーナの動き遅かったよ?」
「ほう?」
二人はショートソードと暗器を抜いて、威圧し合う。ったくサラはともかく、ラーナはガキかよ。だがサラとラーナを戦わせて、稽古をするのはいいかもな。俺は思考している間、リリアが間に入っておろおろしていたので止めた。
「わかった。五階層のボス部屋の前で二人で勝負だ」
「良いの?」
「良いんですか?」
「おう。いい経験になる」
間に入ったリリアに良く止めてくれたな、と伝えながら頭を撫でてやる。
なんかリリアは小動物みたいなんだよな。本当に。
リリアの目は緩み切っていた。二階層での撲殺天使っぷりは何だったんだ?
「リリアはずっといい子でいてくれよ」
そう呟くとくすくすと笑ってくれた。
まあ四階層も変わりがなかったので省く。
そんなこんなで五階層に着いた。
先遣隊の資料によれば、五階層のボスはオークキングらしい。
漆黒の魔獣に比べればどうという事はないが、配下のオークやオークジェネラルと合わせると十五体はいるらしい。通常のオークキングより強かったと書いてある。
もう外は夜なのでセーフエリアで焚火台を付ける。料理はハンバーグだ。
「ガンク殿の嫁になれば……」
なんかラーナの目線が怪しかったし、小声で何を言っているかわからなかった。
だがサラとリリアはラーナと俺の間に入って視線をガードしてくれた。
「ラーナ? 尋常に勝負よ!」
「!」
え? 何故かリリアがやる気になっている。いやあ、流石にサラとリリアが組んだらラーナは負ける……と思っていたがラーナは余裕の笑みを見せると俺にウィンクしてきた。
「じゃあ始めるか」
セーフエリアには俺達しかいない。
まあ一般の冒険者は今は入れないしなあ。
「では、木製の武器で……」
「ガンク殿、いつもの武器でいいですよ?」
「流石に危ないだろ」
「(この子たちは少し調子に乗っています。いい経験になるはずです)」
「(うーん。怪我はさせるなよ)」
「(はい)」
ラーナが小声で話しかけてくる。まあ確かにその兆しはある。俺の戦い方では、あまり人との稽古はしてやれない。残念だが、ラーナに頼むか。でもお前も怪我すんなよ。俺がアイコンタクトすると無表情から少し笑みになった。
俺たちが建てたテントから離れた広場で稽古だ。サラとリリアがコンビを組み、ラーナが向かい側で立つ。
さあどっちが勝つかな。
「初め!」
俺の合図でサラが飛び出す。後ろのリリアはサラから離れすぎないようにちょこちょこと走りながら魔力操作をしているようだ。ここまではいい。ラーナは……?
サラは鞘から引き抜いていたショートソードを上から斜めに振り下ろす。ラーナはそれを受け止めもせずに半身を引いただけで躱す。間髪入れずにリリアの魔力波形が膨れ上がり、透明な腕で掴もうとする。
「その魔法は魔力波形を読める者には通じません」
ラーナはバックステップで二本の腕を簡単に躱す。
うん、今の瞬間、転移魔法を使っていたらリリアは簡単に終わっていた。
サラが最初から突っ込むのもよくない。
サラとリリアは強くなっているが、パーティーとしての戦い方を覚えきっていない。
これはいい収穫だな。俺が感心している中、戦況が動く。
リリアは突然横に殴りかかる。
「それは残像ですよ?」
ラーナは転移魔法で一瞬だけ横に転移し、体さばきで残像を作り出した。
リリアが驚いて、硬直すると首元にラーナが暗器を突き付ける。
うん。リリアは負けだな。
「リリアは戦闘不能! サラはどうする」
「やるわ!」
俺の声にサラは反応する、が、どう転移魔法に反応するべきか悩んでいるようだ。
ラーナは暗器を指に挟み、手裏剣のような物を両指からサラに投げつける。
びくっとしながらもサラは光属性の魔力を身に纏い、ショートソードですべての暗器を落とした。
その間にラーナは追撃。暗器に気を取られたサラは鳩尾にラーナの拳を食らい、ふらっと倒れる。
うん。サラとリリアの完敗だな。サラに仕掛けられた暗器の対処だったが、暗器を捌きながらも前に突っ込む必要があった。それか、魔力層を全開に纏い、防御するかだな。サラは自分の腕を過信している節があったので迎え撃った。それはラーナを侮っていたことになる。リリアは魔法をもっと使って近づかせないようにしないとな。
それにしてもラーナは強い。人対人なら敵なしだな。
さあ、サラとリリアにどう伝えたもんかな。
次話に続く。
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